2話
騒がしい酒場のカウンターの隅っこ。
「はぁ……疲れたぁぁぁああ」
大きなため息とともに、冷えたビールを思いっきりあおる。
途端、身体中に冷たさとふわふわした幸福感が駆け巡る。
「今日もゴリマッチョの現場監督に滅茶苦茶怒鳴られたし。ていうかマジなんで異世界来てまで肉体労働してんの俺」
自分の境遇を思うと無限にため息が出てくる。
スキルガチャではずれを引いた俺は、異世界で労働者をやっていた。
毎日毎日解体現場でつるはしを振り、瓦礫を運ぶ日々。
おかげでブラック企業で培った腰痛が悪化し、今こうして座ってるのも正直きついくらいだ。
とはいえ生きていくためには仕方がないことだ。この物価がクソ高い《《チート村》》で、はずれスキル持ちの俺に出来る仕事など肉体労働しかないのだから。
「まさか、はずれスキルってだけでここまで生きるのに苦労させられるとはな……」
スキルガチャを引いて、異世界に送られた後の話をしよう。
俺たち日本人約30名は、石造りの祠の奥で横たわっていた。
目覚めてからそこを出ると、外には独特な雰囲気の村が広がっていた。
村の名前はチート村。ふざけた名前だが正式名称らしい。
この祠からは偶に俺たちみたいなチート持ちの異世界人が出てくるらしく、そんな者たちによって発展した村なんだとか。
祠から出てしばらく戸惑っていた俺たち日本人の一団だが、すぐに冒険者の集団に囲まれ強いスキルを持つ者は次々スカウトされていった。
だがまあ、ノーマルレアを引いた俺は当然売れ残るわけで。
「……とにかく、生きる為に金を稼がないとな」
そうして俺は10年ぶりの就職活動を始めた。
だが、攻撃に限らず生産系までチートがはびこるこの村で俺に出来る仕事は中々なかった。
冒険者になって雑用をすることも考えたが、高難易度依頼だらけで定番の薬草採集やらおつかいやらは殆どない。というか、この村の周りは強い魔物だらけらしいので薬草採集に出るだけで死ぬよとギルドの受付嬢さんに言われた。護衛付きの馬車に乗る金もないので、ここから離れてどこかの街に稼ぎに行くことも出来ない。
そんな中で唯一見つけた仕事が解体現場の作業員だった。給料は安いが、住み込みの寮があるのがいい。要するに、俺みたいなはずれスキル持ち達の受け皿なのだろう。
もちろん俺だって冒険者に憧れはあった。
もしかしたらレアリティが低いだけで『ランダムダメージ』は強いスキルなのかもしれないと期待もした。
だから一度、他のパーティに混ぜて貰って討伐依頼に出てみたことがある。
だが結果は惨敗。女神が笑うだけあって『ランダムダメージ』スキルは本当にはずれだった。
肉体労働で貯めた金でMPポーションまで貯めて5発ほど打ってみたが、出たダメージは殆ど1桁。武器を持たない力ステータスFの俺が殴っても5ダメージは出るのだ。射程こそかなり広いものの、はっきり言って使い物にならなかった。
そんなこんなでこの世界に来てから既に半年ほど、俺は労働者を続けているのだった。
「……だが、こんな生活とももうすぐおさらばだ。もうすぐ金が貯まる」
半年の肉体労働によって、俺は護衛付き馬車の料金を貯めた。
ここを出て、もっと安全な弱者に優しい街に行って頭脳労働か低級冒険者をして生きるのだ。
というかこれ以上あそこで肉体労働を続けたら……腰が爆発して死ぬ。
俺は決意を固め、残りのビールをぐっと飲み干した。
──その時だった。
「それで、僕の『光の剣』がワイバーンを一刀両断したわけですよ! ガハハハッ!」
近くのテーブルから、下品な大声が響いて来た。