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【9】ほんっと長い一日だった

「一番の魔導士、ですか?

それならもちろん宮廷大魔導士のアウリン=トゥール様ですが…。

無理です、彼は会わないですよ」

その若い魔術師はきっぱりと即答する。

横に立つヴァンデルベルトも、腕を組み浮かない顔で続きを引き受けた。

「転移火球をヒマリさんが思いついて戦果を挙げた時、王城議会で報告、共有したんですよ。

その時にもヒマリさんを議会に招いて相談すれば良い手が生まれるかもしれないと提案したんですがね。

あえて包み隠さずお話ししますが反対派も何人かいて。

その中心となって突っぱねたのが、まさに大魔導士アウリン=トゥールさんだったんですよ。彼の意見には王陛下でさえ耳を傾けますから」

「あちゃー、そーゆうタイプのエライさんなのかー」

ヒマリらはあの後、クリスの魔力が落ち着くのを待ち先に彼女だけ砦に戻って他の転移魔術師らの力で砦へと戻った。

重症の三代目勇者とベウストレムは回復魔術師らにより最優先で治療を受けている。

ヒマリはさっそく、国の魔導士らに会って相談したいと話していた。無論、バリアーを破壊する方法を議論するためだ。

「ええ…。私も難しいと思いますわ。

鷲鳥人や三代目さんをスカウトしたヴァンデルベルト様でさえ説得できませんでしたもの。お恥ずかしい限りです」

「うん、でも地球にもいるよー?そーゆうタイプ。いーっぱい」

「どこもそうなんですのね」

「いいよいいよ、この世界の魔術師って専門系統を研究してるでしょ。

音波系を専門に研究してる人たちに会えればいいよ」

「…音波?

なんですか?」

「うん、あのシールドね。ボク最初は熱線砲みたいなエネルギー系だろうと、プラズマか素粒子かを磁場みたいにして空中で固定した系かなって思ってたのね。マジンガーの光子力バリアーをガチで作っちゃったのかと予想してたんだけど違った。モスキート音の空気振動で膜が見えるレベルの音波なんだよ。ありえないけど、実在してたから認めなきゃいけない。だから物理も弾くし炎や気体も弾く。でも温度は遮断していなかった、ヒュージのブレスの熱を伝えていた。シンプルに振動だけなんだよ。だから、その位相を―」

つい早口でまくしたててしまうヒマリを、ヴァンデルベルトが手を広げて制する。

「音?あのシールド魔法が音、ですか?」

「うん。多分なんだけどね。超音波シールドだ。

ボクらの世界ではまだまだ研究段階で物理をはじくレベルのは…」

「いやいや、ちょっと待ってください。

音、音波?音の波?で、攻撃をはじく…、ですか?

ちょっと意味が…」

と、ヴァンデルベルトはエルマリの顔を見るが、彼女も首を振るだけだった。

「―そうか、こっちの世界だと音の概念自体がほとんど研究されてないんだ。音声で魔術詠唱するからてっきりかなり研究してるのかと思ったけど音である重要性は低かったのか。

そういやシリアリスの高速詠唱でもいけちゃうもんなぁ。

喉で空気を震わせる必要もないし、ホントに音階だけでいいのか。

でもそうなると音域を魔法で操作する基礎の研究からスタートか…。

まずいな、流石に間に合わないか…」

ヒマリがブツブツと呟く。こういった考えをまとめるためのヒマリの呟きは、シリアリスは通訳しない。

「音を固定?そんな無茶な…

そんなの、カガクでもなきゃ無理ですよ」

と、若い魔術師がため息をつく。

「カガク?

…あ!そういう意味か。聞いた?シリアリス、ボクらの世界の『まるで魔法だ』って意味で『まるで科学だ』を使ってるよ!500年後には『発達した魔術は科学と見分けがつかない』とか言いそう!

今度魔法瓶作って科学瓶って名前つけよう、あれなら簡単に作れるよ。売れるよ」

「こちらの方々には科学技術の結晶たるスマートホンなどは奇跡の産物でしょうね」

「シリアリスは隙あらば科学自慢をする。

―じゃないじゃない、これだ!これだよシリアリス!科学だ!こっちにもあるっぽいじゃんよ!科学技術が!技術者が!

―ソフィエレさん!今すぐノームの国に行きたいんだけど!お願い!」

「え?」

一人シリアリス相手にぶつぶつ繰り返したかと思いきや突然の声掛けに驚くソフィエレ。

「…ヒマリさん、ノーム研なんかに行っても仕方ないのでは…。

確かに彼らは変わった技術を持っていますが…」

「わかってる!

わかってるけど!藁にもすがるべき時なんだよ、今は!

ぶっちゃけあのバリヤーが破れないと本当にどうしようもないのはわかるでしょ。あの鷲鳥人の人たちも本当ならすごいんでしょ。バリヤー一つなんだよ。それに勝てるカードは勇者の鬼哮咆覇だけ。転移火球すら対策されはじめてる。バリアー対策諦めてゴリ押ししかないなら、ヒュージドラゴンの火炎放射が有効なら、ぶっちゃけ日本人のボクでさえも核兵器作りたいもん」

「ヒマリ、心を冷静に持ってください」

と、シリアリスは翻訳の合間にヒマリに話しかける。

「―わかってるよ、それは無しだよ。作り方覚えてないし」

一気にまくし立て、シリアリスに愚痴るヒマリを横目に、今まで黙って見ていたエルマリが助け舟を出した。

「ソフィエレはん。でもヒマリはんの思いつきは並みやあらしまへんえ。ノームはんらのとこ行ってかき混ぜてみたらえらい事になるかもしれまへん、一興ちゃいます?」

「人を混ぜるな危険みたいに…。てかノームってそんななの?

―でも、ボクはアイマル先生にも約束したんだよ。道具を作るって。

先生の言う通りだよ。作戦とかじゃないんだよ。ボクがここに来たのは、きっとその為なんだよ」

「―そうですね、そうでしたね。

一往復分ぐらいでしたら、行けます。行きましょう」

若い転移魔術師―魔導士アイマルの弟子は力強く宣言し、すぐに転移魔術の準備を始めた。


その間に、ヒマリは独り言のように、シリアリスだけに話しかける。

「ここの魔法では死人は蘇らない。切られた腕も継げない。使える回復魔法は切り傷をふさぐぐらいだった。失明した目も治らない。てことは新陳代謝を速めるよう、人体を活性化させてるだけの可能性が高いね。

傷つく前に時間を戻せるわけじゃない。部分的に時間を進めても傷は塞がるけど、どう考えても生体の活動促進と時間操作じゃ魔法技術的にレベルが違いすぎる。間違いなく細胞を活性化させる魔法だ。

それだけでも、時間を操る魔法は無さそうに思うんだ。時空を操る魔法があるなら、宇宙人はその魔法技術を得るために来たんじゃないのかと思ったけどそうじゃないかもしんない。だってあいつら、こっちを見境なしに攻撃してきてるし」

「―すいません、私には今の話がわかりません」

「うん、大丈夫。考えまとめたいだけだから。

…ねえ、シリアリス。

アイマル先生が死んだ時に―

砦の大勢が死んじゃった時に、悲しむ前にあれこれやってあれこれ考えてるボクって異常かな」

「いいえ。初めての身近な死に処理が追いつかないのでしょう。何より今マスターはとても頑張っています。それこそアイマル魔導士のためにも。(とむら)いになっていると私は考えます」

「―ありがと、シリアリス」

シリアリスは今までのように、無感情で聞き取りやすいハキハキとした声で答える。

―が、ヒマリは確信した。シリアリスはただのスマホ内蔵のスマートAIが返事してるんじゃないと。自我を持っているという事を。

砦での戦闘で逃げろと叫ぶシリアリスの声が、ヒマリの耳には残っていた。


そんなとりとめない事を考えているヒマリにヴァンデルベルトの声がする。

「―ノーム自体は攻撃的な亜人ではないので護衛などは不要なんですが…。

安全ですけど危険だから念のため付いて行ってくれませんか?ソフィエレさん」

「ええ、そうですわね。ご一緒しますわ」

「なんかよくわかんないけど、とにかくありがと、ソフィエレさん」



「…ヘイシリアリス、なんだろうね…。

いい例えが浮かばないけど、巨大なガラクタおもちゃ箱に紛れ込んだてんとう虫の気持ちだよ。

いや、これはタワーPCの中かな」

ぽかんと口をあけ、さながらニューヨークへ来たばかりのおのぼりさんのようにヒマリは周りを見上げながらシリアリスに話しかけた。

転移魔法によりノームの集落へとやってきたのだが、そこは全くの想像の範疇から外れた空間だった。

「はいヒマリ。よくわかりません。

ですが私の中はミクロン単位で計算されつくした内部構造なので虫一匹入り込む隙間もありません。美しいとは思いませんか?」

「ボクのスマホは隙あらばすぐ自画自賛する」

そこは、深さ数十メートルはある大地の亀裂の底。大渓谷の底に作られた細く長い奇妙な街だった。

いや、街なのだろうか。

ほぼ垂直に切り立った巨大な岸壁。

岸壁の間を走るつり橋、陸橋。

そのはるか上から流れ落ちる滝。

それを受け止め流れる巨大な水道橋と回る無数の水車。

何よりも岸壁中に空いた穴からあがる煙や湯気、金属を叩く音。岸壁を削ったり足したりして作られた石の高層建築物。

それら全てが雑多に立ち並び、全てが無秩序に動き、全てに意味のわからない道具だか機械だかがぶら下がり、そうやって渓谷の内部一面を構成していた。

「全体的にはファンタジー世界だけど、スチームパンクもうっかり混ざっちゃった感」

ヒマリはつぶやくが、先の方に見える崖壁で爆炎が上がりその爆音が谷中に響き反響し、つぶやき声をかき消した。

「ええ…マジで爆発じゃん、ここ。いいの…?」

そんなヒマリの言葉をよそに、以前に見たあの小人たちがわらわらと集まりだした。

「ヒューマンが来たぞ」「珍しい、ここにヒューマン来るの珍しい」「こいつ見たことある、異世界人だ」「砦にいた、異世界人」「カガクの世界?」「らしいぞ、あのUFOと似た世界らしいぞ」

口々にしゃべりながら集まってくる。

本当にあの爆発も珍しくもなんともないらしい。

中には、今日一日ですっかりボロボロになったヒマリのえんじ色のジャージを珍しそうにいじる者もいる。

たしかに他種族への警戒心という意味での危険などは全く感じないが、ヴァンデルベルトの言葉を思い出してヒマリはソフィエレを振り返るも彼女は腕を組んだまま難しい顔をして眺めているだけだった。

「あー、そう、異世界人の御幸辻(みゆきつじ)ヒマリです。よろしくね」

「ノクライマントだ」「エデバシェ・リーレ、よろしくよろしく」「マラル・カリ・ネ」「ぼく、ルイネポリト」「ワノブン・ガルモト」「ブルットーモ」「デッスウム、俺デッスウムだ」「テングストームだ」

「天狗ストームっ?!あ、ごめん、なんでもない。かっこいい名前だね。

で、ここの族長さんとか、工場長みたいな人っている?技術的な話で相談があって来たんだけど」

「いない」「いない」「いないぞ」「いないな」「それなら誰に聞いてもいい」「かまわない」「共有するから」

「仲いいなぁ。

あ、そういやマラルさんとルイネポリトさん、こないだ来てたよね、砦に」

「行った行った」「あとベラルールも行った」「そう、俺も行ったぞ」

「…ヒマリさん、よく見分けがつきますわね…」

後ろで見ているソフィエレがつぶやく。

「ルイネポリトさん、こないだチェーンソー使ってたけど、あれは圧縮空気ボンベだよね。

でも乗ってたバギーみたいなやつ。あれどんな動力で動いてるの?気になってたんだよ。あれも空気圧?」

「いいこと聞いた、異世界人」「あれ自信作、我々の自信作」「そう、あれ、牛の腱を乾かして束ねて」「収縮の魔法術式を3重に…」

ひとつ聞くと全員がべらべらとしゃべり、10の言葉が返ってくる。

早口ながら、単語単語で話すからシリアリスの翻訳もギリギリ追いついていたが。

「あ、じゃあこれフラッシュアイデアだけど、その腱ゴム動力を二つにして従滑車使って並列したらバギーじゃなく…」

話を聞いたヒマリも、思いついた事を早口でベラベラと口にしている。

「さすがヒマリさん、気持ち悪…

ではありませんわ。すごく気持ち悪…

ではありませんわ。すごく立派ですわ」

みんなで早口でわいわいと盛り上がる様にソフィエレの口からもつい本音が漏れる。

「なるほど、みんなは動かす系が好きなんだ。

こんななんでも作れるならいずれ巨大ロボットでも作れそう。人が操る金属のでかい人形なんだけど」

「ゴーレムみたいなやつか?」「どれぐらいでかい」「おまえの世界にはどんなのがある?」

「そうそう、こっちで言うゴーレム。それを科学技術で動かすやつだよ。アスタコっていう土木建機系ならあるけど、人型のロボはまだもうちょっと先だなぁ。あ、土木建機も説明しなきゃか。いやここならあるのか?ありそう」

「脳みそどうなってる?」「自分で動くのか?」「傀儡術式使うのか?魔導混ぜるか?」

「まあ、そういった自律AIよりかは人が操縦するタイプのが人気だねー。やっぱコンボイよりガンダムだよ」

「異世界人、おまえ色々知ってるな」「面白い」「ヒューマンだけど面白い」

「ボクの得意科目は漫画だからね。漫画いっぱい読んでてよかった。

ほらシリアリス、知識無双ってホントにあるんだよ」

「ヒマリの人生のピークですね」

「君また余計な一言を…。

でもわかったよシリアリス。ノームはボクらの歴史で言う錬金術師なんだ。この世界の異端なんだよ。

砦のみんなの言葉からもわかるように、こっちでの技術研究開発が異端そのものなんだ。

でもこの世界には現実として魔術があるからノームたちは技術と魔術を融合させてるんだよ。すごいね、面白い」

ソフィエレも来た当初は何が起こるかと心配げにヒマリの横に寄り添っていたが、ヒマリが楽しそうに盛り上がる様に、多少は緊張をほどいたようだった。

「ヒマリさん、そろそろ本題に―」

「そうだった!ごめん!今日みんなでドッカンバトルしたところだったんだ。

ノーム研のみんな。ここから真面目な話なんだけど。ガチで作ってほしいのがあるんだよ。

まずこのムービー見てくれる?」



「あらヒマリはん。おかえりやす。

遅いからてっきりあっちで暮らすんかと思いましたえ」

「…ヘイシリアリス。残業から帰ったサラリーマンが玄関先で奥さんの嫌味聞かされる気持ちがわかったよ」

ヒマリの部屋。

ベッドに腰掛けていたエルマリは立ち上がり、お茶を入れてくれる。

「エルマリさん、わかったよノームの人たち。すごいね。種族のほとんどがエンジニアなんだね。

みんなが心配することなかったよ、仲良くなれた。めっちゃ盛り上がっちゃったよ」

「ほほほ、さすがヒマリはんモテモテですわ。マニアな方々に」

「うるさいなぁ、オタサーの姫なら地球でもなろうと思えばなれたさ」

エルマリと並んでヒマリはベッドに腰かけ、お茶をすする。

音立てなはんな、とたしなめるエルマリが、一人っ子のヒマリにはいない姉のように思えて少し面白く、うれしくなる。

「ホンマの話、今後も何度も行くんどすやろ?」

「そうね、位相音波の研究は細かくなるし、他に頼みたいのもいっぱいあるし」

「いっそノーム研とリンクする魔導水晶板を用意した方がええんちゃいます?

転移魔法が使える魔術師は少のおすし、魔力消費も馬鹿んなりまへん」

「あ!そういやエルマリさん言ってたね、国同士をつなぐホットラインがあるって。テレビ電話がわりに魔法の水晶が使えるんだった。

うっかりしてた、聞いておけばよかった」

「まぁ明日にしたらよろしい」

「うん。鹵獲した宇宙人のスーツも調べてみたいなぁ。ノーム研行ってやった方がいいかも」

「え、ヒマリはん、あの鎧着るつもりどすか?」

「うーん、まあ、ヘルメットは被ってインターフェイスとか見てみないとなあ。

あっちがどんな事が出来るか少しでも知っておかないと」

「呪われますえ、やめた方がよろし」

「呪い、まぁ、うん、当たらずとも遠からずか。生体認証でセーフティロックとかあるよな。本人以外がかぶったらキュッ!とか。

気を付けるよ。ノームたちにもよーーーく言っておこう」

「ほなウチ、お風呂もろて休ませてもらいますえ。ヒマリはんもゆっくりお休みやす」

静かに微笑みながら、彼女らしからぬ重そうな動きで体を持ち上げてベッドから腰を上げる。

「あ、もう行っちゃうの?

―そうか、魔力尽きてクタクタなんだ」

「ヒマリはんもお休みよし。ウチら今日一日、どんだけ働いたか―」

静かな声と足取りで、ドアへと向かうエルマリ。

「そういややっと終わったんだ…。

でもこれ決戦でもなんでもないんだ。

―ただなんとか敵をしのいだ二戦目なのか…」

そう。

この日は朝にたたき起こされてから砦での戦闘、魔導士アイマルをはじめ大勢の仲間たちの死、ベウストレムに乗っての空中戦、巨竜からの逃走、ノームの谷での相談―。

全てがたった一日での出来事だった。

「そんなすごい一日を、エルマリさんボクを心配して戻ってくるのを休まずに待っててくれたんだ―」

と、ヒマリはシリアリスに小声で話しかける。

「はい、ヒマリ。良い友達が出来ましたね」

「ヘイ、シリアリス。エルマリさんと、一緒にお風呂に入る方法、口説き方、例文」

「―あなたは本当に最低ですね」

「ちょ、待ちなよシリアリス。君そうやっていつもボクを責めるけどさ。冷静になりなよ、ね?マジでいっぺん常識で考えてみなよ。

この人が日本に来たら、一緒にお風呂入ろうとしたらたとえ同性でも40万は課金しなきゃ無理だよ?明らか。でしょ?それが今ならワンチャン無課金じゃん?ね?わかるよね?そりゃ試すしかな―」

「あなたは本当に最低ですね」

「繰り返すなよ!」

「エルマリさぁーん、ボクと一緒にお風呂に入っておっぱい見せ―」

「ヘイシリアリス!!シャラップ!!なんか訳してるでしょ!!シャラップシャラップ!!」

「なんですかヒマリ、あなたがエールマリルスュールさんとのお風呂を所望したんじゃないですか」

「ヒマリはん、また発作どすか?ひとり上手病、ホンマお好きどすなあ。

―と、エールマリルスュールさんがあきれています。

ヒマリ、一人で騒がないでください」

「君なあ!」

「ほな、いにますえ」

「あ、ちょ、エルマリさん!

……あー行っちゃった」

そのままぼてっと、ヒマリはベッドに寝そべった。

とたんに体が疲労を思い出す。

走り回り、動き回り、頭を使っただけではない。壁にも叩きつけられ、地面にも落とされ、焼かれ―

「ヒマリ、お風呂に入らなくていいのですか?」

「…無理だ、寝る、寝る」

「ジャージを脱いでください」

「…てかシリアリス、こっちの世界もオンラインミーティングできるんだってさ」

「まぁ私のOMGアプリの方が優秀でしょうが。エモートやぴえんマークも出せます」

「ほら隙あらば自画自賛だ。しかもぴえんマークて。

…そうだシリアリス、魔道水晶板とスマホのOMGアプリで連動できない?できたらめっちゃ楽…」

「ヒマリ、さすがにそれは無理です。むしろ水晶板がWi―Fi対応、アプリ対応化すればいいのではないでしょうか」

「そっちこそ無茶…いやまてよ?電磁波は必ず存在するんだし電波を操る魔術を作ればいけるのか、その前に水晶板がどんなデータをどうやって転送してるのかを調べるのが先か。こないだ見た魔導水晶の感じから結局のところその場の光データと音波のデータのどちらも…まぁモニターに使えた所でそもそもアプリが無理だけど…」

だんだんと声がゆっくりになっていく。

「そうだ、充電だけしとかないと…」

ベッドに置いている、ソーラー式バッテリーキットケース。

消えない魔法の明かりで常に充電しているそれのケーブルをスマホに接続する。もぞもぞとなんとかそれだけを済ませてヒマリはそのまま動かなくなる。

「ヒマリ、私を離して寝てください。スマートホンからの電磁波による影響は安眠の妨げに―」

「……」

「おやすみなさい、ヒマリ。私もスリープモードに移行します」

「……」


<つづく>

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