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【8】いや誰だって気が動転することはあるよね

「エルマリ!!後ろに火球かなんか爆発させろ!」

「ほんまヒューマンはエルフ使いの荒い…!」

突然のヘルガオルガの指示にもエルマリは淀みなく魔法を唱える。

ベウストレム後方に大きく炸裂する爆炎。ダメージではなく煙幕のように、大きさを稼げるような爆発。

後ろから迫っていたUFOには目隠しとなり、さらに前から来ていたUFOをすんでで躱しながら大きな尻尾を叩きつけるベウストレム。

結果、その2機は見事に衝突する。

「イエー!!」

「グオオおーー!!」

ヘルガオルガとベウストレムは息ぴったりに雄叫びを上げた。人馬一体ならぬ人竜一体の竜騎士にヒマリは目を輝かせた。

「すごい、あと10機まで来たよ」

「おう。でも正直そうそう当たらねえぞ、相手もこっちの手の内を読んでる。

どうする」

竜をこれほど完全に操り空中戦をこなすヘルガオルガの見立ては正しい。

今までの攻撃も全て、ベウストレムの回避能力とそこから生まれる隙を狙うものばかりだった。全て、素早く倒すつもりだったのだろう宇宙人側の戦法と噛み合って生まれた戦果だった。

やはり彼女の予想通り、正面衝突を機に敵は戦法を変えてきた。

生物であるドラゴンには及ばないとはいえUFOだ。

空中静止してただ一頭のドラゴンを包囲し、ゆっくりと円環に回り始める。直径50メートルの不吉なメリーゴーランド。

「くっそ!」

攻撃が始まる前に、と、ヘルガオルガがその輪から出ようと突進をするがサークルは縮むことも広がることもなく、ドラゴンを中心にして移動する。

攻撃が始まった。ランダムに、ゆっくり廻るUFOがまちまちに攻撃をする。

躱すしかない。ひたすらに躱すしかない。

「おいヒマリ、エルマリ!」

「へえ、ヘルガオルガは回避に集中しとくんなはれ!」

「これドッヂボールで一人残った時のやつ…」

ヒマリは呟きつつ上下を含む周りを見回す。

うまく円陣を崩せる場所か何かが無いかを考える。やっぱり回避しながら降りて、地上の丘や岩山を利用するしかない。

ヒマリは焦りながら見廻すが―

「そんな都合いい物がそうそう…

都合いい物…

エルマリさん、あれ何?!」

「あれ?…なんどす?!」

サークルUFOの1機の上に、何かが出現する。

人だ。

20メートル以上離れていてもはっきりとわかる。大剣を振りかざした戦士が、マントをはためかせながらUFOへと着地する。

「…は?!

何あれ!なんで空中に!

…ってかなんかデカくね?」

ヒマリの混乱は正しい。

数メートルの大きさのUFOに立つその戦士は明らかに大きい。

ガンガンガンと大剣で切りつけるごとに彼の乗ったUFOが揺れている。

機体が削られ、バランスを崩して崩壊するが、戦士は消える。

「あれオグル?!

オークよりデカいよねエルマリさん!てかオグル消えたんだけども!あっちだ!あっちに出た!」

ヒマリが叫ぶ。

「転移魔法?!

味方なの?!まぁそりゃそうか、オークが仲間ならオグルも仲間だ!」

「ヒマリうるせえ!回避集中できねえ!」

「ヒマリはん、あの方はそうやおへん、三代目はんどす」

「三代目?何の?落語?歌舞伎?」

「ヒマリうるせえ!」

三人が騒いでる間に、オグルの戦士は2機目を破壊しようと力ずくで叩き切っていたが、そこにバリアーが張られてしまったらしく、UFOから落ちそうになる。

他のUFOも連携し、同時にバリアーを張る。転移させないつもりだ。

「あぶさん!」

叫んだヒマリの前に、茶色みがかった何かが―大男だ―大男が横いっぱいに現れる。

ドラゴンの背中に縮こまって膝立ちで無理やり乗っているが、それでもヒマリの身長ほどもある大男だ。

「ヒマリうる…うっわ!!バランス!!なんだよ!!」

振り返ったヘルガオルガは目を丸くする。

「てっめェ勇者!あんたまで乗るんじゃねえよ!!マジで重すぎる!降りてくれ!」

「え?!この人が勇者なの?!オグルじゃん!」

「今時オグルとか差別すんな!ババア!」

「ババあッっっ?!」

勇者と呼ばれたオグルの肩にくっつくように少女が乗っていた。

ショートヘアを抑えるヘアバンドには二本角を模した飾りがついている。

中学生ぐらいのその少女はヒマリを敵意むき出しで睨みつけていた。

「なんだよ?ババアにババアつって悪いの?」

「ババッ…!!

また言った!!ねえまた言った!こいつババアって言った!」

ヒマリはヘルガオルガの腕をゆすって主張するが、ヘルガオルガは楽しそうに笑っていた。

「ヒマリ、お前でも言い返せない事あんだな」

この短時間でヒマリの性格をよくわかってしまったヘルガオルガが笑う。

「ちっくしょう、おめーどこ中だこらー!うちのヘルガオルガパイセンマジヤベーんだかんな?ガチヤンキーなんだぞ?ほら、ヘルオルパイセン!こいつシメちゃってくださいよ!」

「うっせえバーカ、自分でやれよ」

「まあヒューマンもドワーフもオグルも似たようなもんですよってに。

エルフ以外は全部どなたも蛮ぞ…

フィジカルにお元気な方々ですさかい。どなたが勇者やらはったかて大差あらしまへん」

「…この人ほんと…。

京都弁失敗だったかも。京都人への風評被害がヤバい」

「いいから、また来るぞ!勇者、あんたマジで降りてくれよ」

「言われなくても!」

と、オグルにくっついている少女が答える。

「ザウム、次のタイミングで行こう!」

黙って頷く大男を見上げながらヒマリは、もし戦ったらデコピン一発でマジで死んじゃうなと思いながら声をかける。

「三代目さん、中央のちょい後ろ!四角い板部分の真ん中狙って!あそこに船乗りが乗ってる!」

「そう、三代目はん、クリス。この人が異世界人どす。ヒマリはん言います。お見知りおきやす」

エルマリの言葉を吟味したのか。

短い沈黙の後、三代目勇者はヒマリの目を見てやはり黙ったまま頷いた。

数を減らし混乱していた戦闘機UFOは、三代目勇者以外の援軍がない事を理解したらしく、今までの円陣を整え直して同じ攻撃を再開する。

三代目の転移を警戒しつつもドラゴンを縛り付ける事を優先したらしい。それを見、勇者と一緒にいた少女が魔法を唱えると二人の姿が青い輪に包まれて消える。

「よし、軽くなった。

ヒマリ、勇者がやらかすタイミングで突っ込むからな、落ちんなよ」

「わかっ…うわ、もう始まってる!」

ヒマリが音に釣られて振り返ると後ろに陣取るUFOに勇者の大剣が突き刺さる。

ヒマリはついさっき目の前で見たそれを思い出す。

刀身だけでもヒマリの身長程もあり、厚みに至っては7センチ。そんな戦車の装甲板のような、鉄塊のような剣を自在に振り回す3メートルの巨人。

「あーー…なるほど、ゾッドってあんな感じなんだ。ガッツも吹っ飛ぶわけだ」

「ヒマリはん、集中!」

エルマリの声と、ヘルガオルガの雄叫び。

UFOはまちまちにバリアーを張るがそこを避けて三代目は次のUFOへとジャンプする。

「って!!

―自力でだよ!転移魔法じゃない、自力でジャンプしてるよあの人!空中で八艘飛びしてる!義経だ!地球の勇者の技だよ!」

「ヒマリはん、集中しよし!」

ジャンプしながらその勢いでUFOを切りつける。

UFOの左側、羽根の部位を切り落とし、返す刀でコクピット部位に叩きつける―と同時に、ドラゴンの前方で爆炎が上がった。

UFOが三代目の攻撃に気を取られた隙を狙い、ヘルガオルガはドラゴンの炎を見事に命中させていた。

戦闘機UFOは円陣を崩す。めいめいに離れ上昇するが―今は完全に異世界側のターンだった。

逃げるUFOの真上に三代目が転移し、自由落下よりも速く真下へと突進する。

―どうやっているのか。彼は空中を蹴っているのだ。

そのままコクピットを一突き。あの戦闘機UFO相手に逃げる暇すら与えない。突き刺したUFOを蹴とばし、次のUFOへと飛び移る。もし落ちても転移サポートがあるからとはいえ、大胆すぎる戦い方だった。

そこで、ジジジジという音がそのUFOを包み込む。バリアーのタイミングがあってしまった。

転移転移!と思わず叫ぶヒマリ。

だが三代目は、肩のクリスは、そのまま突撃をしている。

三代目が右手を突き出し、獣さながらの咆哮を上げる。

その突き出した大きな掌から青白い光が放たれた。魔法だ。丸太のような太い魔法の光球が放たれた。

コオオオオン、と洞窟で音叉を叩いたかのような音が空に響き渡り、直後、UFOの周りを光る破片が包む。

「―うっそ!!バリヤー割れたよ!!」

「あれが鬼哮咆覇(きこうほうは)か!すげえ、さすが三代目勇者!」

「すご…。

勇者専用の魔法と剣技を身に着けたオグルってことかぁ。この世界の勇者無敵じゃん」

「敵さんもさすがに逃げよりますな。

ヘルガオルガ、どないどす?まだいけます?うちさすがに魔力尽きてますえ」

「いや、もうドラゴンブレスもあと1、2回がいいとこだな。

ヒマリ、行くか?」

「行こう、三代目さんのサポートさえできたら残り5機いけるよ」

「そうだ…な…」

ヘルガオルガの言葉が止まる。

上空。

戦闘機UFOの逃げる先―雲の中に太陽が出現した。強烈な光が生まれた。

「忘れてた…大型UFOだ!」

ヒマリがこの世界へ来た最初に見たように。

空を覆う雲が割れ、切り開かれてゆく。直径40メートルの巨大なUFOが姿を現わす。

「―そうだ、ID4ビームでバリアーが張れなくなってたのを回復させてたんだ!」

「ヘルガオルガ、三代目はんが!止めんと!」

「マジだ、勇者のやつUFOに乗って向かってやがる!

無茶だ…、いや、いけるのか?」

「無茶だよ!勇者のあの魔法でも大型UFOの出力はケタが違うから!」

「とりあえずほっとく訳には行かねえか…」

ヘルガオルガの指示でベウストレムがバサリと羽ばたき、三代目を追う。

勇者は大型UFOへと逃げる戦闘機UFOの一機に乗っている。

バリアーを張れないタイミングなのだろう。反転の曲芸飛行をしても落ちない三代目をどうすることも出来ず、UFOは飛んでいる。

まさに母親にすがる迷子のように戦闘機UFOは大型UFOへと近づく。

無音で、悠然と浮かびこちらを見下すように降りてくる大型UFO。

その外しようのない巨大な的に向けて、三代目勇者の手から鬼哮咆覇が放たれた。それを追うようにベウストレムもファイアーブレスを当てる。

―ヒマリの予想通りの結末。

全てを包む直径50メートルものバリアーはあっさりと、おもちゃのようにこちらの切り札をかき消してしまう。

命中した時のゴウン、という音だけがゴウン、ゴウン、ゴウン、と重低音と鳴り響き続けていた。

「ダメだ、今すぐ逃げよう、ヘルガオルガ。ボクは逃げなきゃいけないんだよ、絶対に砦に帰らないと!」

「―ヒマリはん?」

「いや、そりゃそうだな、行くぞ」

ドラゴンを反転させ、降りようとした時、空が光った。ヒマリは見ていた。大型UFOが、戦闘機UFOにバリアーが復活したタイミングで三代目に向けてビーム砲を放った瞬間を。

かろうじてその巨大な剣を盾にして直撃は免れていた。吹き飛ばされ、大空へと吸い込まれていくオグル。

「ヘルガオルガ!三代目さんが!落ちる!!」

「何?!」

その瞬間、ヒマリらの間に勇者コンビが現れた。

「転移間に合ったんだ、良かった」

「良かねえ!地上まで転移しろクリス!」

「無茶言うな、転移魔術は連発できないのよ!」

「いいから逃げて逃げてヘルオル!大型来てる大型来てる!光ってる!」

「言われなくても降りるしかねえよ!重てえんだよ!」

ヒマリは両目を閉じてヘルガオルガに必死にしがみつく。

落ちるように急降下するドラゴンの背中から、気を失った勇者が落ちないようにエルマリが何か魔術を唱えている。

息を吹き返したかのように、残った戦闘機UFOももちろん追いかけて熱線砲を乱射する。

ヘルガオルガは振り返り振り返り、ギリギリで回避させていた。

「―駄目だこんなもん!追いつかれちまう!」

あっという間に森が目の前に迫る。地上すれすれを滑空するドラゴン。後方、左右で爆炎が上がる。広大な森もあっという間に通り過ぎ、岩肌の山岳へと差し掛かる。

ヒマリは手持ちの魔法で何かできないかと必死に考えるが、しがみつくのが精いっぱいで手を伸ばすことさえ出来ない。

そしてついに、みんなが乗るドラゴンが、熱戦砲の爆音と共に激しく揺れる。

「ベウストレムッ!!!」

ドラゴンのピギイという悲鳴とヘルガオルガの絶叫。

ベウストレムは腰から青い血をまき散らしながらも、なんとか滑空し、背中の全員を落とさないように岩肌に腹部を削りながら軟着陸をする。

「ちっくしょう!!」ヘルガオルガは叫びながら、ぐったりと倒れたベウストレムの首にしがみつく。かばうように、覆いかぶさるようにしがみつく。

音もなく迫る戦闘機UFO。容赦の無い速度ですぐそこまで迫ってきている。

彼らにしてみれば、味方を大勢倒した憎い異星人をついに追い詰めたのだ。

「逃げなきゃ!!ボク逃げなきゃ!!砦に!!」

「ヒマリはん?!」

「ダメなんだよ、死んでも逃げないと!わかったんだよ、あのバリアーは音波の一種なんだよ!これだけは死んでも伝えないと!

あのバリアーは壊せる、きっと壊せる、位相中和(いそうちゅうわ)さえすれば!」

ヒマリのパニックのように叫ぶ声が、山にこだましたかのようだった。

山を揺らしたかに思えた。

―そんな訳はない。そんな訳は無いが、山が揺れる地響きだけは本当の事だった。

「山が―揺れてる?」

と、クリスは不安げに空を見上げた。

追いついた大型UFOが。その周囲に浮かぶ5機の戦闘機UFOが、油断なく迫っている。

「―あきまへん、ここは―!」

はっとした顔。いつも冷静さを崩さないエルマリが白い肌をさらに蒼白にして声を上げた。

地面が、揺れた。

激しく、小刻みに揺れた。

周囲一面からもゴゴゴゴという振動が響き渡る。輝き見下ろすUFOすら気にならない程に、森が、崖が、山が、揺れていた。

轟音と共に、山の岸壁が割れる。

その場の誰もが―恐らく宇宙人も含めて誰もの思考が停止する。

その割れた崖から巨大な塊が舞い上がる。バサリと、今までヒマリが見ていたベウストレムの羽ばたきが、はるか天空で、しかしあのベウストレムの物よりもはるかに大きくはっきりと見えた。大きすぎる。見上げるヒマリらを影に覆い尽くす翼が舞い上がった。

「そうだ、レギンナドスの!ここはヒュージドラゴンの棲家だ!」

「うわ…」

ヒマリは言葉を失った。怪獣映画さながらの雄たけびがビリビリと空気を揺さぶる。本当に、戦闘機UFO全てがビリビリと揺れていた。

もう一度バサリとその両翼は羽ばたかれた。

ヒマリが、クリスが吹き飛ばされそうになるのを、倒れている三代目の腕にしがみついてなんとかしのぐ。

レギンナドスと呼ばれたヒュージドラゴンはもう一度雄たけびを上げ、大型UFOへとのしかかった。バリアーごと踏みつけた。

その両翼を広げると、直径40メートルの大型UFOをも影に入れるほどの巨大なドラゴンは、バリアーなどお構いなしにたったひと羽ばたきでそのまま大型UFOを地面へと叩きつけた。

また、地面が、岸壁が割れ、砕け散る。

どれほど虫の居所が悪いのだろう。ヒュージドラゴンは両足で踏みつけた大型UFOを、それでもバリアーに守られ無傷の大型を見下ろしながら胸いっぱいに息を吸い込む。

「…みんな伏せろ!!」

ヘルガオルガが叫ぶ。

ゴウ、と、一瞬で森が焼けた。離れたヒマリらの場の空気を熱風が20度上昇させた。

バリアーごと焼かれる大型UFOはすぐにバリアーの中で爆発をする。

とたんに守っていた光る壁は消滅し、直接の炎により完全に爆発、炎上を始める。

その周囲の小型UFOなど翼の衝撃波で墜落し、既ににスクラップと化していた。

気持ちよく眠っていた所をたった2か月で起こされた怒りを、彼は力強く天に主張する。子供むけの怪獣映画のように、ガオオオと吠えた。

「―ヘイシリアリス、恐竜と竜だと竜の方が絶対恐いじゃん?なのになんで恐竜が恐竜で竜が竜なんだろうね、フツー逆じゃん?この言葉作った人は竜は恐くないとでも―」

「ヒマリ、それは今しなければいけない話でしょうか?」

「シッ!ヒマリはんシッ!!」

ぼそぼそしゃべるヒマリにエルマリが本気で、しかし小声で叱りつける。もちろん巨竜には聞こえてはいないだろう。だが彼―レギンナドスは何者かが自分の棲家の周辺でケンカしていたのに気づいていた。焼き尽くした円盤以外にもまだ不遜な虫がいる事を知っていた。

ヒマリらのはるか上空から、ずっと上に離れていたはずの竜の頭を、その長く太い首がぐいと一気に下げて全員の目の前へと運ぶ。

爬虫類の縦棒のような瞳がヒマリら全員を見下ろす。

空飛ぶ円盤を破壊しただけでは腹の虫が治まらないらしい。目の前の虫も全部潰さないと許せないらしい。それほどに良い夢でも見ていたのだろうか。

眉間に深いしわが刻まれ、そのまま巨大なマズルの端が歪み、引き裂かれていく。

がぱり。

その場の全員目の前いっぱいに、口が開かれた。

あれほど大きくて頼りになるベウストレムすらひと噛みでかみ砕くだろう、洞窟のような口が開かれた。

その洞窟の奥から、絶望だけを告げる(うな)り声が()(あふ)れ出した。ただそれだけの事で、また空気が揺れる。巨大な口が煌々(こうこう)と輝く。

炎を吐き出す予兆だ。

洞窟は大きく空気を吸い込む。

今度はヒマリだけではなくヘルガオルガでさえ吸い込まれそうになる。

しかし全員が両耳を抑えるだけで動くこともできない。

「クリス!!転移転移転移っ!!!」

ヒマリが叫ぶ。シリアリスが最大ボリュームでその通訳を再生する。

「待て待て!!!クリス全員だぞ!!ベウストレムを忘れんなよ!!」

「ドラゴンごとの転移なんてやったことないわよ!!」

「いいからやれえええ!!」

ヘルガオルガの絶叫すらかき消される巨竜の咆哮の中、ヒマリらは魔法陣の青白い光に照らされたかと思うと空中に投げ出され、ドサドサっと落ちる。

「いっ…!!尻っ!!尻っ!!尻アリス!」

尾てい骨から落ちたヒマリは這いつくばり、お尻を抑えて喚いていた。

「森の中…

助かったのか?アタシら?」

「レギンナドスの声聞こえるけど、あの距離なら大丈夫でしょ…。

てかあんたのドラゴンもちゃんと転移できたんだよ?まずは私を褒めなさいよ」

「そうだな、マジ良くやったよクリス。サンキューな」

「尻ぃぃ…」

クリスの言う通り、まさに間一髪。転移魔術は見事に成功したらしい。

ヒマリら3人にドラゴン、勇者コンビ。全員がそろっている。

さっきまで鼓膜をやぶらんばかりのボリュームだった巨竜の雄たけびが今は遠くからの地響きのように聞こえるだけだった。

「…それでも天変地異みたいに怖いけどね」

まだお尻をさすりながらヒマリがつぶやく。

「ねえ、あの巨大ドラゴンって宇宙人退治の仲間にできないのかな?」

「ヒマリ、お前馬鹿だろ。今お前が言った通りだ。アレは天変地異だ、天災だ。そういった存在だ。

仮にこの国のアタシら人間もエルフもみんな殺されて宇宙人どもがここに国を作った所で、ヒュージドラゴンはただそのままあそこに生きてるだけだ」

「確かに…。あれは宇宙人だって簡単には手出しできないだろうなぁ」


<つづく>

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