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【4】ロリパイアってだけで星5

基本魔法を一通り教えてもらい、さらに砦の施設を案内され、そして夕べ会えなかった主だったメンツへの挨拶。

ヒマリが部屋に戻る頃には砦はとっぷりと夜の闇に包まれていた。

「ヒマリ、お疲れ様です。そしてエールマリルスュールさんはもっとお疲れ様だったことでしょう」

「…うん。正直そう思う。今度コンパウンドボウの作り方教えてあげよう」

地球でそうしていたように、ヒマリは部屋に戻るなりどさりとベッドへと倒れこむ。

「―まあ何にせよ、こちらの状況は大体わかった。分かったけどさ…ボクにどうしろって話だけどね。

150年ぶりの異世界召喚人がボクだってよ。

前の異世界人は大陸全土の多種族戦争を終わらせたんだって。重いよ、荷が。

科学知識って言われたってただのJKだし。相手宇宙人だし。ヤバいチートもらえたわけでもなし。シリアリスが生意気になったぐらいだもんよ」

「でもヒマリ、以前よりも活き活きしていませんか?」

「う、そうかな。そうかも。

―シリアリス。あのアイマルさんって人、良い先生だね。あんな先生ボクも欲しかった」

「はい。筋の通った話し方をする方だと思います。人間にしては」

「一言余計だよ、君は」

ヒマリはゴロリと仰向けになると、少し元気なく続けて言う。

「…ヴァンデルベルトさんもエルマリさんも大事にしてくれてるけど、調子乗りすぎて嫌われないようにしないとなぁ」

「……。ヒマリ、大丈夫です。ここは日本でも地球でもありません。学校でもありません」

「どこだって一緒だよ、人間なんて」

そこで、ノックの音がした。

ヒマリのどうぞ、の声で開かれたドアからは夕食を持ったメイドを先頭に、エルマリとソフィエレが連れ立って入ってきた。

鎧を脱いだ二人は、ヒマリにはいかにも落ち着いた大人の女性に見えた。シリアリスの言う通りだ、やっぱりここは地球でも学校でもないんだな、とヒマリの気持ちが少し明るくなる。

「せっかくの少ない女性メンバーですから。一緒に食事でもいかがかと思いまして」

「もちろん喜んで。

元の世界だったらこんなレベル高いコンカフェ一時間で7千円プラス消費税だよ」

「コン、カフェ?」

「なんでもないよ。

んで今日のメニューは何だろ。ゆうべは宴会だから肉!肉!ビール!!だったからなぁ」

「まぁ、ゆうて砦ですさかい。それもヒューマンの。

干したお肉とか干したお芋さんとかですわなぁ。クィッパさえ恋しくなりますわ」

「クィッパって、エルフ料理?」

「オレンジピールにアプリコット、ココナッツとか混ぜた保存食どす」

「ドライフルーツ系なんだ。エルフっぽい」

「もうちょっとええお野菜とかお花とか食べへんと。

ヒマリはんせっかく魔力キャパだけはエルフ並みに大きいのに、ドワーフみたいに逞しい戦士になってしまいますえ。

ねえソフィエレはん」

「……いいから、お食事にしましょう!ほらヒマリさんもお座りになって。

エルフ様の口に合う物は難しいにしても―」

「ヘイシリアリス、エルマリ節全開だね」

「はい。ヒマリの案内が余程面倒だったのかもしれません」

ソフィエレはメイドにテーブルを示しながら、ヒマリに話しかける。

「―ヒマリさん、お食事以外で何か欲しい物があったら言ってくださいね。手配いたしますから」

「うん。

あ、そうだ、スマホポーチが欲しい。要る。革で丈夫なやつで、胸元にぶら下げるやつ」

「ヒマリ、裏面をメッシュにしてください。放熱にしてください」

「なるほど、お尻側を開けるんだ。さすが尻アリス」

「……」

「なんだよ、黙らないでよシリアリス」

「……」

「ヴィデノーヴェ、ブルアスパァーヴィメム。フラウリーノヒマリ」

「ほら、シリアリス、出番出番。訳して訳して」

「……」

「フラウリーノヒマリ、プリキオ・ヴィ、マールムラソーラ?」

「ほ、ほら!訳してってば!ソフィエレさん何て言ってんの?ごめんってば!」

「……」

「おいーす、なんじゃうるさいのう、この部屋」

そこに、いきなりドアが開いたかと可愛い声が響く。

「やっと訳してくれた…。誰だろ、なんかめんこい幼女が入ってきたんだけど」

「あらファルリエット。起きまして?」

「そりゃ夜じゃからな。

で、なんじゃこの部屋は。空き部屋じゃなかったか?」

全く遠慮なく、ずかずかと歩いてベッドにどっかと座る幼女。

大あくびをしながら、おしりをポリポリとかいている。

せっかくの整った顔立ち、薄紫のかわいらしいくせ毛を全て台無しにしてしまう程にずぼらを絵に描いたような態度だった。

「ヒマリ、親近感を覚えていますね」

「うん、シリアリス。あたり」

「…ん?誰じゃそいつ」

「ほら、話したじゃないですか。異世界人を召喚するって。昨日来たんですのよ」

「あー、アレかー。今度の異世界人は女か」

幼女は大あくびをしながらヒマリをぼけーっと眺めている。

そんなソフィエレらと話しているその様子を黙って見ていたヒマリがようやく口を開いた。

「え?!エルマリさん、もしかしてこの子が例のヴァンパイア?ボクの隣の部屋の?」

「へえ、そうどす」

「えーー?!

うっそ、ここって魔族がめっちゃ強いって言ってたじゃん。こんな普通に出てくるんだ。なんかカッコイイ登場演出的なのないの?」

「あ、ヒマリはん余計な事を」

「言ってしまいましたわね」

「―待て待て!異世界人!!待ってろ!!そこでな!待ってろ!!な?!」

突然、叫ぶ幼女。

それまでの寝ぼけ顔が嘘かのように幼女は目をキラっキラに輝かせて部屋を飛び出して行く。

さしものヒマリもあぜんとして見送るが、出て行った入り口からすぐにもう一度顔をのぞかせたかと思いきや、バン!と、閉め忘れた扉を強く閉めて行っただけだった。

「…え?何?今ロリパイア出てく時めっちゃ顔輝いてなかった?」

「ヒマリはん、堪忍しとくれやす」

「え、何が…」

バンッ!!と、全員が飛び上がる勢いで扉が開かれたと同時に。

何十匹ものコウモリがバタバタと部屋になだれ込んでくる。

「え?!え、何?!」

驚いたヒマリが二人を見るも、二人とも呆れ顔でめんどくさそうに爪とかいじりながら座っていた。

そんな三人をよそに、見る見るうちにコウモリは三人の前、部屋の中央へと集まり、徐々に一塊りとなる。

このあたりでヒマリも事を理解した。

「あー…なるほど」

―ひとつに集まったコウモリは、暗闇が人の形として生み出されたかのような、そこに何も存在しないかのような漆黒の人の形となると、ゆっくりとその頭を持ち上げた。

3人が黙って見守る中、その闇の人影は水中に撒かれた墨のようにふわりと霧散(むさん)する。

そしてそこには仕立ての良い真っ黒な服を身にまとい、コウモリの翼を持つ闇の住人の姿となる。

それはあまりにも(おぞ)ましい、呪いを彷彿(ほうふつ)とさせるもの―

―のはずだった。事前のやり取りさえ無ければ。

さっきはキャミソール一丁だった事を見ていなければ、その分厚く黒いゴスロリ衣装にマントもかっこよく見えたのかもしれない。

「フハハハ!!貴様が異世界よりの旅人か!」

「あ、はい、まあ」

「我が名はファルリエット・リドホルルリイカ・アルマス=スルヤシャルヤボニイエヤ!」

満面の笑顔で、かわいらしいほほを紅潮させて幼女は宣言する。実に楽しそうに。

「すごいね、この子。お名前ちゃーんと言えたね」

「ヒマリはん、そら自分の名前どすえ。自分がうちらの名前覚えられんからて失礼すぎますえ」

「あーうん、それはそうだ」

「我こそは!えー、魂の開放を求めし、えー、彗星の化身にして、漆黒の闇を貫き、えー、」

「がんばえー」

「ありがとう!ありがとう異世界人!

えーと、漆黒の、闇を貫きし、えー、なんだっけ」

「漆黒の闇を貫きし暗黒に染まりし異界の門を開きし堕天せしめし牛めし焼き飯者、とか?」

「あ!!それ!それいい!!もっかい言って!!」

「え、マジで」

「ほんにこの人いつもこの調子なんどす」

「ええ、隙あらばコレをやらかすんですの」

「異世界人ー!もっかいー!もっかい言ってー!」

「はいはい、お姉ちゃんの名前は御幸辻(みゆきつじ)ヒマリだからね。ヒマリって呼んでくれる?」

「ふははは!我の事はファルって呼ぶえいよを貴様にやろうぞ!異世界人!」

「ヒマリね。

まぁさっきのコウモリ演出で本物のヴァンパイアだとわかったけど、この子何歳なの?」

「確か300歳ぐらいですわ」

「本物のヴァンパイアが厨二なのか。しかも300年厨二やってるのか。やべーな」

「漆黒の闇を貫きし、なんだっけ」

「なんだっけ。お姉ちゃん覚えてないよ、ファルちゃん」

「なにをー?!我は年上ぞ?!」

「ねえ、ファルさんちゃんは吸血鬼なんでしょ?血を吸われたらやっぱボクも不老不死になるの?」

「なるけど、なんかアホの子みたいになるぞ」

「…マジでか。絶対吸わないでよ」

「我とて眷属なんか欲しくないわ。

あとなんかちょっと違う感じになるぞ」

「違う感じってなんだよ」

「この我を崇める的な感じになるっていうか、なんでも我の言うこと聞くぞ。ケーキ買ってこいとか」

「そうですわね。そこは眷属になるわけですからね」

「そうどすなあ。ゆうても魔族ですさかい。この大陸に10人もおらん存在どす。ファルさん見てたらつい忘れてまいますけど」

「眷属だからで済むのかー。やっぱ倫理観が違うなぁ、異世界は」

「どの口で。

ヒマリはん見てたらウチらかてそっちの異世界は相当に、こう、エキセントリックなんやと感じてますえ」

「あ、ボクだけ見て地球のこと決めるのはやめた方がいいと思うよ、自分で言うのもなんだけど」

「だといいんですけど」

「ソフィエレさんまで言うようになってきてるぞ」

「私もヒマリさんがどんな人物か見えてしまっていますもの」

「ボクの事はいいんだよ!それよりこの子ってマジで強いの?」

「そうですわね。

この大陸がこんな状況になってもヴァンパイアら魔族が協力的ではないのもそれが理由ですわ」

「そうどすなぁ…。何があろうが魔族はんらは個人個人の力で生き残る自信があるんでっしゃろな」

「ええ、そう思いますわ。魔族は地下世界に生きているから直接被害を感じにくいこともあるでしょうけど。やっぱり自負がそうさせるんでしょうね」

「ククク…

そう、我こそが闇の支配者にして強き強さが、強くて…あれ?」

「自負ゆうてもこんなんやのうて」

「おいエルフ、こんなんてなんだこんなんて!耳にハチミツ塗るぞ!」

「ほんにこの人は」

「ええ。黙って座っていれば絶世の美少女ですのに。もったいない」

「ファルさんは本当に昼間動けないの?実際みんな戦力的にあてにしてるみたいなんだけど」

「あの忌々しき陽光の、えー、太陽の明かりが明るくて、我が焼かれて、」

「はいはい、肌が焼けるから無理なんどすな」

「そう、それ」

「ねえエルマリさん、この合法ロリ強いって絶対ウソでしょ」

「おま、お前!面と向かってこの我をバカにするなど許されざる行為だから許されない!」

「進次郎構文じゃん」

「何じゃそれ」

「それマスターすると税金で豪遊できるよ」

「いいな、それ。練習する」

「しちゃダメ」

こうして、長かった二日目の夜は更けていった。


<つづく>



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