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【34】異世界なめんな!!

「よーしシリアリス、液晶に外の様子出して!」

「ヒマリ、液晶ではありません。魔導水晶です。魔導水晶モニターです」

「…え?ウソでしょ?まだ続けるのかよそのくだり。

ヘイシリアリス、今後魔導水晶モニターを液晶と呼称する」

「ここはコクピットですし、水晶は液晶ではありません」

「機械用語にこだわりが強すぎるんだよ、君は。怖いよ。

…お、映った映った、テレビ」

「魔導水晶モニター」

ヒマリの座るコクピットの前にしつらえられた、3枚の特大水晶板。

贅沢なつくりだが、当然の装備だった。異星人相手の戦いでは窓を開けるなどありえない事なのだから。

キュン、というかすかな音を立てて水晶は谷の様子を映し出す。

大魔導士一団による詠唱は進んでいる。

ヒマリらのロボットが立つ魔法陣はまばゆいばかりの強い光を放っていた。

渓谷が青く照らし出されている。岸壁にしつらえられたノーム工房の、居住区の窓々。大勢のノームが見守っている。

ロボットのまわりには6頭のドラゴン。7人の竜騎兵。9人のエルフ、人間、ドワーフの魔法戦士。22人の鷲鳥人の勇士。

ロボットから見下ろしてもなお頼もしい彼らの姿。

「―あと16秒で転移魔法の詠唱が完了します。

魔導水晶モニター、魔術干渉により一時的に停止します」

「シリアリス。今回は準備が長かったね、さすがに」

「そうですね。まさに最終決戦ですから。がんばりましょう、ヒマリ。

―大魔導士らによる転移魔法詠唱が完了、転移ポータル出現します。

出現いま。

転移、成功しました」

「ガクンと来た!

浮いてる浮いてる、ジェットコースターのてっぺんのアレだよ!」

「魔導水晶モニター再起動します」

「…うおおおお、こえーー!雲の中にいるよ?!」

「現在高度2132メートル、積層雲です。

自由落下が始まります」

シリアリスの適格なアナウンス。外ではゴウゴウと激しい風切り音が響いていた。

ビリリと微振動を続けるコクピット内部。金属製の箱の中であってもその落下の恐怖は充分すぎるほどだったが、ヒマリはそれどころではないと考えないようにする。

「どんぴしゃ!母船真下!!雲の下に見えるよ、母船!でけー!」


王国大魔導士の集合による、巨大な転移魔術。

宇宙人の技術にも存在しない、完全な不意打ちを実行する作戦。どんなレーダーにも絶対に感知不能であり、こちらの行動も部隊編成も一切予測させない―魔法でもない限り―。

王国中の残りの魔力電池全てを、それこそ個人研究魔術師のものまでかき集めた、魔導士らの一度限りの総力作戦だった。

―これが異世界側の最後の切り札の3枚目だ。


「現在2024メートル、1967メートル…GPS衛星が恋しいです」

「周り、ドラグーン飛んでる…!すごい…。

―まずい、シリアリス」

「はい、母船の周囲にバリアーの発生を確認しました」

「一瞬だよ!何あれ、明らか分厚いし!嘘でしょ、音波振動なのに分厚いよ!どんな原理だ!」

「母船の高度計測に変化なし、高度1318メートルを維持しています。

母船周囲にドローン型UFO7機、戦闘機型UFO36機確認」

水晶から見下ろす空。激しく雲が上へ上へと流れていく。

その中で、ヒマリらの周りを飛ぶドラゴンたちが、鷲鳥人たちが母船を守るUFO群目掛けて急降下を始める。

ドラゴンの吐く炎に包まれるUFO。エルフの放つ銃がバリアーを破壊する。鷲鳥人の投げる槍が小型UFOのコクピットに刺さる。

UFOからは激しく熱線が発射される。

ドラグーン隊の役目はヒマリロボが母船へと突入するまでビーム砲の攻撃から守ること。文字通り、盾となり槍となり、ドローンUFOや巨大母船の熱線からヒマリロボを守り、援護すること。

どんなジェットコースターよりも怖いはずの状況だが、ヒマリはその自由落下の速度があまりにも遅く感じた。

1秒でも速く母船に穴をあけたくて仕方がなかった。

「ボクらも行くよ、シリアリス。お願い」

「はい。ジャミング、波長データ解析、同調完了しました。バリアー破壊音波砲発射します。

ヒマリ、第一声です」

「おお!

すうううう……

異世界舐めんなあああああ!!!!!」


ヒマリの口からは雄たけびが。ヒマリロボの口からは野球ボールほどの光りの玉が。


ヒマリロボの口に仕込まれた音波増幅装置から放たれたその光る玉が、まっすぐマザーシップへと向かう。

ヒマリは息を飲み、遠ざかっていくその玉をじっと見つめる。

キン、と音が聞こえた気がしたが、それは気のせいだっただろう。

だがそれは確かに、巨大な母船の絶対の自信に、針の先ほどのわずかな穴をあけた。

それは誰にも見えないほどの小さな穴だった。

―そしてその穴から亀裂は一瞬で巨大母船を覆うバリアー全てへと広がり、粉々に砕け散る。

アスファルトに落ちたガラス板のように、まさに粉々に砕け散った。

全長190センチの大長剣を天へと輝かせ、ヘルガオルガが叫ぶ。

「イセカイナメンナ!!」

ベウストレムが、他のドラゴンが吠える。ドラゴンに乗る全員が、鷲鳥人たちが、一斉に雄たけびを上げる。

「「「イセカイナメンナ!!」」」

巨大な人型の鉄人が、加速度的に甲板へ向けて落下する。

その巨人の肩に乗っていた三代目は、クリスの転移魔法で先に甲板へと移動する。

「高度1390メートル、着艦します。あと、スマホ舐めんな」

「また土壇場でいらんこと言うしっ!」

どすんと激しい音を立て、ロボットは着地するが、全くビクともしない。

巨大なヒマリロボがちっぽけに見えるほどの巨大な甲板だった。

「ショックアブソーバー有効。着艦完了」

「―よっしゃ!今ぜったいここでオープニング曲流れてる!!流れてるね!!勝ち確じゃんね!!」

「ヒマリ、横から戦闘機タイプUFO来ます」

「わわ、わ、ホントに来てる!これ、避けてロボ!」

しがみつくように操縦桿を握り叫ぶヒマリ。

熱線の爆発で容赦なく揺さぶられるコクピット。

響く轟音にヒマリの耳がしびれあがる。

やはりジェットコースターのように揺れる機体の中では飾りの操縦桿でも十分役に立っていた。

「ヒマリ、コクピット外部装甲には特にイージスと同等の処理が施されています。冷静に」

「わ、わかった!」

「ヒマリ、甲板に穴をあけてください。パンチです」

「うん、うおりゃああああUFO野郎めえええええ!!!!」

ヒマリの絶叫。

ヒマリロボの、大げさなまでの振りかぶったパンチ。

パンチではなく「ぶん殴る」だ。

「…うお、すっげえ!ホントにパンチ出た、でものど痛いよコレ」

「ヒマリ、歌声で動かすと()えますよ」

「無理だよ!!地球の男に飽きたところだよおおお!!!!

…てかあんた()えるとか人間の心わかる系だっけ」

「心なんてわかりません。スマホですから。

しかしどんな絵が映えるか、エモいかについては人間よりも詳しいですよ。スマホですから」

「なあああああるほどおおおおおお!!!!!

…ひーー、コレしんどい!」

「ノーム研から連絡です。もっと本気で叫べ、心から叫べ、だそうです」

「わかった、よーし…

誰が引きこもりだあ!!!!ちょっと学校行ってないだけだあ!!!!!アホおおおおおお!!!!!」

「仮称ヒマリロボ、最大出力出ています。甲板外装に穴が開きました」

「いひ!

よっしゃ!もいっちょいくよ!

通学電車きらああああい!!!!痴漢撲滅うううううう!!!!!!!」

周囲で炸裂する熱線やドラゴンのファイアーブレスの中、ヒマリは気合いを入れてロボットの大きな手で母船の甲板ハッチらしき外壁を掴みひっぺがした。

誇らしく掲げるように、ヒマリロボはそれを大きくぶん投げて吠えた。バリアー破壊砲を拡声器がわりに、上空へ向けて叫んだ。

「もう大丈夫だから!もう降りて、みんな!!任せて!!」

お礼を言うように腕を振り回すヒマリロボ。激しく戦う両軍全員に響き渡るヒマリの叫び。


あっと言う間のぶつかり合い。2分足らずの交戦。

甲板で暴れる巨大なヒマリロボだが、最初の一発以外は一度も攻撃を受けていない。

ヒマリの思っているものよりも遥かに高い解像度で、勇者とこの巨大なゴーレム突撃の意義は理解されていた。

ヒマリと勇者を守る事が兵士として最重要な役割だと理解されていた。

残ったのは3頭のドラグーンと、5人の鷲鳥人。

ドローン型や戦闘機型のUFOは半分に減っていたが、それでもそれらUFOや母船本体から発射されるビームが空を照らし続けている。


―少しでも早くその場を去ろう。

ヒマリは振り返る事なく、どうなっているかもわからない母船の中へと躊躇なく飛び込んでいく。

20メートルもの巨体が、みんなの力で守られ無傷の巨大ロボが、それよりもはるかに巨大な母船に一瞬で飲み込まれる。

その穴の上空を、ベウストレムは最後まで離れがたく旋回していた。



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