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【32】USAマジで意味あんじゃん、とヒマリは思ったのであった

「中佐、なんかさらに軍人増えてるよね。ノームの谷なのに」

「ああ。BBDのための徴兵だけじゃない。王都側からの援軍という名目で集まってきたんだよ。

あっちにも大型UFOが出没して指揮系統がやられて行き場の無いのが集まってきたのさ。

それだけならいいんだが、生き残った貴族やらが口出しをはじめてる」

「ヴァンデルベルトさん、大変だねー」

「そうだな。まあその苦労こそが中間管理職の役目だ。俺は一般企業は知らんがそんなもんだぞ」

「あー、プロジェクトリーダーか。

でもヴァンデルベルトさんはホントに有能なリーダーだったから納得かな」

「ヒマリ、社会人でもないくせに知ったような口をききますね」

「いつもの事じゃん」

「自覚あるだけいいですが」

「お前、いつもそんな風にスマホに突っ込まれてたんだな」

「…まあね。中佐しみじみ言わないで」

「何にせよ、あいつの心労には同情する。

頼んでた兵站もこのドサクサでやっと入ったが、遅いんだよ。

初戦前にこそ欲しかったんだが。まぁ戦争ってのはいつもそうだから仕方ないがな」

まさにそこにヴァンデルベルトが現れる。

「いたいた、中佐。オペレーションBBDの最終報告と相談が」

「おお、頼む」

「じゃあボク行くね」

「あ、ヒマリさん、何かあったら遠慮なく僕かソフィエレさんに言ってくださいね」

「うん、ありがとう」


今までのサンドリアス砦は遊軍のようなものだった。

だからあんな混成部隊でも、異世界人が指揮官でも良く、そしてそれがこの極限の戦争には上手くハマっていた。

あくまで日本の女子高生に過ぎないヒマリにはそれですら仰々しい物だったが、ノームの谷に来てこの5日で、軍の雰囲気は様変わりをした。

それは舞台を砦から谷に移したからではなかった。

こうして谷の底を歩いていても、見知らぬ兵士らが、騎士団がそれぞれのテントを中心に集まっている。

その中をヒマリのような異世界人で、アジア人が歩いているとさすがに目立つ。

そして何よりも、周辺諸国も巻き込んで突貫で進められたマザーシップ撃沈のための作戦が発動しようとしている事が最大の理由だった。

「なんかこれ、最初の日思い出すよ。アウェー感やべえ。

…ヘルガオルガどこだ。打合せがあんだけど。マジで居心地悪いよこれ」

「ヒマリ、明らかに指差されて噂されていますからね」

「いや君もだよ」

「異世界人というよりは宇宙人撃退チームの中心人物の一人としての噂が聞こえてきます」

「お!ボクがカッケー美少女センターキャラって言ってるってこと?」

「もちろん言っていません。

―何故ヒマリはそんな自虐的な質問をするのですか?」

「そうかそうか、みんなまさに美少女主人公キャラだって言ってるのかあ。まいったな」

「ヒマリ、誰も言ってません。誰も。言っていません」

「…あ、ヘルガオルガ居たよ」

「いましたね。騎士団の方々と話しています」

「そうかあ…ヘルオルもアマゾネスヤンキーのくせに立派に王国騎士なんだっけね」

「はい。来たばかりの騎士団に現状を共有しているようです」

「…あれは入りにくいなぁ…」

「数少ない友達が別のリア充な仲間と話してるわけですからね。ヒマリには絶対入れませんね」

「…うるさいなぁ。邪魔しちゃ悪いから今はあっち行っとこう」

「そうですね。

ヘルガオルガさんに見つかってヒマリもこっち来いよ的な事を言われたらキョドるしか無いですからね」

「うるさいなあ!」

「『えへへ、なな、なんすか?』」

「なんだよ!真似すんなよ!!

…でもそうだよなあ。ヘルガオルガ、ああ見えて王国騎士団でたった3人しかいない竜騎兵(ドラグーン)だもんね。超エリートじゃん」

「ヒマリ、あれこそが美人主人公キャラですね」

「うるっせえよ!」

怒りながらも、本当にヘルガオルガの視界に入らないようにこそこそと、いそいそとその場を離れるヒマリに声がかかった。

「ヒマリはん」

「…ほら見ろほら見ろ!ボクにだって声かけてくれるこんな美人の友達がいるんだぞ!すごいだろ!」

「私はスマホですよ。スマホ相手に何のマウントですか」

「さすがヒマリはんはいつでも元気よろしいなあ。

ほんで、一応教えとこ思いましてな。ほれ、あの人が宮廷大魔導士のアウリン=トゥール・ルートヴィガドリンはんどす」

「…ああ、前に言ってた。王国一の魔導士だよね?」

「そうどす。今回の作戦で動いてくれはります。

今回規模の転移ポータルの構築、それも魔法道具減衰保護を施して開けるのはあの人ぐらいのもんどすからなぁ」

大勢の魔導士や、さらに大勢の使用人、下人が囲んでいる。いかにも偉い人の扱いであり、いかにも偉そうに見える。

「良くわかんないけど、日本だとなんかの大臣とかそんな感じなのかな…。偉そうだけど実際エライんだろうし。

大魔導士って言うから白い髭のおじいちゃんキャラ想像してたけど思ったより若い、3、40歳ぐらい?」

「おや、ヒマリはんは犬猫の年齢がわかるタイプどすか?うちにはむずかしおす」

と、にっこりとほほ笑むエルマリ。

「…だよね。そういやそもそもアイマル先生のお弟子さんだったっけ。若いわけだ。

―エルマリさん。正直ボクさっきまで結構ふわふわしてたんだよね。人は増えたけど、ほとんど兵士ばかりだったから。彼らを見てやっと、こう、BBD作戦が進んでる事が実感できたよ」

「おや。ヒマリはんが引き締まった顔したはる。決戦前に雪降らすんやめとくなはれや」

「…異世界でもその嫌味あるんだ」

エルマリは楽しそうに笑っている。いつものように軽口を合わせてくれているんだと、決戦を前に少しでも彼女らの日常を演出してくれている事に、それを楽しんでいる事に、ヒマリは気づいていた。


「今、大陸全土を覆う未曽有の危機は、150年前の大災厄をもしのぐものでしょう。

だが我々は今こうして国家、種族、氏族、思想の隔たりを超え、集まりました。

この世界の全ての者が肩を組み、異世界人の知恵と友情を武器にするならば、あの異星人にでさえ、勝利を確信しています。

その為には―」


ノームの渓谷の底にある中央大広場。

近隣諸国から集まった混成部隊…と言えば聞こえはいいが、残存部隊が集まっている。

そこで総指揮官として、ヴァンデルベルトが出撃前の演説をしている。

その横には異世界人である中佐が立っているが、一部の貴族・騎士を除いて誰も黙って聞いている。

もちろん砦からの戦士は全員が直立不動で傾聴していたが、集まってきた他国の兵士らもそれに倣っている。実際に最前線でUFOと戦い、敗北してきた彼らだから。最後は砦を破壊されたものの、それでもこれほどに踏ん張っているサンドリアス砦への敬意があるのかもしれない。


砦を脱出し、ノーム研究所について分かった事。撃墜したUFOのコンソールに浮かぶ文字をシリアリスの推測による翻訳で、スケジュールらしき数字とそれが8進数であること、そしてその時間を地球時間に変換した時間までは簡単に解析された。そのスケジュールは二日後である今日の13時24分。

ヒマリと中佐らが考えたのは、この大陸で最大国家であるこのヴァル=ブルガ王国王都への最終侵攻ではないか、という事。

それを聞いたヴァンデルベルトら砦の騎士団や合流した王国の将官らが色めき立つよりも先に中佐は断固阻止しなければいけない、と強く宣言した。

砦の放棄を決定した事とは似て真逆の内容。

だが、中央都市が無くなれば組織だった反撃も不可能になる、すなわち大陸は完全に敗北するからだ。

中佐にとってどちらも同じ目的の為の決定。少しでも温存した兵力をひとつ所にまとめての適切な反撃。それだけだ。

だがそれは異世界の戦士らの信頼を強める一言だった。


「―私からはこれ以上言うことはありません。中佐」

短い演説を終えた騎士団団長は最後の締めを中佐へと振る。

前に出た中佐はごほん、とアメリカ人らしい咳払いをし、並ぶ全軍を一度眺めてから口を開いた。

「―この戦いで、大陸全土を侵攻する宇宙人との雌雄が決する。そう、諸君の働きで、大陸全氏族の命運が決まると言っていいだろう。諸君らが2時間持ちこたえてくれれば、我らの勝ちだ。諸君らの稼ぐ1分1秒が、この世界全ての未来にかかっている。諸君らこそが、この世界の歴史を守る戦士だ。

―諸君らの健闘を心から祈る!オペレーションBBDを発動する!」

「「「U!S!A!」」」

中佐の号令に、砦の戦士団が一糸乱れずに鬨の声を上げた。

それは、渓谷の壁に反響しあい、さらに大音響となり、ずっと止む事はなかった。



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