【30】諦めたらそこで宇宙戦争は終了だからね
「へえ…、この子が…あのカガクの板ですの」
「あのカガクの板に入ってたって事か?コイツが?
…カガクって不思議な魔法なんだな」
「すごいでしょー。シリアリス、ソフィエレさんとヤンキーさんに挨拶」
「子供扱いしないで下さい、ヒマリ」
「あら本当ですわ。聞き覚えのある、ヒマリさんと異世界語で話していたあの声ですわね」
「ほなシリアリスはん、今後はウチらともよろしゅうに」
「はい。こちらこそ宜しくお願いいたします。お話できてうれしく思います」
「おおう、ヒマリの身内とは思えねーな。頭良さそうだぞ」
「何さ、どーゆう意味さ」
バリアー破壊銃とエルマリの魔法で追撃の戦闘機タイプUFOを追い払うことに成功し、バギーを中心にしたしんがり部隊は半日かけ、その半分以上が無事にノーム渓谷へとたどり着いた。
ヒマリ、エルマリとソフィエレを、先に避難していたヘルガオルガが出迎えてくれていた。
「お、中佐!いたいた!ヘーイ!イエアー!」
「おおヒマリ、遅かったな。無事か?」
「忙しかったんだよ!大活躍だったんだよ!そりゃあもうね!ボクって美少女魔女っ子だから!」
「嘘どすえ。この子グズりまくってさんざ人さんに迷惑かけとっただけどす。あかんたれにも程がありますえ」
「うっわ、とうとうエルマリさんのオブラート切らしちゃったよ。いつも消費させてごめんね?」
「ほんにウチ疲れましたよってに。休める場所先探してきますえ」
「ええ。本当にお疲れ様でした。私はヴァンデルベルト様と合流しますわ」
「おお、アタシも行くわ。じゃあ中佐、お互い無事でよかったな」
「ああ。およそ半数がたどり着けた。…上出来だろう」
ノーム渓谷の底。
砦側からの坂道を下り落ち延びた砦の兵らが集まっている。ノーム以外の種族が来る事は滅多にない場所で誰もが落ち着かない様子だが、ヒマリの通信網で緊急避難受け入れを聞かされていたノームらは受け入れ準備をしてくれていたらしい。
先行して到着していた騎士団と中佐は、場所の整理や点呼を取っていた。
「ヒマリー!!」
うれしそうに、しかし半泣きで走ってくるファルをヒマリはどすこいのポーズで抱き留める。
「ファルさんも無事で本当に良かったよ。
―でもなんか、今、この、胸の谷間に顔突っ込んでるのが、なんか…怖いんだけど。昨夜までとは違って」
「何故ですか、ヒマリ」
「…うん、まあ、そのね。マイルドに言うとプロポーズされたんだよ、ファルさんに」
「それはおめでとうございます」
「え?そんだけ?突っ込みなし?異種族とか同性とか」
「我々スマホから見たら男も女も同じ生物です。猫も人もカジキマグロも同じような物です」
「…なるほど、確かに」
ヒマリと、見たことのない少女が日本語で会話している事に気づいた中佐が怪訝な表情になる。
「…どう?中佐。この子すごくない?」
ヒマリはニヤニヤと、シリアリスの肩を抱いて中佐に話しかける。
「その子、今日本語で話していたか?避難民だろう?」
「違うよ、スマホだよ。ボクのスマホ修理したんだよ」
「ああ?何言ってんだお前」
「お久しぶりです、スタンレイ中佐」
「おお?!英語か!本当にお前、スマホか?スマートAIか?」
「はい。ノーム研で修理していただきました」
「…まさに魔法だな」
「でしょー。シリアリス帰ってくるんなら苦労してエスペラント語覚えなくって良かったよ。損しちゃった」
「ヒマリ、少しは凝りてください」
「ああ間違いない。そいつはお前のスマホだ」
「やっぱりツッコミでわかるんだ。
あ、そんで中佐。早めに相談したいんだけどね」
ファルをだっこしたままヒマリは手近な座れる場所に座り、中佐に話しかける。
ノームの公園の椅子は中佐には座れず、中佐はテーブルに腰掛ける。
「…中佐は、あのマザーシップが本当の最後の、全部の母船だと思う?」
早速、中佐とヒマリの地球組はすべき話を―これまでの情報の答え合わせを始める。
「―ああ、おそらくな」
「でもあのマザーシップ、でかいとはいえ、星間移民船にしては小さすぎるよ。
本船は重力圏には入れない宇宙空間専用の巨大な星間往還船で衛星軌道上に待機してて、あのマザーシップは重力圏に入るためのあくまで上陸艇とかだと思うんだけど」
「いや、それならこんなバラけた突入は戦略的におかしい。
他の大陸の様子からもこの規模のマザーシップを一隻ずつが襲来してるようだからな。おそらくはそんな巨大移民船を建造する暇もないほどに急激に惑星が滅んだんじゃないか?」
「かもね。なにせ水棲人類と陸棲人類が一緒に来てるんだもん。あのエイリアン勇者も入れて、3種類の知性体がだよ」
「そうだな。あいつらが仲良く暮らしてるならあんなに兵器が発展してるわけがない。
あの小型母船規模で連中の惑星を脱出した、緊急避難の避難船による船団だろう」
「そうか、だから母船ごとに他の大陸に現れたのかな。日本の母船がここの大陸を、隣の大陸にはアメリカの母船がって」
「ああ。占領した後での土地問題のつもりだったんだろうさ」
「でも、なんでそんな数で無理してまで侵略しようとしたんだろう」
「一つは、技術に、主にバリアーに絶対の自信があったのか。事実、今にもこの大陸の全氏族が壊滅寸前だしな」
「うん、もう一つは?」
「それは、連中がヘルメットをしている事だ」
「ヘルメット?っていうと?あと、ファルさんボクにしがみついたまま寝ちゃってるんだけど」
「…お前とは真面目な話ができんな」
「これに関してはボクは悪くない」
そう言いながらヒマリはファルを起こさないようにそっとシリアリスに預ける。
「奴らがヘルメットをしてるという事は、奴らにとってこの星の大気が合わないという事だ。すなわち地球も、だな」
「…そうか!テラフォーミングの必要があるのか!」
「そうだ。テラフォーミングをするという事は、奴らか、この星の生物のどちらかが滅ぼされるという事だ。連中は原生生物との共存はできない」
「あ!そうか、スペースハウンド!あれはマスクしてなかった!あんなに強いのに生物兵器として二戦目からずっと温存してるのはテラフォーミング無しでも動ける生き物として貴重だから、実験生物としても必要になるからなんだ」
「なるほど、そういう事だろうな」
「そうか、宇宙人もその連れてきた動物も少ないからドーム都市から始めて少しずつ拡大する気かぁ。気の長い…」
「それでもやらなきゃいけない。
―奴らには奴らの世界の貴重な生態系を維持する義務がある。知らない星の原生生物を全て滅ぼしてでも復興させる義務がある。同じ状況なら俺たちだってそうするだろうさ」
「…うー…わかるけど…でもなんとかならないもんなのかな…」
「やっぱりお前は頭はいいがジャパニーズのスクールガールだな。滅ぼす側に立って考える事が出来ていない。
別種が手を組めるのは自分たちが味方に見えるぐらい、もっとでかい敵が出てきた時だけだ。
今のあいつらの3種族のようにな。
それにこの世界の亜人らのようにな」
「…そうなのかなぁ…」
「まあ何にせよ、大ピンチだが、大チャンスだ。
どうやってマザーシップを探し出すか、呼び出すかと思っていたが―」
「だね。むしろ姿を見せてくれたんだもん。ラッキーだよ。あそこの高さにくぎ付けにさえできれば、異世界軍でもチャンスはあるよね」
「そうだな。まずはヴァンデルベルトに走り回ってもらわないとな。それから軍の再編成からか…。当分寝る暇も無さそうだ」