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【12】中佐に保証されたってコネにもなんないし

―翌日。

翌日は中佐とヴァンデルベルトとの今後の作戦会議となっている。

ヒマリと中佐の地球組は会議室という広間に入るが、騎士の二人はまだ来ていなかった。


この砦ではヴァンデルベルトを中心に主要メンバーで行われる会議は珍しくない。

この、これまでの敵対種族同士さえも集まり力を合わせなければいけない特殊な事態。その部族ごとの垣根をとりはらう建設的な会議を行う事で、多種族の混成部隊であるこの砦がまとまる為に大きな意味を持っているという事に、ヒマリも気づいていた。

きっと他の国や都市では連携も出来ないまま宇宙人にやられているだろう事も想像ができる。

「―こっちの世界も砦の状況も大体わかった。

見せてもらった動画で敵宇宙人の規模も大体わかった」

「そりゃ良かったよ。ボク様もがんばった甲斐があるってもんだ」

「いや、主にスマホだろうが」

「うぐ…」

「しかもお前、昨日の軍事ミーティングの時はスマホ置いて逃げようとしただろうが」

「いや…でもちゃんと残ってボクも話聞いたじゃんか」

「知ってるんだぞ、お前スマホに怒られたんだろ、あの時」

「なっ?!」

「スマホの貸し借りは良くない事だとかスマホに説教される奴ぁ地球でお前だけだぞ」

「…ヘイ、シリアリス!そんな事中佐にバラしたのかよ!」

「はい、通訳のついでに言っておきました。今後ヒマリが私の貸し借りをしないためにです」

「裏切者ぉ…」

「ヒマリ、私のマスターはヒマリだけです」

「ぐう…可愛い事言ってごまかしやがって。喜んでごまかされるけど」

「またそのAIと会話してるのか。程々にしとけよ」

「いーじゃんか。シリアリスはただのAIじゃないんだよ」

「ああそうだ、そのスマホの翻訳アプリも俺は今日から無しでいい。お前だけで使え」

「え、ウソ?!もう言葉覚えたの?中佐!たった二日で?!」

「基礎だけだがな。

エスペラント語は母音も少ないしラテン語に似てるから俺には覚えやすいんだよ」

「だからって…。

あ!!

いやでも、ほら、シリアリス余力あるから!いけるよ?翻訳するよ?まかせなよ!」

「いいえヒマリ、余力はありませんし、私が二人分話し、私が二人に日本語と英語に翻訳しているため誰もが混乱しています。中佐の分は中佐にお任せしましょう」

「シリアリスう…そこをなんとか」

「おいヒマリ、AIと何話してるんだ」

「え?いや、えへへ、別に?」

「中佐。ヒマリはヴァンデルベルトさんたちには地球人はエスペラント語を覚えられないから翻訳機である私を使う事は恥ずかしい事ではない、と言っていました。それが嘘だと発覚しないよう中佐を騙そうとしています」

「何?本当か」

「…ヘイ、シリアリス。今また英語でなんか中佐にバラしただろ」

「ヒマリもエスペラント語を覚えましょう。英語も覚えましょう」

「うっさいなあ、ボクはやればできる子って占いBotにも褒められたことあんだぞ」

「じゃあやってくださいヒマリ」

スマホ相手に日本語で口喧嘩をしているヒマリを、中佐があきれ顔で眺める。

三日だ。彼もすっかりヒマリの性格を理解してしまっている。

「しかし、俺もスマホ持ってこれたら良かったんだがな。

―仕事を終えて家に帰ったところで急にこっちへ連れてこられたもんでな。スマホを持っていなかったからな」

「ごめんなさいってば。てかボクが呼んだんじゃないってば」

「ははは、中佐もすっかりヒマリさんの扱いがわかったようですね」

ヴァンデルベルトが笑いながら会話に入ってくる。ソフィエレを横につれて、会議室へと入ってきた。

「まぁヒマリさんもこれでも頼りになるんですよ。中佐も可愛がってあげてください」

と、騎士はヒマリの肩にぽんと手を置いた。

「…ヴァンデルベルトさん、ボクどっちかってゆーと中佐側なんだよ?異世界人だからね?言っとくけどボクここに来てまだ一週間だって知ってる?」

「あ、言われてみれば…。

もうずっと昔から居る気がしてました」

「ああ…そういえばそうでしたわね…。忘れてましたわ」

「ソフィエレさんまで」

「ふふ。

ではお二人ともお待たせいたしました。会議を始めますわ。よろしい?」

「ああ。

最初に聞いておきたいんだが、ヴァンデルベルト。あんたがこの砦の指揮官という事であっているのか?

騎士だろう。領主はいないのか?」

「それはですね…。

ご指摘通り、砦は国王直轄で派遣領主殿がいるにはいるんですが…」

騎士は少し口よどんで見せる。

「まぁぶっちゃけますが、砦が優先的攻撃目標にされてると分かって逃げました」

「何?どうしようもないな」

「え、中佐、それって変なの?」

「政治家が住民をほったらかしにして全部軍人に押し付けて真っ先に疎開したようなもんだ」

「うわー、なるほどそりゃヒドい」

「しかも僕はここの派遣領主殿の騎士ではなく、僕も僕の騎士団ごと王都から派遣されてきてるだけだからややこしいんですよねえ」

「そいつは大変だな。それでオークやドワーフやら異種族までもまとめてるのか。大したもんだ。

―そういやあのエルフは本当に長寿なのか?映画みたいに何百年も生きるのか?」

中佐のふと思い出した質問に、ヒマリが代わりに答える。

「そうだよ、エルマリさん240歳ぐらいだってさ」

「人間で言うと何歳ぐらいなんだ?」

「中佐。それ聞いたら多分『あなたがエルフで言う何歳か答えやす』って言うよ。エルマリさんは世界の中心がエルフだと思ってるから。アメリカ人みたいに」

「うるせえぞヒマリ」

「あれ、そういえば中佐。さっきからずっとこちらのエスペラント語を話してますね。話せないんじゃないんですか?」

「あーあーあー!それはいいから!!会議続けようぜ!!」

ヒマリの叫びを、中佐は腕を組んだまま楽しそうにHAHAHAと笑う。

「じゃあはじめるか。

―ヴァンデルベルト、まずは聞かせてくれ。この世界に望遠鏡あるか?監視に使える気球は?」

「望遠鏡?」

と、ヴァンデルベルトとソフィエレはヒマリに視線を移す。

「ああ、遠くを見る道具だよ。

中佐、こっちは眼鏡どまりで望遠鏡も顕微鏡もまだらしいよ。遠見の魔法があるから不要だったのもあると思う、発明されてないみたい。でも望遠鏡は今作ってもらってるから大丈夫だよ、さっき言ったように眼鏡はあるから調整だけですぐにも作れるよ」

「お、えらいぞジャパニーズ」

「ボクもいちいちスマホでデジタルズーム使ってらんないからね。

あと気球はねー、それも一応作ろうと思ってるんだけどね」

「ほう」

「ここの世界って石炭じゃなく魔導熱晶って魔術の燃料がメインなんだよ。

瞬間的な熱量は石炭よりも高いみたいだけど、石炭と違って長期保存が出来なくて量産ストックがないんだよ。

今のこんな状況だとますます熱晶確保が難しくて。

そもそも、熱晶使って安定した熱量出すのがどうしても専門家のコントロールが必要らしいし。

あとほら、このへん平野だから風も強いから気球は難しそうでさ」

「なるほどな」

「何か月かあったら魔導水晶と風操作系魔術と併せて無人の遠隔監視ドローン的なのも作れると思うんだけど、まぁホント何か月もかかると思う」

「…なるほどな。」

「な、なんだよ中佐」

「いや。わかった」

ふいに、鍛え抜かれた米国軍人に見据えられヒマリは焦りを隠せなかったが、その様子を横で見ている騎士の二人はなぜか楽しそうに笑った。

「まぁせっかくの機会ですからね。災い転じて、という訳じゃないですが、魔術師ギルドだけじゃなくノーム研やドワーフ工房に我が王国の資源を優先して回してあれこれ開発してもらっていますよ」

「ね、中佐。戦争ってどこの世界でも技術発展するチャンスなんだってさ」

「そりゃあ、な。予算も国から出るからな。

その技術で一番大事な話なんだが、ヴァンデルベルト。この世界に時計はあるか?」

「ええ、ありますよ。王城の塔や大聖殿の塔についてますよ。この砦には無いですが」

「ああ、なるほど。惜しいな。

魔法でもなんでもいいが、分単位で共有できる個人個人が持てる時計が欲しい。転移火球よりもそっちが先だ」

「なるほど…作戦に必要なんですね。

でもさすがに、個人が持てる時計なんて不可能ですよ」

「俺の世界だと電気があればクォーツ、それ以前でもゼンマイを使って作られていたんだが、よく判らんな…。

おいヒマリ、懐中時計の作り方知ってるか?」

「無茶苦茶言うね、中佐。そんなの設計図無しで出来る女子高生なんてDIY系ゆるアニメの主人公でもいないし。

それよか、ボクがノーム研と連絡に使ってるこれ見て。

ドワーフの職人に頼んで魔導水晶を薄くして四角に削り出してもらったんだよ。タブレットぽく使いやすくしようと思って。

ここの世界、水晶投影の魔術は汎用的なのじゃなく一か所とだけリンクした映像描写なら結構簡単な魔法術式で行けるんだよ。要するに電話機じゃなくホットラインだね。

だから小さい水晶を薄く削って、その大聖堂とかの時計盤と映像だけリンクさせたらいいんじゃない?」

「ああ!なるほどな、時計を端末化するのか。ヒマリ、お前頭いいな」

「えへへ、もっと褒めていいよ」

「ヒマリ、お前頭いいけどバカだな」

「なっ?!」

「ハハハ、よくわかった。

ヒマリ。お前は将来研究職に就くといい。向いてるぞ」

「え、何それ?なんで?」

「知らない事が放置できないタチなんだろ。

そんな奴は集まって何かを徹底的に調べて突き詰めると面白いかもしれんぞ」

「なんでだよ、ボク普通のJKだよ」

「お前が普通なのか、ジャパンは。怖いな」

「なんでだよ!まぁゆーてニートだけどさ。ニートでぼっちなんて今どき普通だし」

「ニート?お前引きこもりなのか?なんでだ、お前みたいなやつが引きこもる」

「スクールカーストの発祥地はおたくの国でしょーが」

「うん?なお解らんな。

他のスクールガール相手にお前が怯むのか?

日本のスクールガールで中佐の俺にこれだけ無法を言いまくれるヤツなんて居ないだろうが」

「やー、まぁ、ほら、中佐はもう友達だから」

「嘘つけ、お前初対面の時からそんな態度だったぞ」

「だっけ」

「なんなら終わったらそのままアメリカに来てどこかの大学にでも入ればいい。なんなら俺の家にステイしろ」

「飛び級で?買いかぶりすぎ」

「そうか?

まぁいずれにせよ、こちらの技術を理解した上で地球技術を合わせて最良の道具の開発、これはお前にしか出来ない。

ヴァンデルベルト、ヒマリには引き続きそれをやらせてたらいいんじゃないか?」

「ええ、僕もそう思います。ぜひお願いしたい」

砦のリーダーと、新しく来た軍事主任の二人は図らずも魔導士アイマルの予言を裏付ける。

「俺の方は、予備小隊の小隊長を中心に近代戦術と動きの基礎を叩きこんで行く必要がある。

―この後今の残存兵全員を中庭に集めてもらおう」


<つづく>

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