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【11】女子会とピロートークだよ

「ひぃ~、やっと終わったぁ~」

「あら、お仕事終わりまして?」

「ソフィエレさん、ただいまぁ~

…てか、当たり前にボクの部屋いてるんだ。コタツにあたる姫騎士も見慣れてきたよ…」

「ケチくさいこと言うなよ」

「エルマリさんはともかくヘルガオルガもいる。

…ファルさんは?」

「ここで寝ていやがりますわ」

「猫かよこの人…マジで働けよ」

「ヒマリに言われるようでは終わりですね」

「ヘイヘイ!シリアリス、ヘイ!」

文句をこぼしながら、まっすぐコタツへと吸い込まれていくヒマリ。

気持ち良さそうに眠るヴァンパイアを押してその横に座ると今度は大きなため息をこぼす。

「ふ~~…」

「疲れてんなぁ、ヒマリ」

「そりゃそうだよ~、ボクバイトだってしたこと無いのに。異世界まで来て米兵の案内人て何だそれ」

「異世界人同士なんだから当然だろ」

「ちくしょう、くくりがでけえ。地球人全員と仲良くしろと言われたでござる」

米兵のスタンレイ・A・ウィルビイ中佐を呼び出してから二日が経っていた。

その間ヒマリは中佐の通訳兼案内役をさせられていた。

「ヒマリはん。世の中には慣れへんヒューマンの砦で異世界人の案内させられたエルフもいてはるそうどすえ。そう考えたら笑顔で出来る仕事ですわなぁ?」

「…そっすね。根に持つね、エルマリさん。

…てかなんでみんなボクの部屋にたむろするのさ」

「このコタツっての、いいよな」

「いいですわね」

「最高じゃ」

「あら、ファルリエット起きまして?」

「コタツは良いぞ、ヒマリ。褒めてとらす」

「なんだこのロリパイア。それが伝説の魔族の台詞か。

…ローテーブルに布団被せて発熱の魔法かけただけだよ。みんなも作れよ、ボク特許料で暮らすから」

「なあ、もうちょいでかいコタツ作らねえか?ヒマリ。5人でもちょうどいいようにさあ」

「コタツは麻雀しやすいように正四角形が正解なんだよ」

「ヒマリ、マージャンとはなんじゃ。カッコイイ技っぽい響きがするぞ。教えよ」

「…めんどくさい。一色単騎ドラドラ親ッパネ。

ボク疲れてるって言っただろ。

あーーあ!上げ膳据え膳ぐらいしてくれていいんじゃないっすかねえ?!」

「あら、お食事はメイドに言えばいくらでも運んできますわよ」

「…ここに炊き立てのご飯があるとする」

「ゴハン?」

「そう。麦じゃない、たっぷりの水の水田で栽培する穀物。それを収穫して脱穀してまたたっぷりの水で炊くとご飯になる」

「…ゴハン」

「炊き立てご飯をラップで握るわけだけど、実は中には昆布もおかかもいらない。塩で握るだけでいい。海苔があるとなお良いけど、無くてもいい。塩ムスビは王道にして至高。具を選ぶならボクは梅干しだ」

「…ゴハンねえ」

「そうなんだ。結局炊き立てご飯にお塩があれば最強なんだよ。そこにママの唐揚げがあればその日は幸せだよ」

「何が言いたいんだ?」

「美味いごはん食べに帰りたいって言ってんだよ!!背脂ラーメン食べたい!渋谷行きたい!」

「なんだ、ラーメンって」

「うわ!そうかー、ヘルガオルガってラーメン食べたことないんだー。ダセー。

黒に金縁のジャージでセンター街の金伝丸に座ってそうなのに!

ほら、これこれ家系ラーメン。こっち来る前に写真撮ってたよ」

「ふーん…スープになんか入ってんのか。

美味いのか?」

「脂がね、ヤバい。

あ、こっちの人ってダイエットしてなさそう。動くし。

あとヘルガオルガにはトリキだね、鳥貴族。マストだね」

「テンション上がったのう、ヒマリよ。そのラーメンとやら我に作ってみよください」

「ダメ、ニンニク入ってるから」


束の間の休息。

深夜となり、仲間たちはそれぞれの部屋へと帰り眠りにつく。ヴァンパイアだけそのままコタツで丸くなっている。

ヒマリは革製ポーチを首から外し、シリアリスを枕元に置く。

革のジャケットを脱ぎ、ベッドにもぐりながら、異世界へ来てから悪夢を見る回数はどんどん減るな、と思った。

そりゃそうだ、あの時はずっと部屋にこもっていた。敵もいないけど友達も誰もいない世界だったから。ネットに入り浸り、スマホに話しかけていた。

でも今は、仲間がいる。

スマホではない、シリアリスがいる。

「ヘイ、シリアリス。今の冒険者みたいな服、ボク嫌いじゃないよ」

「はい」

「あれが、みんなのと似た感じの異世界衣装がフツーに出てきた時、制服を思い出したんだ。

ボクは半年で制服着ようとしたら吐くようになっちゃったけど―

みんなと同じ、こっちの服がもらえたのは、すごく、うれしかったんだよ。

あの時はびっくりしちゃった」

「はい、それは良かったですね」

「ここ、簡単に人が死んでいくよね。

みんな見てたらそれはUFOが来る前でも大差なかったんだと思う。みんな、死ぬ覚悟があるんだよ。

だから、みんな、嘘をつかないんじゃないかなって思うんだ。

だから、ボクはみんなが大好きなんだよ」

「―はい」

「でもここはなろう系じゃなくハードラノベ系世界だったんだ。

ボクらも無事に帰れるといいんだけど」

「ヒマリ、ボクらとはヒマリと誰を差していますか?スタンレイ中佐の事ですか?」

「何言ってんの、ボクらだよ、シリアリス。君とボクだよシリアリス」

「ヒマリ。あのジャージはどうなりましたか?」

「…捨てたけど」

「そうです。使えなくなった道具は捨てましょう」

シリアリスは、いつもの明るいはきはきとした声で続ける。

「私が壊れても問題ありません。

日本への帰国後新しいスマホを買い直してください」

「だっ!!ダメだよ!」

「はい、ヒマリは外出しないので紛失保証サービスには入っていません。高額になりますがやはりヒマリの生活にはスマートホンは必要―」

「そうだけどそうじゃなくて!!帰るんだよ、二人で!!

シリアリス、気づいたよ。

こっちに来てからのボクの話は「異世界でもスマホがないと生きていけない」ってタイトルのラノベかと思ってたけど、違うんだ。

これはボクら二人のロードムービーだよ。

いつか帰る系の異世界物はロードムービーだったんだよ」

「何度言われても、私はヒマリさえ無事に帰国できればいいと思っています」

「…ダメだからね。絶対一緒に帰るんだから…」

そんな事を考えながら、ヒマリは眠りに落ちていった。

「私もスリープモードに移行します。

―ヒマリ、お休みなさい」


<つづく>

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