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【10】だいたい出そろったかな

「邪魔ああ!!」

―翌朝。

すがすがしい朝に不釣り合いな不細工な叫び声を上げてヒマリは目を覚ます。

「ヒマリ、おはようございます。今は地球時間で朝8時42分になります。

―今日も学校の夢を見てしまいましたか?」

「…おはようシリアリス。

ううん、今日はいい夢だった。エルマリさんとお風呂入ってたんだけど謎の光に邪魔された。ボクの夢はTV版かよっつー。

にしてもこんな疲れてても夢見るとはねー」

「またヒマリはんの発作が始まりましたえ。朝っぱらから」

「そうだな、アタシすらもう見慣れてきたわ」

「…え、何なに?朝から二人ともなんでボクの部屋にいんの?」

「起きんのおせーよヒマリ。異世界って50時間あんのか?」

「ヘルガオルガ、ベウストレムどう?もう平気そう?」

「ああ、傷は大体ふさがって意識も戻った。

―クリスには一生頭が上がらねえな」

「本当に良かった。ごめんね、昨日は付いてられなくて」

「いいんだよ、当然だろ」

「ここが地球だったらベウストレムへのお見舞いに可愛い軽自動車紹介するんだけどな」

「ヒマリ、たった一晩で最低な発言を更新しないでください」

「軽自動車?なんだそれ?」

「翻訳の合間にもちゃんと突っ込むのがさすがシリアリスだな。

マジでなんでもないよ、ヘルガオルガ。マジで」

「んでどうだった、ノーム研は。奴らのシールド魔法に勝てそうか?」

「―うーん、どうだろうね。まだわかんないけど。

とりあえず王国からも協力してもらわないと。ヴァンデルベルトさんに相談しなきゃ」

「あとな、ヒマリ。ヤンキーってなんだ?」

「え?ヘルガオルガの事だけど、なんでそんなの知ってんの?」

「お前昨日何度もアタシのことそう呼んでただろうが」

「…あー、よく覚えてるね。

えーとね、ボクらの世界で最大の国、アメリカ人の事だよ。ホントだよ」

「ほー、強いんか?」

「あー、うん、アメリカのハリウッドって軍隊がいつもUFOやっつけてるよ」

「やるじゃねーか、ヤンキー」

「まぁ、うん、そうね。

…まいったな、話がややこしくなった。何一つ嘘は言ってないけど」

あくびしながらヒマリはベッドから身を起こす。

見ると、ボロボロになったジャージの代わりに動きやすそうな服が用意されていた。

ヒマリは、じっとそれを見つめて動けなくなってしまう。

「―これボクが着ていいやつだよね?」

というヒマリの言葉に、「おおそれ着とけ」とヘルガオルガがぶっきらぼうに答える。

やはりヒマリは一瞬固まった後に、その服へと着替える。

「ヒマリはん、どないしましたんえ?」

「―ううん。ボクは元の世界で学校に通ってたんだけどね…。

いやまぁ、うん、なんでもない。

―んで、今日はどうするの?ボク後でもっぺんノームの谷に行きたいんだけど」

「まあ、まずは朝食お食べやすな。ウチら先よばれましたよってに」

エルマリの言葉に、ヒマリのおなかがグウと答えた。

「やっべ、お腹なっちゃったよ。オートミールなのに超うまそうに見える。

いただきます」

もりもりとほおばるヒマリの横で二人はさっきまでしていたらしい会話を再開する。

周辺諸国の状況。どの国もやられているらしい事。

共有した転移火球でなんとか対抗している場所もあるらしい。それでも実際にUFOを何度も撃墜し、しのいでいるのはこのサンドリアス砦だけらしい。

昨日半減した戦力の補強にと援軍を求めてもどこもそれどころではない事。

隣国は王都が壊滅した事。

食欲が失せそうな暗い話題ばかりだが、それでも若いヒマリの体は昨日の回復を求めてモリモリと食べ続けていた。

「とにかくこのまま場当たり的じゃあマジでまずいな。なんとかしねえと」

「そうどすなぁ…。ウチの故郷からも、近く援軍よこすゆう話もあるにはあるんですけど…」

「ボクももっと何か思いつけば、助けられたらいいんだけど…」

「ヒマリはん、あんたはようやってます。気にせんでよろしい。ヒマリはんはあくまで助っ人やよってに。

気張らんとあかんのはウチらなんどすから」

「そうだな」

「もっとこう、ボクみたいな普通のJKなんかじゃなく科学者とか宇宙物理学なんたら博士とかそーゆうの呼び出せば良かったのに。

今からでも遅くないんだし、追加発注しちゃえば?」

「そう簡単じゃねえんだよ、ヒマリ。なんかすげえ大変な魔法らしいんだぜ」

「ヒマリはん、前に魔法の基礎で説明したと思いますけど、魔力貯蔵ゆうのがありましてな。

ヒューマンの王国魔導士らがコツコツと魔力を蓄えとりまして。異世界人一人呼び出すポータル開くのにはその数十年か百年分を消費しますんえ」

「え、マジでかー。ボクがその百年分の一人なのかあ。…ごめんね?なんか。

てかボクは悪くないし犠牲者だけどさ」

「ああそうそう、帰りの分の魔力もセットやさかい安心しとおくれやす」

「そうなの?良かった」

「せやけど、帰還ポータル開くんは帰還条件が紐づけられとります」

「わかった。たぶん宇宙人退治するまで帰れないとか?」

「ビンゴどす」

「まぁ、そうだろうなぁ…。

サクっとやっつけてせっかくだから異世界観光してから帰るとかできるならいいんだけど…。

ヘイシリアリス、どうするよ。君のバージョンアップも当分できそうにないよ」

「はい。どうせ初期バージョンアップダウンロードは人身御供なので急がなくて良いのではないでしょうか」

「おわ、スマホにとっても公開から即バージョンアップはヤなことなんだ。ウケる」

と、部屋の外でブーツで石畳をカツカツと鳴らす音が近づいてきた。ガシャガシャと響く鎧の音が聞こえたかと思うと、ノックの音がした。

「はいどーぞ。

…なんだよ、ヴァンデルベルトさんかぁ。女子会に入って来るかなぁ、普通」

「なんですやろなぁ。ヒューマンには空気読むゆう文化が無いんですやろか。それともヴァンデルベルトはんだけがそういったご家庭で育てられたんですやろか」

「おめーらヴァンデルベルト先輩に失礼な事言ってんなよ」

ヘルガオルガだけが二人を窘めるが、女子二人からのキツい抗議にヴァンデルベルトは苦虫を噛み潰した顔になる。

「…エルマリさん、ヒマリさんに染まりすぎでは」

いつものにこやかな笑顔でクレームを聞き流しエルマリが答える。

「今、ヒマリはんに異世界召喚魔術の説明してたんどす。

帰還条件やらまだ話してまへんでしたよってに」

「そう。なんでヴァンデルベルトさんがボクを呼んだんだよって話してたんだよ。巨乳JKマニアなのかなって」

「まだ言いますか。

でもちょうど良かった。ヒマリさん。

この世界を知り、宇宙人との二度の戦闘を経た今のヒマリさんとしてはあなたの世界からこの状況打破するにはどんな人を呼べばいいと思います?」

「えーー?うーん」

「おいヒマリ、お前さっき言ってたじゃねえか。ヤンキーがつえーって。

ハリウッドって騎士団が宇宙人退治の専門なんだろ?」

「あー、そうね。ヘルオルって記憶力いいよね。

宇宙人相手ならやっぱ米軍でしょ」

「ベイグン」

「そうそう。宇宙人やっつけるのは米軍の仕事だから。怪獣だったなら自衛隊なんだよね。あ、いや自衛隊は怪獣に負けるか」

「わかりました、じゃあヤンキーでベイグンをお願いします」

「…ん??」

「え?」

ヒマリら三人は顔を見合わせる。

よく見るとヴァンデルベルトの後ろには、小柄な老魔術師がついてきていた。

「あれ、あのヒューマン、たしか異世界召喚魔術師の…」

きょとんとしたエルマリが呟くその間に、老魔術師は眠そうな動きで杖をゆらゆら、何かモニャモニャと魔法を唱えた。

ボウン、と魔法陣が出るやいなや、その魔法陣は青く光る輪っかとなり―

どすん。

一人の男を吐き出した。魔術師の前に、尻餅をつく男。

「シーーット?!?!」

男はあわてて立ち上がるやきょろきょろと周囲を見回し、目の前に立っている騎士に身構える。

「…え、うそ、なに、ボクもこれぐらい雑に召喚されたの?魔法陣とか一瞬じゃん!

今の青い輪っかが地球からの転移ポータルってこと?うっそ!ガチャ演出これだけ?マジで?

それともこの人がノーマルキャラって事?低レア?」

現れたのは、カーキ色のジャケットを着た金髪のグラサン男。鍛えた分厚い身体の持ち主だった。

「…もう、誰がどう見ても米軍さんだろこれ。

うわー、マジでかー。マジで米兵呼び出しちゃったよ」

「ヴァンデルベルトはん、魔力貯蔵はどないしはったんどすか?ヒューマンごときに簡単に二人分も溜められへん思うんやけど」

「ほら聞いた?シリアリス。ドエルマリだよ。これ訳さないでね」

「ええ、実は南のジベルナウール連合国と交渉してたのがやっと実ったんですよ」

「あー、先輩言ってましたね!マジで交渉がんばってましたもんね。さすがっス」

「…えー異世界のみなさん。それよりその米兵さんなんとかしてあげないと。

めっちゃシットとかファックとか連呼してるよその人。…気持ちわかるけど。

多分その人異世界召喚とか知んないでしょ、日本のオタクじゃないんだから」

「カオヨッ」

「…え?!

何なに、エルマリさん、急に何言ってんの?」

「え?ウチの知っとる異世界語どす。そちらのあいさつですやろ?」

「は?え?何それ」

「ヒマリはんがいつもウチに会うごとに言ったはるから」

「…ああ、顔良(かおよ)か…ボクそんな毎回言ってたっけか」

「まぁとにかく、ヒマリさん後お願いしますね」

「え?!ヴァンデルベルトさん丸投げすごない?!」

「え?異世界人同士でしょ?」

「や、まあ…そんな大雑把にくくられても困るんだけど…。

ヘイ、シリアリス。英語翻訳お願い」

「はい」

「ヘーイ、がいじん…エイリア…アメリカンさん。こんにちはー」

「ヒマリ。それぐらい自力で喋ってみてはいかがでしょうか?」

「いいんだよ、なまじ英語でしゃべるとこいつら英語通じると思ってべらべらしゃべってくるから。初手でシリアリスに頼む方がいいんだよ。

世界共通語は英語じゃないんだよ。エスペラント語だよ、異世界すらも」

「なんだお前は、ジャパニーズか?チャイニーズか?ここはどこだ?なんでいきなり英語をディスる」

「ヘイ、シリアリス。ボクの軽口はいちいち翻訳しなくていいからマジで。でかい米兵さん怖いから。

―えーとね、今から説明するけどね。

まず言っておくけど、ボクは悪くないからね。ボクも犠牲者だからね。デスゲームの冒頭で主催者でもなんでもない主人公の胸ぐらつかんで説明しろテメエーとか言ってケンカ売るヤンキーキャラみたいなことしないでね。本物のヤンキーだからって」

「ヒマリ、本物のヤンキーについての解説を付け加えて訳しますか?」

「もちろんいらない」


<つづく>

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