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 何かが弾ける音がして、俺の視界は真っ白になった。

 ガタンと大きな音がして、流石に目を覚ましたらしいザンカの慌てた声が聞こえる。


 床に倒れこんでしまったらしい俺の耳には、神父様を呼びに行くザンカの声に混じり、うるさいくらいの鐘の音が響いていた。


 ──リンゴーン……


 ラーレが、隣にいる。


 ──リンゴーン……


 シスターにこき使われて、夕飯を食いっぱぐれたラーレに、パンを差し出した。

 ああ、そうだ。俺も手伝いたかったのに、別の仕事があったから、助けられなくて、悔しかったんだ。


 ──リンゴーン


 成長した彼女は、かわいらしく、綺麗で。

 いつも買い出しの時は、彼女の隣を守ることに必死だった。


 ──リンゴーン


 パン屋の新作に頬をほころばせるラーレが、なによりも可愛かった。

 少し変わった彼女の感性さえ、愛おしくて。


 ──リンゴーン


 一緒に暮らしたいと、そう思っていた。


 ──リンゴーン!


 プレゼントに買った髪飾りは、彼女ば気に入った、ラーレによく似合う黄色いチューリップを模したもので。

 指輪も考えたけれど、どうしてもこれが似合うと、そう、思ったから。


 ──リンゴーン!!



『愛してる、ラーレ。ラーレのことが、好きだよ』



 伝えたかった言葉が、感情が。

 嵐の様に押し寄せる。



『君のことが、誰よりも好きなんだ。俺と、一緒に生きてくれないか』



 ──愛してる。


 リンゴーン!!!


 壊れるような鐘の音が、全てをかき消すように、鳴り響いて。

 俺の意識は、消え失せた。


 ただ、やっと取り戻せた髪飾りだけは、しっかりと握りしめたまま。



 * * *



 バチン。


 幾度となく経験した、世界が切り替わるような衝撃。

 それなのに、今回の『やり直し』は圧倒的にいつもと違う。


「ここは……?」


 いつも、目が覚めるのは、喧騒の町中だ。

 直前に何を持っていようと、持ち越すことはできないのはずいぶん前に確認済だ。


 だと、いうのに。


「……、これ、は」


 俺の手には、しっかりと、あの髪飾りが握られていた。

 そして、ここは──


「教会の、廊下……っ!!」


 あたりを見回して、場所を認識して、曲がり角に消える淡い金髪を目にした瞬間、俺は走り出した。


 そうだ。そうだ!

 思い出した!!


 何故、何故忘れていたんだろう。

 俺はあの日、ラーレに会っていた。


 彼女を、最期の言葉を交わしていた!


 廊下を走って、走って、その音に驚いたのか振り返る彼女に手を伸ばす。

 明るい黄色の瞳は、大きく見開かれていた。


「ラーレ!!」

「イキシ、ア……?」


 ──ああ、やっと、届いた。


 ラーレの手を掴み、握りしめる。

 もう二度と、離さないように。


「好きだ、ラーレ。君が、君のことが! 何度、生まれ変わっても──!!」




 ──やっと伝えられた、ずっと言いたかった、言葉たち。

 この後に続けられた、たった五文字の言葉は。


 愛しいひとと、握りしめた髪飾りだけが聞いていた。



 もう、鐘の音は、聞こえない。



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