プロローグ
青空の下で、君が笑う。
春の花のような、木漏れ日のような、大好きな笑顔で。
君の瞳によく似た、大輪のおひさま色の花が咲き誇るそこ。
夏の日差しは眩しくて、麦わら帽子をかぶる君の肌が光って見える。
俺は、はしゃぐ君の手を、繫いでいる。
もう二度と、離さないように。
もう二度と、喪わないように。
……? この子を喪ったことなんてないはずなのに、なぜ『二度と』なんて思うんだ?
ふとした疑問は、彼女のキラキラとした声にすぐ霧散した。
楽しそうに俺の手を引く彼女の手は小さくて、それを言えば「イキシアが大きくなったんだよ」なんて、少しむくれたように言う。
そんな些細なことすら、愛おしい。
思わず笑って、額にキスを落とす。
あいさつと変わらないことなのに、君はすぐに真っ赤になってしまう。
ああ、かわいい。
好きだと、心からそう思う。
そうだ、君に伝えたいことがあるんだ。
ずっと言えなかったことがあるんだ。
ああ、やっと言える。
振り向いた彼女の手を両手で包み込み、瞳を合わせる。
真っすぐに俺の目を見返す彼女が、泣きたいくらいに愛おしくて。
ラーレ、ラーレ。
俺は、君が、君のことが──……
──リンゴーン。
……ああ、また、鐘の音が聞こえる。
鳴らないでくれ。響かないでくれ。
重厚で厳かなそれは、徐々に俺の意識を遠くに運んでいく。
夏の日差しが、大輪の花が、──彼女が。
少しずつ、けれど確実に遠くになっていく。
どれだけ手を伸ばしても、どれだけ叫んでも。
彼女にこの手は届かない。
何度、俺はこの音を聞いたのだろう。
初めてのような気もするし、気が遠くなるほど聞いた気もする。
けど、ただ一つ、はっきりとしていることがある。
この音は、俺から全てを……彼女を、奪うものだということ。
──これは、彼女を取り戻すための物語。