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「モ、モニカって言います。よ、よろしくお願いします!」
元気よくあいさつしたのはドワーフの女戦士だ。すでに商談の為に『協会』に前の乗りしていた商業ギルドの商会長の護衛の1人であり、かなり腕が立つ。
そんな彼女であるが、見た目が他のドワーフ同様身長が130センチぐらいのこじんまりとした体格であり、以前出会ったゴルド兄弟はとは違い幅と太さもまるでない。女性のドワーフは男性のドワーフほどの太さはないらしく、彼女も比較的細身な体つきをしていた。
また顔立ちがかなり幼いため、人間よりも少しばかり尖っている耳が見えなければどこからどう見ても人間の少女にしか見えない容姿をしている。まぁ、顔は幼いが、ドワーフは人間よりも寿命の長い寿命であるため実年齢は俺よりも上であるのだが。
そんな彼女がどうして俺のところに来たのかと言うと、簡単に言えば『商業ギルド』の商会長さんが、俺との顔つなぎの為によこしたのだ。
確かにドワーフとの交流が開始すれば、エルフのアルベルトさんのように俺の所有地に店を構えるなんてこともあるだろう。いや、すでにそれに近い話は来ていると、島津さんから聞いているのだが詳しい話は『協会』に丸投げしている。
商会長さんはゴルド兄弟とは違いかなり気づかいが出来る方であり、俺がそれほどお酒に強くないことにすぐに理解を示し、お酒の席でのお近づきは難しいと判断したらしい。ならばこの度俺が受注した指名依頼に自分の息のかかった人材を派遣することで、多少なりとも繋がりを持とうとしているわけだ。
本音を言えばそんなお偉いさんに気を使われるというのもちょっとばかし怖かったので、断りを入れたかった。だが、何の理由もなしに断るというのも当然ながら謀られたので、断るための大義名分を欲した。
頭を悩ませた俺は『腕相撲』にて彼女の実力を測ると提案した。無論『スキル』の発動を禁止させてもらったうえで、だ。
せこい話、腕相撲はリーチが長い方が有利だ。加えて、ドワーフには腕相撲といった競技はなく、当然ながら勝つためのテクニックなんてものは存在しない。そこに勝機を見出したのだ。
「俺の依頼に同行したいと言うなら、『スキル』を使わず俺を腕相撲で倒して実力を示してからにしろ!」見た目が少女であったため、自分でもびっくりするぐらい強い言葉で牽制することが出来た、気がする。
腕相撲のルールを説明した後、彼女を紹介するために来ていた『協会』の職員さんに審判を任せ、俺と彼女の決闘が始まった。
机越しにがっぷりと握り合った彼女の手と俺の手。彼女の手はその見た目同様それほど頑丈そうには感じなかった。染色職人であるゴルド兄弟の方が遥かに強そうだと感じたぐらいだ。
試合が始まる前からも自分の有利になるよう手の位置をちょっとずつ調整し、その上で勝つためのテクニックを頭の中で何度も何度も反芻し、試合開始の合図とともに即座に技に移れるようにイメージトレーニングを重ねる。
そうして審判の試合開始の合図とともに―――――俺の手の甲は机の上とラブチュッチュしていた。
位置取りがどうとか、技をかけるとか、テクニックがどうのとか言う話ではない。それ以前に、圧倒的にパワーが足りていなかった。はっきり言おう、俺が勝てる要素は皆無である、これ以上ないほどの惨敗だった。
しまいには彼女に「だ、大丈夫ですか?」と心配される有様だ。試合後俺に残ったのは、せこい方法を使ってまで勝とうとしたのにそれ以前の問題であったことの惨めさと情けなさ、そして一瞬にして腕を持っていかれたことで肩に残った痛みだけであった。
かくしてモニカさんは俺の指名依頼に同行することとなり、あらかじめ俺が雇っていたアウラさんとライラさんのペアに紹介し、先程の自己紹介があったわけだ。
「うん、よろしくねモニカさん!私はアウラって言います。それでこっちの方は…」
「ライラです。よろしく」
そんな感じで互いに自己紹介を終え、本題に移る事となる。
「えっと……。じゃ、これから今回の依頼について改めて説明するか」
モニカさんに対する報酬は当然ながら彼女の雇い主である商会長さんが支払ってくれる。つまり俺の懐は痛まないわけだ。とは言っても、彼女には何らかの形で報酬を渡す予定ではあったが。
まぁ、商会長さんに借りを作ることにはなったが、エルフの2人と俺だけのパーティーでは少々前衛に不安が残っていたのも事実である。ここで彼女ほどの優秀な前衛を仲間に出来たことは、俺にとってもそれほど悪い事でもないので気持ちを切り替えていこうと思った。




