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「話の展開がめちゃくちゃ早いですね。まさか異世界に行った当日に王城にまで招待されるとは……」
「それは当事者である私たちが一番驚いたことだな。ゴルド兄弟は『何とでもなるじゃろ!』とかなり楽観的な物言いだったが、そんな言葉鵜呑みに出来るはずもないからな」
そうして早速王城に招待された『協会』の関係者御一行。案内人に付き従いながら、ひとまずは客間へと招かれたらしい。
「椅子やソファーなどは身長の低いドワーフ用に作られたものだからな。私や毛利さんの様な女性の職員なら何とか利用することが出来ていたが、酒井の様な大柄な職員には少しばかり窮屈そうであったな」
「そういうのって、いかにも異種族との交流!って感じで面白いですね」
「ま、当事者からすれば、あまり面白いものでもないだろうがな。それでも、土産話の1つにはなっただろう」
ほどなくして国王の待つ玉座の間へと案内されることになった。王城に招待されたとはいえ、てっきり外交官とかよくて大臣だとかが応対するものだと思っていたらしく、いきなり国のトップとの謁見が叶うとは見ていなかったので皆当然ながら困惑したらしい。
玉座の間へと続く廊下を歩いているときは、どのようなことを話してよいのかかなり頭を悩ませていたらしい。そんな彼の思考を邪魔したのは緊張から来る不安でもなければ、焦燥感から来る苛立ちでもない。廊下に並べられていた彫像品などの美術品があまりにも素晴らしく、そこに目を奪われてしまっていたことらしい。
「美術館には何度か足を運んだこともあるが、心を奪われるといった感覚はあの時が間違いなく初めてだった。あの素晴らしい美術品をこの目で直接見ることが出来た、それだけでも間違いなくあの場所に赴いたことに価値があったと断言できる」
楽しそうに話す島津さん。ドワーフの職人は腕がいいという話は聞いていたが、彼女ほどの人にそうまで言わせる美術品とは…少しだけ、俺も行ってみればよかったと思った。
謁見自体は驚くほど簡単に済んだらしい。どういったことを話したらいいのか、必死に頭を悩ませていたのが馬鹿らしくなったほどに。そうしてあれよあれよと言う間に、『協会』の関係者ご一行は王の主催する晩餐会に招待されることになる。
「見たことのない食材に見たことのない料理。私たちの口に合うのか不安に感じたのは晩餐会が始まって数分間の出来事だったな。一口食べればどの料理も非常に美味であったことを理解させられたよ。だが、そんな料理よりも素晴らしかったのがその料理が盛られた食器であったり、晩餐会の会場となった広間に飾られたインテリアの品々だったな」
「そんなにすごかったんですか?」
「筆舌に尽くしがたし、と言う言葉がふさわしいほどだった」
その時の出来事を思い出すように目を閉じ、大きく頷きながら俺の質問に答える島津さん。このまま大成功の内に晩餐会が終わり解散するものと思われていたが、そうは問屋が卸さなかった。
「晩餐会が終わり……そのまま何もなく終わるだろうと思っていたんだがな……始まってしまったのだよ。宴会、と言う奴がな」
「うわぁ……大丈夫だったんですか?」
「私や毛利さんと言った女は比較的マシだったな。あくまでも比較的に、だがな。女王陛下らが私たちの対応をしてくれたんだが、まぁ、女性だったからか、男のドワーフほど飲酒量は多くは無かったんだ。問題は………」
「男性の方、ですか。ゴルド兄弟もかなりの飲酒量でしたが、彼ら兄弟が特別だった、というわけでも無かったと言うわけですね」
うん。やっぱ、行かなくて正解だったわ。
その宴会で提供された酒は贈答用として持っていった酒が中心だった。宴会には国主だけでなく、各派閥の有力者なんかも参加したとかでかなりの大規模なものになったとか。舌の肥えているであろう有力者からも酒の味を褒められ、次々と開けられていく酒瓶。それに比例するように『協会』の職員の顔色は悪くなる一方だったとか…
それでも女性陣は割と早いうちから解散となり、各自に割り振られた部屋に引き上げていったが男性陣の方はそうはならなかった。
島津さんも余裕があれば救いの手を指し伸ばすこともしただろうが、彼女にも他人に気を配るだけの余裕は皆無であったらしい。心の中で謝罪しながら、使用人の案内に従い這うようにして部屋に行くだけで精一杯だったとか。
明けて翌日。〈回復魔法〉を使うことの出来る職員によって、何とか動けるまでに回復した島津さんは男性職員の安否を確認をしに行ったらしい。生きていはいたようだが、とてもではないがその日の職務を務めることが出来る状態ではなかったようだ。
男性職員の方にも〈回復魔法〉を施したが即座に動けるほどには回復しなかった。とりあえず島津さんと言った女性職員が中心となって翌日の交渉が進められたらしい。




