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『ダンジョン』の研究施設の入り口から少しそれた場所に、30メートル四方に柵が備え付けられている。少し前からその柵の中で俺の新しい仲間、太郎と花子と言う名前のヤギを飼い始めていた。


そのヤギを飼い始めようと思ったきっかけは、今年の夏、山の除草作業が思っていたよりも大変だったことが原因だ。無論エルフ達の協力の元、それなりに作業量が減ったことには変わりないが大変であったことにも変わりはない。


そこで春ごろから少しずつでも山の除草作業をしてもらうために、祖父の伝手をたどって知り合いのヤギ牧場から購入することにしたわけだ。


除草作業以外の期間、そのヤギたちを『ダンジョン』の外で飼うか中で飼うかで判断に迷っていたが、飼い主の俺が普段は『ダンジョン』の中にいる時間が長いので、『ダンジョン』の中で飼うことにしたわけだ。


ここで嬉しい誤算だったのは、ヤギが『ダンジョン』の中に生えている草を食べていたことだ。この草も『ダンジョン』の修復機能によって、翌日には元の状態に戻っている。これによって、冬の間もヤギの食事を用意しなくて済んだのだ。おまけにヤギの糞なども『ダンジョン』が勝手に吸収してくれるというオプション付きで、まさに良いことづくめであった。


当初から四六時中首輪とリードをつけるのはヤギにとってストレスになるだろうと思い、柵を建ててその中で放し飼いにすることに決めていたが、『ダンジョン』の中だとその柵が『ダンジョン』に吸収されてしまう。かと言って『ダンジョン』に吸収されない特殊な素材を購入できるだけのアテがあるわけでもない。


そうして、いつものように『協会』に泣きついた。この時に対応に当たってくれたのが、先程会った只野さんというわけだ。


彼は俺が相談を持ち掛けると何か考えた後に、どこかに連絡を取り真剣な面持ちで長い間話をしていた。その電話が終わると、「そのヤギの健康状態などを観察させてもらうことを条件に、柵の設置費用などに関しては『協会』が持ちます」との返答があった。


どうやら『協会』としても、『ダンジョン』に生えている草を食べた動物の様子を研究したいという考えがあったのだろう。俺としても、新しい仲間の健康状態を確認してくれるのはありがたい事この上ない、喜んで了承した。


早いもので翌日には柵が設置され、そこに太郎と花子を放し飼いにした。ちなみに2匹の名前はかなり適当に決めた。雄と雌の2匹であった為、最初は『アダム』と『イブ』にでもしようかと思ったが、流石に人前でその名前を呼ぶのは恥ずかしい。何よりも、どう考えても『アダム』とか『イブ』とか呼ばれるような顔をしていないんだ、コイツらは。どちらかと言えば、人を食ったような表情に近いと言える。


そうして毎朝のように研究者の方がこの2匹の健康状態などを確認しに来ている。聞いた話だと、健康状態に一切の問題は無く2匹とも極めて健康優良児だそうだ。


柵の外では数組の家族がヤギを楽しそうに眺めている。柵の一部をどかして中に入り、念のためにと日影用として設置したトタン製の屋根の下に置いている、塩分補給用の岩塩と水分補給用の大型のバケツの中身の確認をする。


岩塩はそこそこ大きいものを用意していたので十分すぎるほどの大きさがある。バケツの中の水は残量こそかなり残っていたが、土や草、そして抜けたヤギの毛などが入っていたので一度捨て、あらかじめ用意していた給水タンクの中の水を入れて補充しておいた。


給水タンクは30リットル入る大型の奴を近くに2つも用意している。『格』が上がったことで身体能力が向上した結果だろう、この2つに水を満タンに入れて持ち運んでもスキップが出来そうなほどに重さを感じなかった。


一通りの作業を終わらせ、満を持して、先ほど収穫したトウモロコシをヤギたちにあげることにした。が、せっかくなので、柵の外からヤギを眺めている家族連れにそのトウモロコシを渡し、彼らに餌やり体験をさせてあげることにした。


よろこんでヤギにトウモロコシをあげる子供たち、親御さんたちもそんな子供たちを見て楽しげだ。よっしゃぁ!これで『ダンジョン』のリピーターをゲットだぜ!……ま、簡単にリピーターになってくれるかどうかは分からないが、どのみちヤギにあげようと思っていたトウモロコシだ。結果に繋がらなくても失った物は無いに等しい。こういった地道な努力の積み重ねが結果に繋がるはずだ。


皮と実を器用に食べ進めるヤギたち。やはり普段の食事が『ダンジョン』に生えている草であるため、こういったたまにしか食べないモノに関してはいつもより食いつきがよいと見ていて感じた。こころなしかヤギたちも、『普段からもっとトウモロコシをよこせ』と言いたげな目線をチラチラと俺に向けてくる。


その視線の圧に負けたわけではないが、ヤギたちの世話をするため柵の中に放したハヤトをそそくさと回収し、研究施設に向かうことにした。

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