表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/302

86

ドワーフの国からの遠征隊が帰って来て数週間が経過した頃、俺はとても悲しい出来事を経験することになった。兄弟子であるハヤテ君とのお別れだ。


流石にこれ以上俺に面倒を見てもらうのは悪いという事もあってか、藤原さんのご家族が兄弟子を引き取りに来たのだ。動物の『スキル』獲得に関しても、『協会』が新しく飼育することになったピットブルやシェパードの様な大型犬が無事に『スキル』を獲得したので、今後はそちらをメインに研究するとかでハヤテ君はお役御免となったというわけだ。


個人的には兄弟子の面倒を見るのが大変だと感じたことは無かったんだけどな、藤原さんのご家族もいつまでもハヤテ君を別れて生活することに寂しさを感じていたのだろう。俺が文句を言うのは当然ながら憚られた。


そんなわけで突然の別れによって悲しい気持ちになっていた俺を慰めてくれる存在も現れた。ハヤテ君の息子だ。


俺がハヤテ君を大層可愛がっていたことを知り、藤原さんに、「ハヤテの生まれた子供を1匹引き取らないか?」と提案され、一も二もなく頷いたのだ。


未だ子犬と言って差支えが無いほどのフワフワでマルマルとした姿ではあったが、時折見せるキリっとした表情は、父親であるハヤテ君によく似ている気がした。


かくして新しく俺の家族に加わったハヤテ君の息子に『ハヤト』と名付け、毎日の躾と訓練に精を出していた。


「よし!いいぞ、ハヤト!そこで〈咬み付き〉だ!」


ハヤトは いうことを きかない!


クソ!俺のトレーナーレベルじゃ、今のハヤトを従えることは出来ないのか。と言うのも、ハヤトは『ダンジョン』で『格』を上げたハヤテ君の血を引いているためか、モンスターを倒していないにもかかわらず、モンスターを倒す前から『スキル』を使えたのだ。ただ、あくまで使うことが出来るだけであって、任意での発動は本人の努力次第と言ったところだ。


これはハヤトが特別だからというわけでもなく、藤原さんから聞いた話だと、高名な探索者の子息もモンスターを倒していないにもかかわらず最初から親が使える『スキル』をすべてではないにしろ、いくつかは習得しているのだとか。


そこに遺伝的な作用が働いているらしいが、やはり『ダンジョン』に関する研究は依然として不明な点が多いため、あまりその手の研究は進んでいないらしい。


しかし今後はそんなことも言っていられない状況になりつつあるのだとか。と言うのも、『ダンジョン』が発見されて約20年。つまり『ダンジョン』で『格』を上げた探索者を親に持つ子供も毎年着実に増えつつあるわけだ。


一番上の世代だと、すでに親と同じように探索者となりそれなりの功績を打ち立てている人もいるのだとか。そう言った研究も、今後は世代交代の速い動物などを使って研究が進められるらしい。


そんな事を、特に何もしていないのに「褒めろ!」と言わんばかりにドヤ顔をし、おやつを強請って来るハヤトの頭を撫でながら考えていた。う~ん、躾のためにはここはおやつを我慢させるべきか、それともおやつをあげることでヤル気を出させ、『スキル』の訓練に励むべきか…


クリクリとしたつぶらな瞳で、必死に俺に訴えかけてくる。やめろ!そんな純粋で可愛いらしい目で俺を見るんじゃぁない!


結局はいつものようにその瞳のもつ魔性の力に屈し、おやつをあげることにした。そしてそのタイミングを狙ってかボスがやって来る。これもまたいつもの事だ。当然ボスのおやつも用意している。ボスから「ブニャ~」とお褒めの言葉をいただくまでがセットの日課となっているのだ。


ボスと言えば最近、外気温が寒くなってきているためか他の地域猫も『ダンジョン』の中によく訪れるようになっていた。そのすべてがボスの支配下にあるのだろう、ボスの姿を見ると尻尾を巻いて逃げるか腹を見せて服従のポーズを見せるなどし、決してボスに逆らうような行動はとらない。


まぁ、ボスはすでに何体ものトノサマンバッタを屠っており、『格』を上げていることに加えて複数の『スキル』を所持している。並の地域猫ではボスの足下にすら及ばないほどの戦闘力を有しているわけだ。逆らうことが出来ないのも当然なのだ。


ちなみにボスとハヤトの仲は極めて良好だ。ハヤトが仲の良かった父親であるハヤテに似ていることも原因の1つではあるだろうが、ボスは意外と子供には優しい性格をしている。それは、ダンジョンに来た親子連れの子供に対しても同じことが言えた。


小さな子供に多少乱暴に撫でられても決して怒らないし、やり返したりもしない。そう言った理由もあってか親御さんも安心して子供をボスと触れ合わせることも出来ていた。


そうした優しさもあってか確実に自分のファンを増やしていき、今では非公式ファンクラブまで出来ている。…本人が猫なので『本人公認』が出来そうにはないが。元はタダの地域猫だったんだけどな、恐ろしいまでの出世街道を歩んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ