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「単刀直入に伺いますが、ドワーフと我ら人間とで交流は可能と思われますか?」
アウラさんとライラさんの時はこんな率直な聞き方はしていなかった。あの時は異種族との交流なんて前例のない出来事であり、慎重すぎるぐらい慎重に期していたのだろう。しかし、今回のドワーフ相手では少しばかり様相が違うようだ。交渉の仕方がかなり大胆になっていると感じた。
交渉ごとに置いて、相手を不快にさせるのは当然ながら愚策であると言える。にもかかわらずそのような言い方をしたという事は、多分ドワーフと言う種族が、回りくどい交渉を好まないことを即座に見抜いたということかもしれない。
「可能じゃろうな。昨夜の酒は美味かったからの、あの酒の魅力に逆らえる同胞はおらんじゃろうて」
「酒だけじゃないぞ。『唐揚げ』とか『スルメ』とか言う奴も美味かったの。それに我らとは全く異なる技術体系にも興味を抱く奴もおるじゃろうな」
2人とも考える素振りすら見せず、即座にそう断言して見せた。昨夜の宴会で出した酒とつまみが美味しかったという理由もあるだろうが、そもそも交流することが不可能であるとすら思っていな程の断言っぷりだ。それには流石の島津さんも少しばかり驚いていたが、質問を続けていた。
「では次にお伺いしますが、仮に交流を持とうとした場合、私たち人間はどのような行動に出ればよいと思われますか?」
「そんなもん王宮に乗り込んで、『責任者を出してくれ!』とでも言えば良いんじゃないのか?」
「兄者、流石にそれは不敬が過ぎるぞ。ふむ……ひとまずは儂らも所属している『商業ギルド』に仲介を頼むのが良いのではないかな。ギルドの連中も、販路が増えるともなれば喜んで協力してくれるじゃろう」
『商業ギルド』とは彼らの世界に存在する、所謂『商工会』のような商人、そして職人から成る自助組織みたいなものらしい。ただしその力は『商工会』よりも大きいらしく、国の政策に口を出すことが出来るほどの発言力を有しているのだとか。
ただし『商業ギルド』が国の政策に口を出すことはめったになく、基本的には国の指針に大人しく従っている。まぁ、いざと言う時の商人や職人たちを守るための保険のようなものらしい。
ちなみにゴルド兄弟の職業は織物職人らしい。太い腕に太い胸板、太い指に大雑把そうな性格。見た目は戦士と言った雰囲気を纏っていたんだがな。俺の人を見る目はまだまだなのだと思った。
何でも、染色に必要な植物の採取のため『商業ギルド』の管理する山に入ろうとしたところ、急な雨に襲われ、たまたま目に入った洞窟に入りそこで雨が上がるのを待つことにしたらしい。そしてその洞窟が意外にも深いことを知り、雨のせいで暇であったため洞窟の中を探索することにして、この『ダンジョン』に行き着いたのだとか。…俺の『ダンジョン』の発見時の状況にちょっとだけ似ていたので、勝手に彼らにシンパシーを抱いた。
「ギルドの連中になら、儂らも多少は顔が効く。こう見えても、国ではそこそこ名の知れた職人じゃからな」
「うむ、兄者は口は悪いが腕の良い職人じゃからな」
そう言って、彼ら兄弟の染めたという織物を実際に見せてもらうことになった。
当然、織物のことなど詳しくないド素人の俺が見て何か分かるというわけでもないと思っていたが、実物を見せてもらったとき自分でも驚くぐらい、今まで慣れ親しんできた織物とは違うということがすぐに分かった。
まず肌触りからして俺が知っているものと違っていた。具体的にどこが違うのかは断言することは出来ないが、少なくともこんな肌触りのいい布を俺は知らない。おまけに色の深みが違うというか、この織物の持つ独特の雰囲気と言うかなんというか……正直、ただの織物にこんな圧倒された気分になったのは間違いなく俺の人生において今回が初めてであることだけは断言出来た。
こんながさつそうな2人からこんな繊細で素晴らしい織物が作られるとは……口には出せないが、驚き以外の言葉は出なかった。そして島津さんも同じようなこと思ったのだろう。
「なるほど、ドワーフと言う種族には貴方方兄弟の様に腕の良い職人がたくさんいらっしゃるのですね。希少性も含めて考えれば、多くの人がこういった物を欲しがるでしょう」
島津さんのゴルド兄弟を見る目が変わった気がする。これほどの物を見せられれば当然と言えば当然か。モノ作りが得意なドワーフとの交流…俺の『ダンジョン』の重要性が、さらに高まる予感がした。




