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何のかんのとあり、前回と同じVIPルームに通された俺達一行。こうも頻繁に出入りをしていればVIP感と言うものが感じなくなってしまう。もう少し、こういった場所とは縁遠い人生を歩みたかった。


ちなみに『ボス』はいつの間にか姿を消していた。面倒ごとに巻き込まれてしまう可能性を野生の勘と言う奴で察知したのだろうが、羨ましいほどに自由な奴だ。ま、猫と比べても何の意味もない事ではあるのだが。


多分、下僕?のところにでも行っているのだろう。『ダンジョン』の中で働く人にも『ボス』の下僕は多くいる。今頃は夕飯でも食って腹を満たし、のんびりとしている頃だろう。


若干の現実逃避をしながらしばらく待つと、前回と同様湯川所長が興奮した様子で姿を現した。そして前回と似たようなやりとりが繰り広げられる。しかし前回とは言違い、湯川所長の願いはあっさりと了解されていた。


「なんじゃ、儂らの毛が欲しいのか?人間と言う奴は変わっておるの。ま、その位なら、いくらでも持っていくといい」


「全くじゃな、兄者。しかし、そう決めつけるのは早計じゃありゃせんか?現に檀上殿は儂らの毛には見向きもせんかったぞ?」


そう言うや否や、2人とも髪の毛と髭を数本引き抜き、腰に差していたナイフで爪を切り、それを湯川所長にポンっと渡していた。


こちらがドン引きするぐらい狂喜乱舞する湯川所長。ドワーフの人間に対する印象が悪くなってしまわないか心配したくなるほどの醜態だ。彼ら兄弟がそれほど気にしている風に見えないので安堵したが。そしてドワーフから渡された毛や爪を後生大事そうに抱え、落としてしまわないように慎重に、かつ、迅速な動きを見せつつこのVIPルームから即時退席していった。


あまりの行動の速さに一同があっけにとられていたが、いち早く我を取り戻した酒井さんがこの場を何とか取りまとめようとしている。


「貴重なサンプルの提供に感謝します。ところで…檀上さんから聞いたのですが、貴方方ドワーフはお酒の席で、互いの親睦を深め合うとのことですが?」


「うむ!酒の席でないと、互いの心の内を知ることが出来んと言うのが、儂らの信念じゃからな!」


「うむ!兄者の言う通りじゃ。酒は隠された人の本心をさらけ出すことが出来るという!酒の前では我らは皆平等なんじゃ!」


人の本心をさらけ出すって…それは単に酔っぱらってしまい正常な判断が出来ていないだけなのでは?と疑問に思ったが、あながち間違いでもないなと納得することにした。ま、俺には関係のない話だし。


「実はですね、檀上さんから事前にその話を聞いておりましたので、こちらの…人間の世界で作り出されたお酒をいくつか用意しておきました。人間とドワーフ、両種族の交流を深める為にも、この後宴会をするというのはどうでしょうか?」


「ほう!人間の作った酒か!興味深いの!」


「確かに!儂らがこれまでに飲んだことのない酒と言うのは非常に興味がそそられるのぅ兄者!」


今日会ったばかりの種族と共に、宴会を催そうとするとは。少しぐらい警戒しろよ!と忠告してあげたい。いや、それだけ俺達の事を信用してくれているのだ。悪い事ではないんだがなぁ…


宴会ともなればこの場にいる人数だけでは少々物足りない。よって酒井さん、そして湯川所長の推薦により、お酒に強く、そして口の固い協会の職員が招集され、そのまま宴会をする流れとなった。


酒井さんの音頭により始まる宴会。ダンジョンに出店している食料品店にはあまりお酒が売っておらず、急遽ダンジョンの外にまで買いに行かされたのだと召集された知り合いの職員さんに聞かされた。


この場に来ている職員さんは全部で10人ほどだ。皆が仕事として、堂々とお酒が飲めることに喜びを感じている、そんな印象を受けるほどこの宴会を楽しんでいるように見えた。


酒のつまみとして、唐揚げの様な脂っぽいものやあたりめの様な乾き物まで様々なものが用意されている。協会から宴会をするための予算が捻出されたのだろう、見るからに高級そうな包装に包まれていたお酒やおつまみをいくつも散見することが出来た。


ちなみに俺は下戸と言うほどではないが、かといってお酒に特別強いという体質でもない。存在感を消すように部屋の隅に移動し、お酒を飲むふりをしながらおつまみばかり口にしていた。そうしてほどほどに時間が経過した頃、トイレに立つふりをしてしれっと自室へと帰ることにした。


部屋から出た扉の先に、酒井さんではない顔見知りの戦闘員の方がいた。しれっと帰ろうとする俺を止めるでもなく、何も言わず優しい顔で見送ってくれた。バックレようとしている俺を見逃してくれたのだ、感謝しかない。今度彼にもお礼をしようと心に誓い、自室へと帰った俺は寮にある大浴場に入ってさっさと寝た。

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