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少し遅い朝食を取り終えた後、俺達は移動を開始した。ちなみに朝食はお近づきの印?に、俺が提供した。持ってきていた食パンをトーストし、缶詰のあんことたっぷりのバターを乗せた、あんバタートーストを作った。カロリーは高いが、その分味は良い。ゴルド兄弟も絶賛していた。


ただ、その時に、『こんなフワフワで白いパンなんて初めて見た』と言っており、あんな長々と説明せずとも、もしかしたら初めからこのパンを食べさせていれば、すぐにでも異世界の事を納得してくれたのではないのか?という疑問が頭をよぎってしまった。…あれだけの苦労をしたんだ、そんなことないよな?と自分に言い聞かせる。


俺達とは違い、余計な味付けをしていないパンと猫缶を朝食に食べた『ボス』は帰り道、ゴルドさんの背中と背負子と間にすっぽりと収まり、そこでずっと眠っていた。ドワーフは縦に小さい分横幅と厚みがあるかなりガッチリとした体格をしており、彼らに比べれば軟弱な体格をしている俺よりもゴルドさんの背中の上の方が安定しているのは十分に理解している。それでもちょっとだけ、ジェラシーを感じてしまうのは仕方のないことだろう。


他愛のない会話をしていると、それなりにドワーフの生態?とかに詳しくなっていく。


物語とかである様に、やはりドワーフという種族はお酒が大好きらしく、重要な取り決めとかもお酒の席で話し合うのだとか。飲酒し、酩酊した状態では正確なやり取りができないのでは?とも思ったが、ドワーフという種族が酒に強く酩酊状態になることなどほとんどないため、そう言った問題が出ることなど無いとのことだ。


ちなみにゴルドさん達の世界に『人間』はいるのか?という問いの答えは「さぁ?」という、非常に曖昧な物であった。いるかもしれないし、いないかもしれない。少なくともこの兄弟は見たことも聞いたこともないのだとか。


で、あるならば、『人間』と言う種族についてどう思っているのかという問いにも、「ま、そういう種族もいるんじゃろうて」という、大雑把な答えが返ってきた。ドワーフとは彼らのその見た目と同様、非常におおらかな性格をしているのだと思った。




研究所からそれほど離れていない場所まで戻ってきたので、エルフの時と同様、無線機にてあらかじめ連絡を入れることにした。


「はい、こちら酒井。何か問題でもありましたか?」


「ええ、問題大ありですよ。実はですね…」


無線機に出たのは酒井さんと言う、藤原さんの代理でこの研究所の警備主任を任されている人物だ。見た目が30代後半の角刈りの似合ういかにも体育会系といった人物で、何度か話をさせてもらったこともあるが非常にさっぱりとした性格の気持ちのいい人柄だ。とりあえず、ドワーフの事を伝え反応を待つことにする。


「ドワーフとの邂逅、ですか。まさか自分も、そのような場面に出くわしてしまう事になるとは…」


「いや、何か、スンマセン。仕事増やしちゃったみたいで」


「いや、檀上さんが悪いというわけじゃないんでね、そこは全然気にしてないんで。とりあえずそのお2人を、前回と同じ様に寮の裏口まで連れて来てもらってもいいですか。上にはこちらから話を通しておきますんで」


「分かりました。お手数をおかけしてすみません」


通信機を切ったところでエルフの時の様に、外装などを使ってこの2人の姿を隠した方が良いのではないか?という疑問が頭をよぎったが、ま、大丈夫だろう!という、謎の自信もあった。


エルフにはその外見の美しさから、どこか触れれば壊れてしまいそうな儚さというものがあり必要以上に丁寧に扱ってしまったが、失礼な感想であることを重々承知ではあるがこの2人からはそういった物は一切感じない。今も俺が先ほど使った無線機を見て『仕組みが気になるの!』という、のんきな会話を繰り広げているぐらいだし。


付け加えるなら、あと数時間もすれば日が暮れ『ダンジョン』の人通りは少なくなる。人が少なくなれば当然、人目もなくなるというわけだ。その分だけ、何とかなるだろうという楽観した気持ちも強くなる。


「それじゃ、あともう一息なんで頑張りましょう!」


「うむ!楽しみじゃな、弟よ!」


「だな、兄者!」


彼らはつい半日前までは『人間』という生物の存在すら知らなかったはずなのに、随分と暢気なものだと思った。ただ、その暢気さと言うのに救われてている気もすることも事実である。ドワーフという種族すべてが彼らの様なおおらかな性格なのかは分からないが、少なくとも最初に邂逅したドワーフがこの兄弟でよかったと心の底から思った。

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