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一仕事終えた俺は『ダンジョン』にある私室へと戻り、探索に赴く前と似たような自堕落な日々を送っていた。大きな仕事を成し遂げた後と言う事もあり、服部さんも特に何も言ってはこなかった。
と、言うより、彼女は彼女で忙しいらしく、俺の様な小物に構っているだけの余裕が無かったようにも見えた。原因は言うまでもなく、兄弟子…つまり動物であるハヤテ君が『ダンジョン』にある隠し部屋を発見したことにあるだろう。まさか『協会』の仕事の一部を俺に振ったことが、結果として自分の仕事の量を増やすことに繋がるとは思ってもいなかっただろう。彼女には悪いが、当事者である俺も驚いている。
藤原さんも新しく発現した〈調教〉という『スキル』の習熟、そして獲得のための条件を知るために『協会』からの要請に色々と答えているらしく、『協会』の支部のある各地を忙しく回っているらしい。
しかし隠し部屋を発見した当事者である兄弟子は俺の『ダンジョン』で、俺と似たような自堕落な日々を送っている。
各地にある『ダンジョン』に派遣され、隠し部屋を見つけるために齷齪働かされるのではないかと推測していたが、今はまだ貴重な『スキル』持ちの動物を失う可能性のあることには、『協会』もあまり積極的ではないらしい。
今後、〈調教〉の『スキル』持ちが増え、『スキル』を自由に発動し高い戦闘力をもつ動物が増えれば兄弟子も探索に駆り出されるようになるかもしれないが…その頃になってみなければ分からないこともあるというのが、今の俺の素直な感想だ。
そんなわけで飼い主が忙しいということもあり、兄弟子の面倒は俺が見ている。元々気が合う(願望)という事もあり、兄弟子も満更でもなさそうだ(主観)。
藤原さんのご家族も兄弟子がいないことに不満があるのではないのか?とも思っていたが、先日兄弟子の子供たちが産まれたと言う事もあり、子犬たちのお世話が忙しいらしく、あまり気になってはいないらしい。亭主元気で留守がいい、と言うのは犬の世界でも適用されるんだと思った。
先日の魔道具お礼も兼ねて、兄弟子には毎日結構よい物を食べさせている。これで兄弟子は俺に身も心もメロメロだ。……物で釣るという、浅はかな考え方がいかにも小物らしいがこの性分は変わることは無いなと思った。
しかしその効果は上々であり、ご飯をあげる時など俺の顔を見ると満面の笑みを見せ勢いよく飛び掛かって来ては俺の周りをグルグルと回る。そんな可愛らしい反応を見せられてしまえば、今更食事のグレードを下げられようはずもない。藤原家にハヤテ君を返した時、兄弟子の食生活の事で何か言われるのではないかと少しだけビクビクしているが、それはあまり考えないようにしている。
ハヤテ君を可愛がっているのは俺だけではない。その愛くるしさから彼のファンは『協会』の関係者だけでなく、『ダンジョン』を訪れる人々にも多くいる。一般人にも愛想を振りまき、頭を撫でられて嬉しそうにしている兄弟子を見るのは少し嫉妬してしまうが、俺の顔を見た時の方が尻尾の振れ幅が大きい気がするので我慢することも出来る。
そんな感じでマスコット的な立ち位置を確立している兄弟子であったが、そんな兄弟子にも最近ライバルと呼べる存在が出現した。昔から近所に住む、地域猫の『ボス』だ。
野良猫とは思えないほどガッシリとした体格に加え、茶トラの美しい毛並みを持ちあわせている。また、そのふてぶてしい表情に似合わず人間に媚びることが非常にうまく、現地妻…ではなく、彼にエサを献上するご家庭も多くある。
まるで王様の様な堂々とした風格を持ち合わせており、『御屋形様』『殿』『キング』『カイザー』など、いくつもの綽名を持ち合わせていたが、ついに先日、回覧板にて彼の名前が多数決によって決がとられることになった。そうしてついに『ボス』という名前が正式に決定されたというわけだ。
そんな『ボス』が俺の『ダンジョン』に目を付けたのはつい最近の事だ。元々『ダンジョン』の存在は認知していたらしく、近くに顔を見せることはあったが人の多さもあってか『ダンジョン』の中にまで入ってくることは無かった。
しかし真夏の熱い日差し避けるためか、ついに『ダンジョン』の中に入ってくるようになった。人を見る目が非常に優れており、『ダンジョン』の中でもすぐに自分にエサを献上する下僕を見つけ悠々自適な『ダンジョンライフ』を送っていた。
最近では元いた下僕だけでなく『ダンジョン』に訪れる人々からも餌をもらうようになっており、彼の食事の幅が広くなっているのだとか。そしてそんな彼目当てに俺の『ダンジョン』を訪れる人も現れるようになり、俺にとって非常に喜ばしい流れが出来ていた。
何不自由ない生活を送っていた『ボス』であったが、運動の為かトノサマンバッタを狩る姿がたびたび目撃されるようになっていた。そして人間の真似をしているのだろう、ドロップした『魔石』を『協会』に持ち込んでいるのだとか。無論報酬をどのように払っていいのか分からない職員は、とりあえず『ボス』専用の口座を作り、彼の報酬をそこに貯蓄しているらしい。
昔から『ボス』は頭がいいと思っていたが、まさか『魔石』の買取にまで手を出していたとは…頼もしいことこの上ないな、全く!




