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「装備出来ましたね。まさかハヤテにも魔道具を装備できるとは…これはこれで、新たな発見と言えるでしょうね」
魔道具は装備した者の体格に合わせて、その大きさを変化してくれるという謎テクノロジーな親切設計がある。人間の腕に装備できるよう元はそれなりの大きさをしていた腕輪であったが、ハヤテ君の腕?足?に嵌めてみた所、ぴったりとした大きさに縮小していた。これなら激しく動いたとしても外れることは無いだろう。
魔道具を装備したことで新しい『スキル』を使えるということもあってか、いつもより3割増しで凛々しく見える兄弟子。何となく「俺も試してみたいから貸して!」と声をかけにくくなってしまう。
「ハヤテ君を〈鑑定〉したところ腕輪を装備した効果もきちんと反映されているみたいですし、ダンジョンに動物を同行させることの敷居が低くなった…ってことですかね?」
「それはまだ、何とも言えませんね。こういった魔道具の類は数も少なく高価ですからね。仮に動物などに装備させることが出来ると分かったとしても、実際に動物に装備させるほどの資金的な余裕がある探索者なんて、ほんの一握りの上澄みに限られるでしょうね」
「ってこと、当面は俺のダンジョンにいる様な、最低クラスの強さしか持たないモンスター相手に『格』を上げさせることに注力しないとダメと言うことですか。動物の自主性に任せて『格』を上げさせようとすると、どうしても時間がかかりそうですね」
エルフ女子2人に「いつもよりカッコいい」と頭を撫でられながら褒められ、少しだらしない表情を見せた兄弟子。今はこんなんでもハヤテ君は藤原さんがキッチリ躾けていたため、初めからそれなりにモンスター(トノサマンバッタ)と戦うことが出来ていた。しかし並の犬猫にいきなり『モンスターと戦え!』と指示を出したとしても、言うことを無視されるのが関の山だろう。
「自主性…ってことに関係しているのか分かりませんが、実は最近、〈調教〉と言うスキルを獲得しましてね。スキルレベルが低いので未だ何とも言えませんが、恐らくこのスキルのレベルを上げると、動物にもある程度、的確な指示を出すことが出来るのではないかと思われます」
「へぇ、そんなスキルが。もしかしたら、その調教というスキルを持った人が動物を躾け、その躾けられた動物を探索に同行させる、そんな未来も来るかもしれませんね」
動物を同行させることで宝箱の発見率が上がるとしたら、多くの探索者がそれを望むだろう。そうでなくとも、今回の探索ではハヤテ君はその機動力を生かし敵モンスターの注意を引くなどしてそれなりの功績を打ち立てていた。探索に動物を同行させることは、デメリットもあるだろうがそれなりのメリットもあると見て間違いないと思う。
「とりあえず今回の件に関してはこの探索が終わり次第、私が報告書を纏めて提出しておきます。もしかしたら皆さんに質問状と言う形で何らかの連絡が来るかもしれませんが、皆さんが思ったことを脚色することなく忌憚のないご意見を下さい」
という、作田さんの言葉で締めくくられた。ここでこれ以上考えても意味のない事だ。俺達の目的は少しでも多くの情報を持ち帰り『協会』に報告すること。頭を使う事は、頭のいい人に任せるのが一番だ。
そうして俺達は身支度を整え、地表に向けて帰ることになった。道中は魔道具である腕輪を嵌めたハヤテ君を前面に押し出す形で進んでいった。無論、動物が魔道具を装備したときのデータを得るという目的のためだ。
装備品によって使用可能となった『スキル』も問題なく発動している辺り、動物でも魔道具の使用に障害が無いように感じた。ま、ハヤテ君が他の動物よりも優秀だとか、飼い主である藤原さんの持つ〈調教〉という『スキル』が役に立っているためだとか、考察しなければならないことが多々あろうが、難しい事は置いといて、俺は兄弟子の雄姿を純粋に楽しむことが出来た。
そうして何事もなく、数日ぶりに無事『ダンジョン』の外に戻ってくることが出来た。
「皆さんお疲れ様です。今回獲得したアイテムに関しては売却予定額を人数分で頭割りし、皆さんに分配させていただく予定です。檀上さんは口座振替、アウラさんとライラさんは現金での支給で問題ないですか?」
「…いいんですか?売却額のほとんどはハヤテ君の発見した魔道具になると思うんですが、それも人数分で割ってしまって?」
魔道具の発見に関しては、俺達がしたことなんてほとんどない。それなりに、魔道具の売却額まで含めた金額を頭割りしてくれるとはこれ如何に。
「それも含めて、皆さんの功績だという考えで差支えが無いのでは?」
何とも太っ腹なことだと思った。そう言うことなら遠慮なく貰うことにしよう。魔道具を発見してくれた兄弟子に今度ブ〇チ…だけではなく、チ〇ールでも贈答し還元することにしよう。きっと、喜んでくれるに違いない。兄弟子は現金よりも、こういった食べ物のほうが好きだからな。




