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この『ダンジョン』は難易度が比較的低いこともあり、もう少し先に進めばこの『ダンジョン』の最深部と言える場所にまでたどり着くことが出来た。それでもここに来るまでに数日を要しており、ハヤテ君とエルフの2人の戦闘データを得られて事を踏まえて考えるとこの探索は十分に成功したと言えるだろう。
「ここまでで十分な成果が出ましたし、わざわざダンジョンの最深部にいる『ぬし』まで倒す必要性を感じませんが…皆さんの意見はどうでしょうか?」
『ぬし』とは『ダンジョン』の最下層にいる、いわゆるボスのようなモンスターだ。当然その辺りにポップしてくるモンスターよりも強く、『ダンジョン』に挑む探索者も『ぬし』に挑むことを避けているところもある。まぁ、余程の戦闘狂でもなければ、わざわざ強い相手に挑むというのもおかしなことではあるが。
「う~ん、せっかくここまで来たんだから、どうせなら最後までやり切りたいって感じもしないでもないかな?」
「…右に同じ」
「ワン!ワン!ワン!」
と、三者が『ぬし』に挑むことを決めたようだ。兄弟子はエルフ2人にすっかり懐いてしまい、彼女らの意見に従う姿勢を見せている。…君の飼い主は藤原さんなのだがな、美人には従わざるを得ないのはオスであるが故の宿命か。兄弟子との付き合いはエルフ2人よりも俺の方が長い。ちょと…いや、かなりのジェラシーを感じてしまう。
藤原さんと作田さんは完全な中立を保っている。俺がいくら反対しようとも『ぬし』に挑むことは多数決により決定づけられたと言えるだろう。ただ、あまり危険に近寄りたくない俺でも、今回ばかりは『ぬし』に挑むことに否定的な感情は湧いて出てこなかった。
それは、この場にいるメンツの実力が1匹を除いて俺よりも上である事、そしてつい最近覚えた〈支援魔法〉を使ってみたいと思ったからである。『ぬし』以外の相手であるなら、〈支援魔法〉を使わずとも容易に倒すことが出来そうだからな。そんな強さ的に満足できないモンスター相手に、〈支援魔法〉を使う事は気が進まないというわけだ。
もちろんスキルレベルが1である今の状態なら大した支援効果は無いだろうが、実際に他者にかけることでどれほどのものであるのか意見を聞いてみたいと思ったのだ。その為の絶好のチャンスと考えれば『ぬし』に挑むことも吝かではないというわけだ。
「では皆さんの意見も出揃ったということで、『ぬし』に挑むことにしましょう。まずはこのダンジョンの『ぬし』について、私が知る情報を共有しておきましょうか」
『ぬし』に挑むかどうかは決めかねていたみたいだが、『ダンジョン』に挑む前からちゃんと『ぬし』の正確な情報を集めていた辺りやはり藤原さんは用意周到な性格をしているのだと思った。
休息の最中に『ぬし』の情報を共有し、さらに半日ほど移動に費やしてようやく『ぬし』のいるエリアに到着することが出来た。道中は交代で戦闘をした。エルフの2人の実力はやはりかなりの物であったし、「腕が鈍っていては『ぬし』相手に実力を発揮できないかもしれない」そんなこと言って途中から参加してきた藤原さんと作田さんの戦闘を見たが、やはりかなりの実力者であると感じた。
藤原さん達の戦闘力は…まぁ、言わずもがなだ。この2人はエルフの護衛も兼ねている。仮にエルフに何らかの不慮の事故が発生すれば、それは『ダンジョン協会』の落ち度と言うことになり、『協会』の威光に翳りが出てくるかもしれないからな。
藤原さんは何らかの『スキル』を使ったのだろう、遠距離にいる複数体いるオーガ相手に斬撃を飛ばすことでそのすべての首を一刀のうちに切り落とし、作田さんも〈雷魔法〉で10体以上いるホブ・ゴブリンの群れを一瞬にして消炭にしていた。普段から礼儀正しく、また温厚なこの2人が相応の実力者であることを改めて実感させられた。
「さて、ようやく『ぬし』のいるエリアまでたどり着きました。最後の確認ですが、本当に『ぬし』に挑んでも大丈夫ですね?………今更聞くまでもない、ですか。了解です。それでは行きましょうか!」
そう言って、俺達は『ぬし』のいるエリアに足を踏み入れた。
剣持さん達との特訓ではこのエリアまで来なかった。つまり俺にとって今回が初めての『ぬし』戦であるわけだ。そんな重要な一戦を、これだけの実力者と挑めることに感謝しかない。
…誰に感謝するべきなのか?と悩んだが、ここにいるメンバーは勿論の事、今回の探索の話を持ってきてくれた服部さんも含まれるだろう。よく考えてみれば、彼女には色々とお世話になっている。今度菓子折りでも差し入れしておこうかと思った。
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