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「〈ファイヤー・ジャベリン〉!」
ライラさんの放った魔法と同じ〈ジャベリン〉系統の魔法であるが、その威力は彼女のものには遠く及ばない。オーガの胸に突き刺さったその攻撃はオーガに小さくないダメージは与えたが倒すまでには至ってはいなかったのだ。
とは言えそれも想定の内ではある。攻撃を受けたことにより激昂し、その痛みの元凶となった俺を排除しようと勢いよく接近し襲い掛かってくる。が、戦いにおいては常に心を落ち着かせ、冷静沈着でいなければならない。
オーガの持つ、降り降ろされた大きな棍棒を余裕をもって躱す。筋骨隆々であるオーガの一撃は喰らってしまえばかなり痛そうだ。だが大ぶりなその攻撃は中級以上の探索者なら隙を見つけて反撃することも出来るし、初級探索者でも落ち着いて回避にのみ専念すれば攻撃を躱し続けること自体はそれほど難しいものでもない。ましてや少なくないダメージを負い、その痛みにより攻撃にのみ集中できない状態であるならなおのことであろう。
攻撃をちょろちょろと躱されて更に頭に血が上ったのだろう、だんだんと攻撃が御座なりなものとなっていく。そして先ほどよりもひときわ大ぶりになった一撃を躱されたことによって大きく体勢を崩す。その隙を狙いオーガの足に向けて〈ファイヤー・ウィップ〉を放つ。
オーガの足に巻き付いたそれは万全の状態のオーガなら簡単に振りほどけたであろうが、体勢を大きく崩しかけていたということもあり、足元をすくわれその場で尻もちをついてしまう。
そんな無防備な状態を俺が見逃すわけもない。サッとオーガの背後に回り、手に持った短剣をオーガの首めがけて突き刺す。確実に仕留める為に2度3度と何度も突き刺し、反撃があるかもしれないと警戒し、念のため再び距離を取った。
……が、尻もちをついた状態でグラリと体勢を横に崩したかと思うとその場に倒れ伏し、光の粒子となって消える。コチラのケガは一切なし、俺の完全勝利と言うわけだ。
勝利の余韻に浸っていると更に接近してくる複数の反応を感知。この反応は確か…ホブ・ゴブリンだったか。藤原さん達の意見を聞くため、後方に待機していた彼らの反応を窺うが…黙って大きく頷いてきた。…なるほど、こいつらも俺に対処しろというわけか。
ホブ・ゴブリンは集団行動を基本とし連携の取れた行動をしてくるため、単独行動を好むオーガよりも厄介な存在と言えるだろう。とはいえ個々の能力はオーガよりも劣っているためやりようはいくらでもある。ホブ・ゴブリンが俺の有視覚範囲に入った瞬間につい最近使えるようになった魔法を発動する。
「〈ファイヤー・ローリング〉!」
両側面に構えた俺の手の先に炎を纏った2本のリングが出現し、それを接近してくるホブ・ゴブリンに向けて放つ。地を這うように高速回転しながら目標に接近し、先頭にいたホブ・ゴブリンを切り刻み一瞬にして肉塊に変える。
それを見た、後方にいたホブ・ゴブリンは横に移動し攻撃を回避しようとするが、そのリングには敵を追尾し攻撃を続ける能力がある。複数体いたホブ・ゴブリンもすべてをもれなく肉塊に変え光の粒子となって消えた。
「お見事!まさか〈ローリング〉系統の魔法まで習得していたとは、御見それしました!」
「使えるようになったのは本当に最近の事ですからね。威力は申し分ないですがあまり使い慣れていないせいか、これを使うとかなり疲れてしまうんですよ」
一気に大量の魔力を消費したことで疲労してしまい、少し荒い息を整えながら藤原さんにそう答えた。もちろん〈アロー〉系統で敵を錯乱させてから各個撃破することも出来たが、新しく習得したこの魔法を皆に自慢したいという気持ちもあった。実際、藤原さんと作田さんもかなり驚いていたし、見た目も栄える魔法なので兄弟子も喜んでくれていた。
問題?はエルフの2人だ。魔法に長けているエルフである彼女らからすれば、この程度の魔法は驚愕に値しないのではないか?と少しだけ疑問も感じた。しかしそれも杞憂に終わる。
「うんうん。私はあまり〈系統魔法〉が得意ではないからあまりアドバイスとかできないけど、今の魔法はなかなかのモノだったよ」
「…確かに今の魔法は悪くない。ただ魔力の使い方が未熟だからそうして必要以上に疲れてしまう。でも訓練を積めば、もっと強くなれると思う」
「エルフであるアウラさんとライラさんに褒められるのは面映ゆいですね」
褒められたことに悪い気はしなかったが、ライラさんの言ったようにこの魔法を扱いきることが出来ていなかったこともまた事実である。訓練する時間を増やそうと思った。




