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ハヤテ君の素早い動きに翻弄されゴブリンが混乱する。その隙に一気に距離を詰め、ゴブリンの喉笛に噛みついた。ゴブリンの口から呻き声の様な、掠れた様な形容しがたい音が漏れ、ハヤテ君を引き剝がそうとわずかに腕を上げたがすぐに力なくだらんと落とし光の粒子となって消え去った。その場には『魔石』がドロップされており、ハヤテ君の完全勝利でその戦いは幕を閉じていた。


「よしよし、よくやったぞハヤテ。後でブ〇チをやろう」


「ワン!」


流石は兄弟子だ。ブッ〇という高級ドッグフードの名前を覚えているらしい。兄弟子がこのフードを非常に気に入っているのは、俺のダンジョンの関係者なら周知の事実だろう。それほどまでに兄弟子の人気は高いのだ。無論、俺もその1人だ。


「〈疾走〉からの〈咬み付き〉ですか。スキルの発動にも淀みがありませんでしたし、使いこなせていることの証拠ですね。私たちエルフも動物や魔物を飼いならしていますが、戦闘をさせることを目的に調教することはほとんどありません。もっぱら資材の運搬やら移動に使うことがせいぜいですからね」


褒めてもらうためであろう、ドヤ顔で近寄ってきたハヤテ君の頭を撫でながらアウラさんがそう答えていた。ハヤテ君の尻尾の辺りをポンポンと叩きながらライラさんが言葉を続ける。


「…こっちの世界は色んな乗り物が発達しているからその必要が無い。私たちの世界も調教した魔物を戦わせることもあるけど、せっかく調教した動物や魔物を戦闘によって失うのは損失の方が大きい」


とのことだ。その辺りの話はアルベルトさんから聞いたことがある。エルフに調教できる魔物は温厚な種族であり、あまり戦闘に向いていない。そんな魔物を戦闘に使うぐらいなら物資の運搬を任せた方が遥かに有益だ。魔物より弱い動物なら言わずもがなだ。エルフからすれば動物に戦闘訓練を積ませること自体が珍しいのだろう。


「アルベルトさんが、日本で作られた自動車などをあちらの世界で走らせるために街道の整備などを国に要請するとか言っていました。もしかしたら、それによって生じた余剰分の魔物や動物を戦闘目的に調教する可能性も…あるんですかね?」


「…さぁ?ただ、新しいものが入ってきたからと言って、今までの生活がすぐに変わることは無い。それはヒトもエルフも一緒」


確かに、新しく入ってきたものがどれだけ素晴らしかろうと、今までの在り方を急に変化させるにはかなりの勇気が必要だ。もしかしたら寿命の長いエルフほど、そういった保守的な考えが人間以上に強いのかもしれない。


「それはそうとして、そろそろ移動を始めませんか?」


と、先程の戦闘記録を録画していた作田さんが提案してきた。彼の進言も最もだと言えるだろう。何せここは『ダンジョン』の浅層だ。つまり人の通りが多く、ただでさえエルフやら犬やらが同行して周りからの注目を集めているのに、そんな会話をしていては人目を集めるなと言われる方が難しいだろう。


実際、俺達の近くにそれなりの数の人が集まっている。物珍しさもあるだろうが、貴重なエルフの情報を盗み聞きしようとしている人もいる。まぁ、隠さなければならないほどの機密性の高い会話をしているわけではないが、こうも堂々と盗み聞きをされてしまえば落ち着かない。


藤原さんが先導して、少し速いスピードで『ダンジョン』の奥地を目指して進む俺達一行。『ダンジョン』とはいつモンスターが襲い掛かって来るか分からないという危険な場所であるが、彼が先導を務めていれば余程の事でもなければ大丈夫だろうという安心感もある。


移動し始めた頃は俺達の少し後方にピッタリと付いてきて来た探索者も、奥に進むにつれその数を少しずつ減らしていった。彼らの装備品からすると、せいぜい初級以上中級未満といった具合だったからな。それも当然と言えるだろう。


素直に感心したのは、『緊急時は俺達に助けてもらう前提で、俺達に付いてきている』連中がいなかったことだ。『ダンジョン』の中はすべて自己責任であり、基本的には目の前で探索者がモンスターに殺されかけていても無理に助ける必要はないというのが暗黙の了解である。


かなり冷たい気もするが、下手に人助けをして自分の命を危険にさらさない保証なんてどこにもない以上それも仕方ない事だと皆思っているはずだ。


そして今回俺達についてきていた連中は、自分たちの身を自分たちの力で乗り越えられそうにない場所には付いて来なかったということだ。最初こそ『ミーハーな奴らだ』と思っていたが、きちんと探索者らしい心構えを持っていたことに素直に感心したというわけだ。俺も人を見る目が全然ないな。心の中で彼らに謝罪した。


しばらくは戦闘を避け奥地に進むことを優先する。数時間ほどかけて、オーガなどが出現する中級探索者が多くいるエリアにまでたどり着くことが出来た。

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