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今回の事件の被害者である俺に示談金を支払ったことで、何もかもすべて解決したと思っていたらしいギャル男の親父さん。被害者である俺がギリギリまで粘ると踏んでいたようであり、誠意ある対応の額の示談金を支払えば今回の事を他言しないことを条件にかなりの額を請求したらしいが、意外と上機嫌で支払いに応じてくれたと代理人さんから聞かされた。


そして翌週になりダンジョンの開発事業から外され、追い打ちとばかりに息子であるギャル男に対する訴訟祭りが始まった。


数カ月はダンジョンの開発事業に専念する予定であったらしく、直近の仕事は当然ながら何も無い。『協会』とは問題を起こせば違約金なしで中途解約できる旨の契約を締結しており、違約金なども当然ながら発生しない。おまけに今はまだ職人さんたちが辞めていないため、彼らに給料を支払わなければならないためすぐにでも新しい仕事を探す必要もある。


ちなみに現在、親父さんの職場で働く職人さんたちは仕事が無いため勤務時間中はかなり暇を持てあましているそうだ。


そんな職人さんたちを見てギャル男の親父さんが『給料泥棒!』『バイトの方が役に立つ!』などの罵詈雑言を言い放ち、仕事に見つからない鬱憤を晴らすが如く強く当たっているそうだが、新しい就職先も内々に決まっているという心の余裕もあり、どれだけ激しく怒鳴られてもあまり気にならないそうだ。それどころか仲間内で『誰が一番反省している風の演技が上手いか』そんなことをする余裕すらあり、むしろ今の状況を楽しんでいるのだとか。


親父さんはこれまでの取引先や知人などに相談しているらしいが、どれもあまり上手くいっていないみたいだ。『協会』の下部組織がその工務店の悪い噂を流していることも原因の1つだろうが、今までの横暴な対応のツケが回ってきたという理由もあるだろう。仮に大きな仕事が見つかったとしても、すでに職人さんたちの辞める手はずは整っている。どのみちその仕事の履行は不可能であろう。


勢いのあるうちは周りが気を使ってくれていただろうが、落ちぶれてしまえば簡単に見放してしまう。逆に今まで辛酸をなめさせられてきた連中の報復が始まるだろう。普段から周りの人に優しくしておかないと本当に困ったとき誰も助けてくれない、そんな状況に陥ってしまうのだと彼らは身をもって教えてくれた。反面教師とすれば、これ以上ないほどの優秀な教師だ。


当のギャル男本人は訴訟祭りが始まる直前まで遊び惚けていた。俺に対する罪悪感とか、警察に聴取されたこともすでに記憶の彼方だったらしい。しかし一旦ことが始まると状況がかなり悪いと見て子分たちにも距離を置かれ始め、連絡すらつかない状況にあるそうだ。


「テメェの仕出かしたことはテメェで始末をつけろ」仕事関連で全然上手くいかずイライラしていた親父さんにもついには見放されてしまい、裁判にかかる費用だとかを調達するために金策に動いているそうだが、これも上手くいっていないらしい。まぁ、お金を貸したとしても返す当てなど無さそうだからな、誰もお金を貸したがらないのも納得できると言うものだ。


そうして、二進も三進もいかなくなったギャル男はついに探索者の資格を取得し、『ダンジョン』に挑戦することになった。


今までこのギャル男は「探索者になる奴は人生の敗北者。何も持たない貧乏人が唯一持つ己の命を対価にして、ようやく金を稼ぐことが出来る底辺職だ」みたいなことを周りに言いふらしていたみたいだが、まさか自分がその職に就くことになるとは夢にも思っていなかっただろう。


現在は下級探索者として毎日ボロボロになりながら探索を続けているらしいが、適正率があまり高くないらしく強くなるにはまだまだ時間がかかりそうだ、と言う話を服部さん経由で聞いた。


それにしても『ダンジョン』の利権をチラつかせて悪さをしようとしていたのに、探索者の事は馬鹿にしていたとはな。ソッチの方が驚きだ。もっと敬意もっていれば……とも思ったが、そんなまともな人格ならあのような愚かな行動に出ることは無いか。


そんな感じでギャル男周りは慌ただしい日々を過ごしていたらしいが、俺は日常業務である山の管理作業に集中することが出来た。


引き続きエルフの2人を雇い、草刈りや木々の剪定を行う。山中であるため昼食は簡素なものであったが、夕食はそこそこ良い場所に出向いた。あの日以降、ギャル男の様な奴には遭遇していない。まぁ、遭遇する可能性の方がずっと低いだろうから当然と言えば当然か。それを初日で引き当てた俺の運のなさを呪うとしよう。


ちなみに一番好評だったのはうな重であった。この時期は精を付けなければならないからな、そこは人もエルフも大差が無いのだと改めて実感した。……まぁ、特上を2杯3杯と食べられてしまい、俺の血の気が引いてしまうのを止めることは、流石のうな重も不可能であったが。


そうして2週間ほど続いた作業期間も終わりを告げた。これでしばらくはのんびりとした日々に戻ることが出来るだろう。エルフの2人が露骨に残念そうにしていたのは、俺の福利厚生が充実していたからに違いない。少なくとも、俺が原因となりエルフとの関係が悪化することは無いはずだ。それぐらい、彼女らの待遇には気を使っていた。


多少の問題はあったものの、大きな事件に発展することなく無事に終わりを告げたことは満足だ。いや、終わってみれば、むしろ示談金という思わぬ臨時収入もあったし、総じては満足することの出来たひと夏であった。

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