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数日間に及ぶ『エルフ』達の聞き取り調査を終え、かなり早いが明日『エルフ』達との合流地点へと出発することになった。
結局その聞き取り調査は最後まで俺と剣持さんは参加させられ、意図したことではないが俺達もそれなりに『エルフ』の生態について詳しくなったと思う。多分『エルフ』との合流地点まで俺達が島津さん達を案内するということを踏まえて考えれば、わざと俺達にも情報を共有させたということだろう。
つまり『ダンジョン協会』側から、今後とも俺達が『エルフ』との交流の窓口の一つとして扱われる可能性もあるというわけだ。
それなりにうまみもあるだろうが、小市民である俺からすれば面倒なことこの上ないというのが本音だ。俺が『ダンジョン協会』に所属する職員なら出世のチャンスと前向きに考えることも出来るが、今の俺は完全なフリー。功績を立てたとしてもそれをうまく扱いきるだけの『脳力』もなければ『能力』もないのだ。
まぁ、今や日本を代表する巨大組織、『ダンジョン協会』に多少なりとも恩を売ることが出来ると考えれば悪くは無いのかもしれないが…
「それでは、本日はここまでにしましょう。予定通り明日の9時にここを出発します。皆さん遅れないよう、集合場所まで集まってください」
島津さんの号令によってお開きとなった。昨日と同じようにさっさと部屋を抜け出して寮の自室へと戻り、大浴場に行こう。そんな事を考えていると、部屋を出る直前に島津さんから珍しく声をかけられた。
「檀上君は残ってもらえないか?少し話がある」
「…?分かりました、俺に一体どのような話が?」
部屋の扉に向かおうとしていた足を止め、島津さんに促されて先ほどまで座っていたソファーに座りなおす。その間に島津さんの表情を観察して、何を言われるか考察を……っていつものポーカーフェイスだから何も分からないな。
「さて。今後エルフ達と交流を深めていくとなると、この場所はとても重要な拠点になるだろう。例えば、エルフの国の大使館などをこの地に建設するかもしれないし、エルフの方々の欲する物品などを取り扱う免税店の様な販売所を構えることになるかもしれない」
「…なるほど。それらの建築物を建てるために、ダンジョンの中の土地を提供してもらいたい。つまりはそう言うことですね?」
「話が早くて助かるよ。その際の売買代金に関してだが…」
言い淀んでいるという事は、何かしらの事情があるということだろう。この巨大な研究施設を建てたことで本年度の予算が尽きたとかかな?もちろん予備費なんかもあっただろうけど、『ダンジョン』の中が異世界と繋がっているだなんて誰もが予想だにしていなかったことだ。
きっと俺が知らないところで今までも何かしらの経費が発生していたとしてもおかしくなはいし、今後とも何かしらの理由で多額の予算が必要になる場面もあるかもしれない。だから今は少しでも削れる部分は削っておきたい、そんなトコロかな?仕方ない、救いの手を指し出してやるか。
「今回も土地の提供に関しては無料で構いませんよ。表にある駐車場収入だけでも毎月かなりの額の収益がありますから。これと言って浪費癖もないので今のままの生活でもそれなりに満足しています。もちろん一気に大金を得るチャンスでもあるということは理解していますが、正直そんな実感が湧かないってのが根本にありますけどね」
「…聞いていた通りの人柄だな。分かった、君の提案に甘えさせてもらおう。でも流石に君に頼りっぱなしだと悪いからな、今回の件はダンジョン協会から貴方に対する大きな『借り』とさせてもらう。何か大きな問題に直面した際、遠慮なく頼ってくれ。我々が全力でバックアップしよう」
「その時はよろしくお願いします。まぁ、ダンジョン協会の手を借りなければならないような案件が発生しない方が良いんですがね」
話しも終わったようなので部屋を出て寮の自室に向かう。
この数日間は本当に疲れた。しかし本当に大変なのは明後日以降になるだろう。何せアウラさん達が所属する国の『エルフ』との交渉が始まるのだから。
それでもその交渉が上手くいき『エルフ』との交流が本格的に始まれば、俺の『ダンジョン』の重要性は今よりもはるかに高まるはずだ。そうなれば当然、駐車場収入の増加も見込めるというわけで…
俺に出来ることはかなり限られているが、それでも全力を尽くそう。そう決意して、明日以降に向けて今日も早めに床に就くことにしよう。




