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「この研究所で研究されている人の多くは、ダンジョン協会でもそれなりに結果を残している人で占められていますからね。協会は完全な実力主義ですので、この研究所で働かれている人にはかなりの研究費用が支給されています」


「つまり、周りにいるのも優秀な研究者であるから、周りから良い影響を受け、より研究がはかどるという好循環が生まれていると?」


「そんな感じですね。まぁ、ダンジョンに関する研究をされている人の多くが趣味と仕事を兼ねているような人が多いためか、時間を惜しんで研究しているのでしょう、こういった娯楽施設をあまり使わないという人も多いのですよ。もったいない気もしますが、貸し切りのように使うことが出来るので僕とすれば悪くはないですがね」


趣味が仕事になる、か。羨ましい境遇だ。俺の前職はとてもではないが趣味になりえるような業種ではなかったから、毎日が辛い日々であった。それを思えば、今の探索者という職業は命の危険?が付きまとうが、それなりに俺に適した職業なのかもしれないな。…まぁ、実際に命の危険が晒されるような危険な探索は経験したことは無い俺が言うのもアレだが。。


「…っと、僕はこの辺でお暇させてもらいます。実は昨日も徹夜してしまって、かなり眠くって。たまにですが大浴場の中で眠ってしまう事もあったので、こうしてお話しすることで、眠気がちょっとでも紛れたので助かりました」


そう言って少しふらつきながらゆっくりと去っていった。趣味が仕事になる。それは矢田さんにも言えたことなのだろう。彼の話からすると、この研究所にいる研究者は優秀であるので成果に追われているということは無いはずだ。にもかかわらず徹夜をするということは、仕事が楽しくて楽しくて仕方ないのだろう。


思えば俺も結構な時間風呂に入っていた。これ以上はのぼせてしまうかもしれないな。疲れを取るための入浴で、体調を崩すなんてもってのほかだ。シャワーで軽く体を流し俺も風呂から上がることにした。


脱衣所にはすでに矢田さんの姿は無い。彼が倒れていなかったことに安堵し、壁に立てかけられている時計を見て少し早いが夕食の時間に差し掛かっていることを確認する。もちろん食堂の利用も許可されているので向かうことにした。




流石に早い時間であるので食堂に来ている人が少なかったが、見知った顔があった。剣持さんだ。こちらの気配を感じたのか軽く手を振って来たので、割と豪華な食事の乗ったお盆を持って彼の向かいの椅子に腰かけた。


「おや、檀上さん。大浴場に行かれていたのですか?」


入浴によってツヤツヤになった俺の肌を見てそう問いかけて来た。


「ええ、久方ぶりのお風呂ですので、随分とリラックスすることが出来ました。広いお風呂で人も少なかったので、剣持さんにも間違いなくお勧めできますよ。ちなみに剣持さんは今まで何をされていたのですか?」


「この研究所に知り合いの研究者がいましてね。その人に挨拶に行っていました」


上級探索者ともなれば『ダンジョン協会』に所属する研究者とも知り合う機会があるのだろう。そのことに感心しつつも「俺もさっき、矢田さんという研究者と知り合いになったぜ!」というつまらない対抗意識が芽生えた。まぁ、偶然の産物?であるので恥ずかしくてとてもではないが口に出せないが。


「大浴場もそうですが、この食堂にもかなり立派なものですよね。以前勤めていた会社にも食堂はありましたが、安いパイプ椅子と折り畳み式の机しか置いていないような、随分と寂しい様相でしたからね」


俺は夕食である肉厚なカツの乗った、爽やかなスパイスの香る高級レストランで提供されるような立派なカツカレーを食べながらそう呟いた。無論、大企業ならそのようなことは無いのだろうが、食堂と聞くと、どうしても昔勤めていた会社の食堂が頭に浮かんでしまうのだ。


「分かりますよ、その気持ち。私も食堂と聞くと、母校である高校の食堂を思い出してしまいますが、多分檀上さんが想像しているような食堂と似たり寄ったりな作りでしたからね」


剣持さんは付け合わせのサラダを食べながらそう答えた。新鮮で瑞々しい野菜がふんだんに使われており、色とりどりの野菜が舌だけでなく視覚でも食すものの心を潤してくれる。


ちなみに食堂で提供される野菜は地表から持ち込んだ物であり、俺がプランターで栽培したような『ダンジョン』の中で作られたものではない。だが、いずれは『ダンジョン』の中で野菜を作り、それを食堂などで提供されるようになるかもしれないと藤原さんが言っていた。輸送費などのコストを考えれば、初期投資に多少予算が必要でも『ダンジョン』の中で作った方が安心安全、安上がりになるだろうとのことだ。


「それはそうとして…『彼女達』は大丈夫でしょうか」


『彼女達』というのは当然『エルフ』達の事だ。人は少ないが、周りの目が無いということもないので隠語を使用した。紹介したのが俺達と言う事もあり、無体な扱いをされていたらと思うと少しだけ不安になる。


「多分大丈夫でしょう。湯川所長も若干変人っぽい感じでしたが、常識はわきまえているそうですよ。協会としても、これからエルフと関わる可能性がある以上エルフ達の機嫌を損ねるような行為をするはずがありませんからね」


話しぶりからすると、どうやら会いに行った知り合いの研究者に湯川所長の人となりを聞いたのだろう。俺と同じように、剣持さんも何かと気にかけていたということだ。


「そう…ですよね。案外今も、カツカレーをうまいうまいと言いながら食べているかもしれませんね」


俺のキャパシティを超えるようなことがたくさんあったので、少しばかりナイーブな気持ちになっていたのかもしれない。明日からも忙しくなりそうなので夕食後は早くに寝ることにした。寝る前に思った事。それは寮の一室に備え付けているベッドの品質が良く、自宅のベッド以上に快適な睡眠を得ることが出来そうだ、と言ういかにも小市民らしいことだった。

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― 新着の感想 ―
彼女たちって濁してる理由を理解していながら即エルフって口に出すって何考えてんだこいつ
彼女達、と誤魔化した次の会話ではもうエルフって言っちゃってていーのかな?
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