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エルフの2人は女性の研究者に連れられ、研究所の奥に向かった。俺と剣持さんの役目も終わり、解散することにはなったが研究所からは出ないでくれと頼まれた。未だ思考の海に捕らわれたままであった湯川所長を横目に俺達も移動した。


研究所から出ないでくれと言う事は、エルフという最重要機密の情報の漏洩を防ぐためであろうが不便なことには変わりない。と、思っていたが意外とこの研究所の開発も進んでおり、快適な生活を送れることを知った。


各部屋でテレビも見ることも出来るし、場所は限られているがネットにも繋がっている。また寮1階の正面玄関の奥には、ここで働く人のために作られた娯楽室もあるらしい。『最先端の研究が行われている、研究所の中』ということを忘れてしまいそうなほど快適な環境が整っている。


俺と剣持さんにはそれぞれ寮の一室を与えられた。部屋には家具家電も一式揃っており、少し狭いがシャワー室もある。加えて寮の1階には大浴場が設けられており、『ダンジョン協会』がこの研究所に大きな期待を抱いているのだと、投じられたであろう予算からそのことを改めて感じ取ることが出来た。


少し時間が早いが大浴場と言う言葉に魅了され、これといってすることもないので行ってみることにした。


案の定人は来ておらず、貸し切り状態であったことに思わずガッツポーズする。思えばここ数日は『ダンジョン』の探索をしていたということもあり、数日ぶりのお風呂である。そういった近況が今の状況をより幸せと感じさせてくれた。


シャワーを使って体を隅々まで洗う。一応寝る前にボディーシートで体を拭いていたが、あんな物所詮は気休めだ。大量の湯水を使わなければ、体の汚れをすべてぬぐい取ることなど不可能であるとボディタオルに付いた垢を見て改めて実感する。


そうして満を持して入った風呂は…格別の一言だ。ここ数日の疲れが湯船に溶け出したような気さえするのは気のせいではないだろう。2・30分ほどのんびりと浴槽につかり、思わず鼻歌を歌い出しそうになったタイミングで人の気配を感じ取り、寸でのところで止めることが出来た。


入ってきたのは全然知らない人だった。まぁ、それも当然か。この研究所に所属している研究者の数はすでに3ケタに達している。古参の研究者なら何となく顔を覚えているが、最近来た研究者だと全く分からないのだ。そんな事を考えていると、彼も体を洗い終え俺から少し離れた場所の浴槽につかる。


しばらくは沈黙が続いたが、彼が俺の顔をまじまじと見ているのに気が付いた。まさかこいつ、ソッチの気でもあるのか?そんな不安に駆られる。狩られてしまう前に風呂から出た方がよさそうだ、そんな阿呆なことを考えていると声をかけられた。


「すみません、少しよろしいですか?」


「ひゃい!何でしょう!」


不意に声をかけられたことで、声が裏返ってしまう。まさか狩られてしまうのか?いいや、大丈夫だ。俺は中級探索者並の力を有する探索者だ。研究に没頭しているような、軟弱な研究者如きに負けはしない。気とケツの穴を引き締め、丹田に力を籠める


「ああ、すみません。驚かせるつもりはなかったんですが」


「いいえ、こちらこそ。それでどういったご用件で?」


隙は見せない。相手の一挙手一投足を見逃さない。それが俺のイキ残る道。


「いえね、僕って結構人の顔を覚えるのが得意なのですが、貴方の顔を見るのは今日が初めてでしてね。どういった人なのかなぁって、興味が湧いたんで声をかけさせてもらったんですよ。研究者の方には見えないですし、もしかしてダンジョン協会に所属する戦闘員の方ですか?」


良かった、本当に良かった。安堵したと同時に、彼を疑ってしまったことに対する罪悪感が押し寄せて来た。謝罪したい気持ちにもなったが、いきなりそんな謝罪をされても逆に相手に不快な思いをさせるだけだろう。世の中には知らないままでいた方が良いことだってたくさんあるはずだ。


「自分は中級探索者の檀上と言います。今回の探索で、少しばかり有益な情報を持ち帰ることが出来ましてね。連絡をいつでも取れるようにと、しばらくは寮に寝泊まりしてくれとお偉方に頼まれたのですよ」


「檀上さんって言うと…確かこのダンジョンの所有者の檀上さんですか?」


「ええ、まぁ一応」


「それは…随分と大物の方と出会ってしまいましたね。おっと、そう言えば自己紹介がまだでしたね。僕は矢田と言います」


そっちの気が無いと知ったことで、気さくに会話することが出来た。

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― 新着の感想 ―
>「檀上さんって言うと…確かこのダンジョンの所有者の檀上さんですか?」 「ええ、まぁ一応」 この受けこたえは面白いですね。
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