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研究施設に近づくにつれ、『スキル』の訓練をしている初級の探索者らしき若者の姿を見かけるようになった。模擬戦をしている者もいれば、『スキル』発動の感覚を掴むためひたすら素振りをしている者もいる。その姿は真剣そのものであり、外装を深く被る不審者っぽい見た目をしている『エルフ』に気を配る人はほとんどいなかった。


そんな理由もあってか予定よりも多少早く寮の裏口に到着した。周囲に彼女らの正体がバレなかったことに安堵し、そして、これから起こるであろう面倒そうな出来事に若干辟易しつつも裏口のドアノブに手をかけた。カギは開いていたが、その扉のノブが重く感じたのは、俺の心持ちのためであろうか。


扉を開けてすぐ目の前にいたのは、俺が連絡をとった藤原さんと彼の部下の隊員さんの2名のみであった。情報が洩れることを懸念しての事だろうが、そこまでの厳戒態勢を敷く必要があるのか?という疑問も頭をよぎった。いや、異なる世界の住民との交流なのだ、慎重すぎるぐらい慎重を重ねなければならないのかもしれない。そんな事を漠然と考えていると、藤原さんが『エルフ』達に向かって襟を正した状態で自己紹介を始めた。


『ダンジョン協会』のほにゃらら大隊の何とか連隊所属のほにゃららとか、俺と初めて会ったときにも似たような自己紹介をしていたが、そんな小難しい情報をすべて記憶していられるだけの脳みそを残念ながら俺は持ち合わせていない。俺には関係ないことと軽く流し聞きしていると、一通りの自己紹介を終えたらしく別室に案内されることになった。


ほんのわずかではあるが、「お前達の役目はここで終わりだ、知りえた情報を決して口外しないように!」と注意だけされて解放されるかな?という淡い期待もあったが、残念ながら俺と剣持さんも同行させられる運びとなったのは言うまでもない。


そうして通された場所はこの研究施設内でも、土地の提供者という立場から比較的行動の自由を与えられている俺ですら、立ち寄ることを決して許されていない、かなり厳重な警備が敷かれた区画であった。


その部屋は恐らくはVIPを対応するための部屋であろう。俺の様な一般人でも見たら分かるほどの高そうな調度品やら家具で揃えられており、「この中の一つでも落として壊したらどうしよう」そんなことを考えずにはいられないほどの豪華な佇まいをしていた。


そんな事を考えていたのは俺だけでなく剣持さんも似たようなことを考えていたようで、横目でチラ見したときは緊張で顔が少し引きつっていた。多分、俺も似たような表情をしているのだろうな。


そしてここにきてようやく、アウラさん達に外装を脱ぐようにとの指示が入った。『ダンジョン』の中は温暖な気候である。そんな場所で外装を深く被っていたためであろう、外装を脱いだ彼女らは少しばかり汗ばんでいた。そこに少しばかりの申し訳ないという気持ちもあったが、彼女らの身を守るためには必要な措置であったのだ。


そんな彼女らの姿を見た藤原さんの表情が驚愕の色に染まっていた。事前に連絡をしていたとはいえ、耳で聞いただけの情報と、実際に自分の目で確認するのとは別の話であるということだろう。そんな考えに至るだけの十分な時間が経過した頃、ようやく責任者?らしき人が来ることになった。


どこかで見た記憶がある顔だ。確か…この研究所の所長である湯川さんと言う人だったか。第一印象が寡黙で思慮深く、ちょっとやそっとの事では慌てず動じず騒がない、常に冷静沈着で最善の答えを最短で導き出しそうな頼りになるリーダー気質の様な人物。そんな印象を抱いていたが…


「彼女らがエルフか!す、す、す、素晴らしぃ!実に……実に素ン晴らしぃぃぃぃッ!」


と言った感じで、大分はっちゃけた態度で俺達の前に姿を現したのだ。かつて彼に抱いていた印象と全く違うため、脳が彼を彼だと認識するのに少しばかり時間を要してしまったのだ。


「落ち着いてください、先生…ではなく所長。皆さんが困惑されているじゃないですか。当然エルフの方々もです。今後の事も考えれば、彼女らに不審者と思われることは望ましくはないのでは?…若干、いえ、かなり手遅れな気もしますが」


冷静なツッコミを入れたのは小林さんという瓶底みたいな眼鏡をかけた青年だ。有名国立大学で湯川所長と一緒に『ダンジョン』に関する研究をしていたが、『ダンジョン協会』にその優秀さを買われ、膨大な研究費用に魅了され2人同時に引き抜きにあったとか。


「とは言え、僕も興奮を抑えきることが出来ていないです。このダンジョンの中と言う最高の環境に加え、まさかエルフといった存在に出会えようとは…大学を辞めてダンジョン協会に入って良かった…!」


眼鏡の位置を何度も直しながら『エルフ』をガン見している。必要以上に近寄らないのは相手に警戒心を抱かせないための配慮だろうか。憧れのアイドルには必要以上に接近しない、ドルヲタの鏡のような性格をしているのかもしれない。


人間と言うのは、近くに自分以上に興奮している存在がいると却って冷静になるのだと思った。彼らの気に飲まれてか今の状況を冷静に考えるだけの余裕がうまれた。


その後俺達を置いてけぼりにして、様々な議論を重ねる研究者の2人組。その内容は難しく俺に理解できる範疇でない事だけは理解できた。彼らが再び俺達に注意を向けるには、彼らが来た時に供された熱いお茶がすっかり冷めきるほどの時間を要していた。

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