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「やっぱ、アリサちゃんたちだけが俺達の国に来るなんて筋が合わねぇ。俺達の方からも、何人かはアリサちゃん達の国に行くべきだと思うんだ!」


と、力説をする弓取さん。昨晩の見張り役をした際に、俺と同じような話を『エルフ』から聞かされたのだろう。朝起きて開口一番にそんな話をし始めた。ちなみに“アリサちゃん”と“ちゃん”付けで呼んでいるが、彼女の年齢は先日亡くなった俺の曾祖父と同い年だった。彼女たちのいた世界と地球が同じ自転であるとは限らないが、少なくとも俺達よりも一回りも二回りも年上であることには変わりない。そんな相手に“ちゃん”付けとは如何に。


「ですが…俺達についてくるエルフの方々もそうですが、身の危険があるんじゃないですか?あちらの国に行けば、俺達人間はオカピもびっくりするぐらいの珍獣ですよ?」


「そんなもん、百も承知さ!危険を顧みず未知を探索する。それが俺達探索者の本分じゃぁないのか!?」


その心意気はもっともだと感じる一方、それだけではないとも確信できるのは彼のどこか浮ついた表情を見れば一目瞭然だった。彼の本音はきっと、『エルフ』の国に行ってチヤホヤされたいなぁ、とでも思っていることだろう。聞いても多分、否定されるだろうけど。


「俺には弓取さん達の行動を制限する権限はありませんからね。…いや、一応は雇用主だからあるのかな?まぁ、いいか。ここまでの道中危険はなかったですし、俺の護衛は必要ないでしょう。それで、誰がエルフの国に行かれるのですか?」


「私が行きましょう!」

「俺が行く!」

「俺が行こう!」


同時に三か所から声が上がった。そして互いに互いを牽制し合うように睨み合う。性格がバラバラだと思っていたが、この3人。根っこの部分は似ているのだと思った。


しかし、いくら何でも3人とも『エルフ』の国に行かれてしまうと俺が困ったことになる。1人で『ダンジョン協会』相手に、これまであったことを説明するのは大変だ。せめて2人にしてくれと頼んだ。


そうして始まった最終戦争じゃんけん。ほどなくして敗者である剣持さんが肩を落としながら俺の元に歩み寄り、肩越しで恨めしそうに、喜びを分かち合う2人を見ながら『ダンジョン協会』にどのような報告をするのか話を纏めるとこにした。


『エルフ』達も何らかの確認をしていたようだ。それも終わり、俺達はそれぞれの来た場所に戻ることになった。


選別として、持ってきていたインスタント食品を始めとするほとんどの食料品を弓取さん達に渡そうとすると、俺達に同行することになったアウラさんと、ライラさんが羨ましそうな表情を見せたので、彼女らの分だけのインスタント食品を確保し、残りをすべて渡すことにした。


「わりぃな、ほとんど貰っちまって。ありがたく、外交の一助にさせてもらうぜ」


「それほどの力がインスタント食品にあるかは分かりませんが…弓取さん、そして槍木さん。大変だとは思いますが頑張ってください!」


「おう!俺達が近代のジョン万次郎って呼ばれるぐらいの功績を打ち立ててやるぜ!」


「…いや、正確に言うなら『現代の』だと思うが…。っと、そちらにも迷惑をかけてしまうが、お互い全力を尽くそう」


下心が全くないとは言わないが、『エルフ』と俺達人間の架け橋になろうとする心意気だけは本物であると感じた。槍木さんも言っていたが、本当に大変なのはこれからだろう。しばらくは忙しい日が続きそうになることに、すでに少しだけ気疲れしてしまった。




弓取さん達と別れた翌日。俺達は早くも森を抜け、平原の真っただ中にまで来ていた。来るときは周囲の警戒と探索を同時に進行していたため移動にそれなりの時間を要していたが、帰りは移動にのみ集中できるためそれほどの時間が必要なかったという事だ。


目的地、つまり『ダンジョン協会』の研究施設が、小さく薄ぼんやりとではあるが視認できる。ここまで戻って来れば無線機を使用することが出来るだろう。スイッチを押し、通話できる状態にする。


「おや、檀上さんですか?ずいぶんと早いお帰りですね。それとも、何か不測の事態でも発生しましたか?」


無線機に出たのは藤原さんだった。それなりに親しい間柄の人が無線機に出たことに安堵する。そして、この2日間に会ったことを詰まりながらも、なんとか説明することにした。

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