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準備してもらったお酒を乗せたトラックに同乗し王都を目指す。今回も4ドアタイプの大きなトラックだ。やはり荷物と一緒にヒトを乗せることも多いのか、周りに見えたトラックもこのタイプの物が多い印象だ。
そして道中の旅は……想定よりも遥かに快適だった、というのが素直な感想だ。
「随分と綺麗な道路ですね」
「うむ、アスファルトを敷いておるからの。昔のようにガタガタと揺れることも無いし、スピードを出すこともできるから移動が簡単にできるからの」
エルフの世界では魔法の力で道を舗装していたが、ドワーフの世界ではニゲンからもたらされた科学の力で道を舗装していた。
どうやらコッチの世界には『原油』があるらしく、そこからアスファルトを精製しているとのことだ。ただしそうなったのはニンゲンと交流を持つようになってからで、それ以前は『燃える黒い水』という認識はあったらしいが、それがこれほどまで役に立つとは思われていなかったらしい。
「『熱鉱石』があるからの。わざわざ加工せねば使いにく黒い水を使おうとは誰も思わんかったんじゃ」
とのことだ。
『熱鉱石』とはドワーフの世界にある鉱石の1つで平たく言えば石炭の上位互換なような存在であり、可燃時に大気を汚染するような有毒な煙が出ないという素晴らしい鉱石らしい。
何よりも素晴らしい点は、この『熱鉱石』が石油や石炭のように動植物が何億年も地下に埋まって作られるのではなく、土や岩を食べるとあるモンスターの排泄物であることから、簡単に採取できるということにある。
だが当然ながらこのモンスターを討伐することは国際法的にも厳しく取り締まられており、国策によって広大な敷地にストレスなく繁殖できるよう管理している地域もあるのだそうだ。
「すごいモンスターがいるんですね」
「うむ。国によっては何千年も前から家畜にされておることで野生下では生きていくことができんほどに弱体化した種類もおるらしい。じゃがその分より高品質な『熱鉱石』を排泄するらしいからの、一たび市場に出回れば鍛冶師の間で取り合いが起きておるんじゃ」
何となく『蚕』の話を思い出した。
アレも確か家畜化されることで野生下では生きられないほど種として弱体化しているが、ニンゲンという種に重宝され保護されることでこの先も余程のことでもなければ絶滅することがないだろう。
自由のない一生と同情することもできるが、繭を作るまではニンゲンという哺乳類の頂点に位置する種族が衣食住を完璧に保障してくれる。野生下で今日よ明日よとも知れぬ波乱に満ちた日々を過ごすか、決まった期間とはいえ安定した楽な生活を送るのか……
どの世界でも、結局やっていることはそう変わりはないんだな。もしかしたらエルフの世界でも似たような生き物がいるかもしれない。といっても、コッチの『熱鉱石』を排泄するモンスターはウ〇コを出すだけで大切に扱ってもらえるので蚕よりも遥かに素晴らしいといえるだろう。
雑談に興じること数時間。やはり道が良いおかげか聞いていたよりもかなり早く王都にたどり着いた。
「ここが『プロヴェスト王国』の王都『ラインバルス』じゃ!」
「おおっ!!……って思っていたより普通ですね」
「ふ、普通とはどういう意味じゃ!?」
「何と言うか…ドワーフには技巧の民って印象があるので山脈を削って作った難攻不落の大要塞だとか、都全体を何重もの天を突かんばかりの巨大な城郭で覆っている荘厳な城構えだとか……そんなんを想像していました」
「そんな管理の面倒そうな城、維持するだけで毎年莫大な富が必要になるぞ。そんなことに税を使っておれば市民からの苦情がきて行税は大混乱じゃ」
『ま、夢はあるがな』と言い、ガハハと豪胆に笑うゴンドさんを横目にフロントガラスの先に移る王都を見た。夢を感じられるような様相ではないが、交通の要所ではあるようで、都に向かう道はいくつもあり、そのどれもがアスファルトで綺麗に舗装されている。
「すでに大都市に向かう道の舗装は終わっておる。これからは小さな街や隣国などにもつながる道を舗装していく予定じゃな」
「かなり大規模な工事になりそうですね」
「うむ。じゃが、ヒトやエルフとの交易が増えたことで税収がここ数年で爆上がりしておるらしいからの。予算に余裕があるうちに大まかな工事を進めておきたいのじゃろう。それに道が良くなれば物資の運搬が楽になる。そうなれば物の値段も下がり皆の購買意欲も上がるじゃろう。金をかけるだけの価値は十分にあるわけじゃな」
城郭方面には夢はないが、経済関連にかんしては夢がありそうな雰囲気だな。乗るしかない、このビッグウェーブに……!!と言いたいが、夢破れることは目に見えているからな。大人しくしているのが一番だ。




