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「ロン!」
『……ピンフか、随分と寂しい役じゃねぇか。ほらよ、千点棒だ』
「う、うるせーやい!小さな役でお前らを油断させといて、いずれ大きな勝利を手に入れるんだよ!」
『へぇ~…つまりリュウジは今、檀上君の術中にハマりつつあるってことか。こりゃ、最後まで気が抜けないね!』
リュウジさんのお屋敷が完成したとのことで、何故か俺がお呼ばれしてしまった。
深い理由なんてものは特にはないのだろう。単にリュウジさんが最近のマイブームになっている『麻雀』の数合わせのためだろうな。
もちろん俺以外にも上手い人はいくらでもいるだろうけど、『協会』の職員は依然として山積みの仕事と戦っており、新天地に挑んでいる『探索者』はモンスターと戦っている。つまりは何とも戦っておらず、かつ、近くに住んでいて暇そうにしていそうだから、そんな浅い理由で俺が選ばれてしまったのだろう。
麻雀が強くなるためには慣れも必要だろうが、それ以上に相手が何を考え、捨て牌から相手の役を予想するだけの『頭脳』が必要だ。ハイスペックなドラゴンには、俺は『頭脳』の面では太刀打ちできず、さっきから負けが込んでいる。
オマケに一発逆転の大きな役を狙おうにも、ドラゴンたちには俺が何を狙っているのか筒抜けのようなので全然アガルことができないのだ。そうして仕方なしにショボい役をつないでいって、何とかマイナスにならないようにと踏ん張っている。
『おっと、檀上君。その中をポン、じゃ』
そして驚くべきことに、俺がリュウジさんのお屋敷に到着したとき三体目のドラゴンがいた。
当然ながら名前がなかったので、通例どおり『リュウゾウ』さんと名付け、リュウジさんの麻雀に関する記憶を読み取ったのか早速ではあるけどドラゴン用に作られた、何もかもがビッグ仕様の雀卓を一緒に囲んでいる。
頭を使わないテレビゲームだと経験がものを言うが、こういった心理戦も必要とするテーブルゲームでは、他者の心を読めるドラゴンが圧倒的に有利である。
つまり、この中で唯一のニンゲンである俺が圧倒的に不利だった。そのことを指摘するとリュウゾウさんがどこからか取り出した謎の指輪を取り出し、それを身につければよいと手渡された。
ドラゴン相手に警戒心を持っていも意味がないということぐらいは理解しているが、いきなり手渡されて物を身に着けるほど呑気な性格はしていない。とりあえず≪上位鑑定≫してみること……
『世界樹の指輪』
≪あらゆる状態異常に対する絶対的な耐性≫
……?今まで色々物を鑑定してきたが何となく毛色が違うということだけは理解できた。それと同時に何かすごそうなものだということだけは確信が持てる。
深く考えても答えは出ないことだけは間違いないので、とらえず『それを身に着けておれば儂らにココロを読まれることはない』とのことだったので、考えることを放棄して自分の指に嵌めて今に至るというわけだ。
『おっと、リュウジ。それをロン!じゃ』
『だ、大三元だとっ!!馬鹿なッ!ありえないっ!!』
『ほっほっほ、檀上君をカモにしようと、そちらにばかり注意して儂への警戒を疎かにしておったの。檀上君の捨て牌をよう見てみぃ。儂を警戒して安牌しかだしておらんぞ』
『流石は御老公ですね。初めてでいらっしゃるのに、すでに僕たちよりも上手いとは。僕もテレビゲームで練習したんですけどね。なかなかうまくいきませんよ』
ふぅ、どうやら今回も俺の第六感が上手く作用したらしい。残りの点棒を見るに、余程の大負けでもしなければ俺の三位の地位は揺るがないだろう。
そうして一気にマイナスへと転じて調子を崩したのか、そのままズルズルと負けが込むようになったリュウジさんが圧倒的な最下位となり、同じく役満をくらったリュウイチさんが三位、棚ぼたで俺が二位になった。
『くぅ~~!勝利の美酒は美味いのぉ!』
アルコール度数40%を超える大樽に入ったブランデーを、ラッパ飲みしながらリュウゾウさんが勝利の余韻に浸っている。ちなみにこのブランデーはリュウジさんが肉料理をフランベをするために用意したものであり、『勝者が敗者から奪うのは当然のこと』といって貯蔵庫にあったものを強奪したものだ。
『ほれ、檀上君も飲むといい。敗者共の情けない表情を見ながら飲む酒は格別よ!』
「はぁ。じゃあ頂きます」
リュウイチさんたちの会話からすると、リュウゾウさんは他の2人よりもかなりの年配なのだろう。その分だけ経験が豊富であるおかげか、力のコントロールも非常にうまくて気遣いもできるようで、俺の手に持った小さなグラス(俺からすれば適切な大きさ)に大樽から器用にお酒を適量注いでくれた。
そこそこ値段の張るお酒を用意していたんだろう。口をつけると芳醇な香りが一気に鼻を抜ける。この一樽でいったいどれだけの価値を有しているのだろうか?……まあ、いいや。どうせ俺のお酒じゃないからな。
一気に煽ると、焼けるような強い刺激が喉や食道を通り胃の中へと流れ込む。……?こういったアルコールの強いお酒だと少量でも飲むと体がカアッと熱くなるのだが、今はそんな気配が皆無である。
『おっと、その指輪をしたままでは酔うことは出来ぬか。まあ、酒の味を楽しむのなら問題はないが、酔いたいのであれば外してから飲むといい』
そういや、麻雀を始める前になんかすごそうな指輪を渡されて、そのまま装備したままになっていたな。なんかスゴそうな効果がついていたし、多分この指輪のおかげで酔うことがなかったのだろう。




