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朝、部屋のドアをノックされた音で目が覚めた。


昨夜は3時のおやつ?を大量に食べたため夕食をかなり控えめにした。それが悪かったのだろう。深夜を前に空腹によって目が冴えてしまい、なかなか寝付くことができなかった。


仕方ないので売店に行き、深夜の妙なテンションに任せてカップ麺やらホットスナック、お菓子などの夜食を買い込み、夜が更けるまで豪遊をしてしまった。揚げ物の品ぞろえが思いのほか豊富だったのは、俺と同じようなことをする人が多いからだろう。


その結果が、すでに朝日が昇り切った時間帯にもかかわらず寝惚け眼状態の俺が完成してしまったというわけだ。


リーマン時代は少し夜更かしをするだけで翌日以降がダルくて仕方なかったんだけどな。今では数時間もすればいつも通りの調子となる。これもまた『格』を上げたことによる恩恵だろうが、節制をあまり気にしなくなったことは弊害かもしれないな。


………おっと、イケナイ。ボンヤリしているとまた眠ってしまいそうだ。気合一発布団をはねのけ、頬をパチンと叩いてドアに向かう。


そこにいたのは昨日は俺とほとんど同じ流れで活動していたにもかかわらず、隙のない服装に身を包み気合の入った表情になっている作田さんがいた。俺とは違い、彼にはどんなに『格』を上げても己を律する自制心があるのだろう。


「……おはようございます。もしかして、今起きられたのですか?」


「え、ええ。実は昨夜なかなか寝付けなくて……」


「昨日は色々とありましたからね。仕方のないことでしょう」


さりげなくフォローしてくれるが、夜更かしした原因はドラゴンではなく俺にある。とりあえず部屋の中に招き入れ、心遣いが胸に痛いので話題を変える。


「もしかして聴取かなにかの言伝ですか?」


「いえいえ、それはもう少し先のことになりそうですね。今はリュウイチさんのことでどこの部署も手いっぱいですから、いつでも話を聞くことができる檀上さんのことは後回しにされているみたいです」


「では、何か不都合でも発生しましたか?」


「不都合ではないですね。むしろ良い話を持ってきたことになるとは思うのですが……」


煮え切らないような反応だ。何にせよ良い話であるなら問題ない。先を促すように優しく頷くと、作田さんは意を決したように持っていたマジックバッグから大きなものを取り出した。


「えっと……これは?」


いや、説明されずとも見れば分かる。分かるけれども、思わず聞いてしまいたくなるような物であったということだ。


「リュウイチさんの鱗と牙と爪ですね」


「はぁ……」


「1つは勝手に知識と記憶を覗いたコトに対する謝罪、1つは道案内をしてくれた御礼、1つはごちそうになったお菓子の代金だそうです」


ごちそうになったお菓子の代金って……全部ひっくるめての10万円にも届かないだろう。果たしてドラゴンの素材の対価としてつり合いが取れるのか?いや、聞くまでもないか。強いモンスターの素材なら平気で億単位の金が飛び交う世界だからな。それがドラゴンともなると……


「………」


「昨日いっしょにいたパーティーメンバーはどれか1つを選んで貰っていましてね。私は記憶を覗かれた分と道案内をした分とで鱗と牙をいただきました。ですが檀上さんにはとてもお世話になったから、3つとも贈呈したいとのことです」


「………どうすればいいですかね?」


「ひとまずは『収納』にしまっておけばいいんじゃないですかね?『協会』で買い取っても良いと聞いていますが、今は色々と入用でお金がないので、来年以降にしていただきたいと」


「……作田さんはどうされるのですか?」


「研究用として素材の一部を『協会』に寄贈しました。残った部分をドワーフの高名な職人に武器と防具の制作を依頼。使用しなかった部分を対価にすると話を付けましたので製作費は実質タダですね」


「俺もできればその方向に……」


「残念ながらドラゴンの素材を加工できるほどの腕を持った職人さんは、当面は仕事が埋まっているので今は制作の依頼を受け付けていない状態ですね」


「仕事が埋まっている?でも……って、そういうことか」


「ええ、私たちが依頼をしてしまったので当面は手が空く予定がないとのことです。いや~ホント、ギリギリ間に合ってよかったです!って、すみません。檀上さんの前で言うことではなかったですね」


「あ、いえ、全然気にしていません。それで『協会』に寄贈するというのは…」


「『協会』はこれまでの檀上さんの協力にとても感謝しています。エルフやドワーフと良好な関係が築けているのも檀上さんのご尽力があってこそ。そんな大きな恩のある御方から更に億単位もするような素材を寄贈していただいても、そのことに手放しで喜んでいられるほど『協会』は忘恩な組織ではありません。まあ早い話、これ以上檀上さんに何かをしてもらっては心苦しいのでそれは止めていただきたいな、ということです」


「じゃあ俺はどうすれば……」


「最初に言ったように、『収納』の中にしまっておけばいいんじゃないでしょうか。ドラゴンの素材を重く感じるのでしたら折を見てオークションに出す、でよろしいのでは?ただ、しばらくは時間をおいていただきたいとのことでした」


「時間をおく、ですか?」


「あれほどの素材ですからね。悪いヒトの手に渡って悪用されることがないように、オークションの参加者は今まで以上に慎重に選ぶ必要がありますから」


「なるほど、了解です。まあ、しばらくは『収納』の中に入れっぱなしにしておきますよ」


貰った素材を『収納』の中にぶち込むと、それを見て満足したような様子で作田さんが退室した。オークションか……大まかな手続きは『協会』がやってくれるだろうけど、面倒そうなことに変わりはないか。


そうなるとやはり、『協会』に売るってのが手っ取り早くて安心安全ではあるけれど、早くて来年以降の話になる。……考えるのが面倒になってきたな。とりあえずもう少し眠ることにするか。後のことは睡眠を十分にとり、スッキリとした気分になっているであろう未来の自分に託すことにしよう。

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