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「何というか、壮大な話になってきましたね」


「そうですね。正直『協会』の一職員である自分には荷が重い話題です。リュウイチさん、この話も『協会』でしていただくことは可能ですか?」


『構わないよ。でも僕の口からでなくても、君たちから報告をしてもいいんじゃないかな?』


「私たちの言葉とリュウイチさんの言葉とでは重みが違いましょう」


『そういうものか。こういったトコロも僕たちと君たちの違いだ。まさに亀の甲より年の劫、というやつだね』


「お手数をおかけして申し訳ないですが、よろしくお願いします」


『全然気にしてないよ。むしろ、いかにも異種族との交流!って感じで面白いと感じているぐらいさ』


和気藹々とまではいかなくても、それなりにおやつを食べながら雑談を楽しみ、そろそろお菓子の貯蔵がヤバイというところで再び移動を開始した。


時間稼ぎの効果は十分にあったのだろう。日が少し傾きかけ、遠方の空はわずかに暗くなっている。『新天地』にいる探索者たちもそろそろ『ダンジョン』に引き上げる時間帯だ。


運悪くバッティングしてリュウイチさんに強襲を仕掛ける……なんて愚かなことをしでかす人がいないように、『ダンジョン』に近づくにつれていつも以上に気を張って『索敵』をする。


それが功を奏したのだろう、いつもは感じることがないほどの軽微な反応を感知。この感覚からすると弱者がゆえに返ってくる反応が弱いのではなく、強者が息をひそめているって反応だ。……ムフフ、俺も随分と腕を上げたものだと自分の成長を実感。


恐らくはエルフの斥候だろう。


リュウイチさんを見ても驚いている様子も襲ってくる気配がないあたり、最初から事情を聴かされていると見るべきだ。


そんな彼らがここに配置されている理由は恐らくは、リュウイチさんの姿を見て襲い掛かるような愚か者がいないか監視するという目的もあるだろうけど、メインはあくまでもリュウイチさんの来訪のタイミングを『ダンジョン』にいる仲間に知らせることにあるはずだ。


「そろそろ『ダンジョン』に到着します」


『そうみたいだね。いや~楽しみだ!どんな料理が待って……いや、どんな出会いが僕を待っているのかワクワクが止まらないよ!』


わざわざ言い直さなくても素直に料理が楽しみだと言えばいいのに。


とはいえ、俺も作田さんも、強大な力を持つドラゴンにツッコミを入れられるほど心臓が強いわけでもない。適当に「そうっすね」と言っての合いの手を入れてこの場をやり過ごす。


それにしても、あれだけの量をお菓子を食べたのにまだ食べたりないと……いや、今でこそ全長3メートルほどのヒト型の形態であるが、このドラゴンの本当の姿は100メートルを優に超えている。で、あるならば、あの程度の食事量で満足することはないか。


だんだんと『索敵』で感じる反応の数が増えていく。どうやら『ダンジョン』から出てリュウイチさんを出迎えようとしているのだろう。


そのほとんどは、俺では手も足も出ないような強者ばかりではあるが、中には一般人とさほど変わらない程度のヒトもいる。交渉役の『協会』の関係者だろうな。


そうしてようやく『索敵』だけでなく俺の視界に入ってきたものは、ザっと見ただけでも100人は下らないだけのヒトとエルフとドワーフの方々。その先頭にいたのが俺の顔見知りでもある島津さんだった。


「お初にお目にかかります。私『日本ダンジョン協会』の外交政策室、室長を務めています島津と申します。この度は私ども要請に従っていただき感謝の念にたえません」


『やあやあ、お疲れ様。僕はリュウイチ。と言っても、さっき檀上君につけてもらったばかりの名前だけどね。それにしても固いね~。これからはご近所同士長い付き合いになるだろうからさ、もう少しフランクに接してもらえると嬉しいな』


「ぜ、善処させていただきます」


ふぅむ。一瞬にしてあの島津さんをやり込んだか。流石はドラゴンだ。


「コホン。藤原よりリュウイチ様が私どもの世界の食事を所望されていることを聞いております。ささやかではありますが宴の席をご用意させていただいておりますので、どうぞお越しください」


『ホント!?いや~なんか催促したみたいで悪いね。でも、断るのはもっと悪いからご相伴させてもらうことにしよう。檀上君、作田君。道案内ありがとう。今度改めてお礼をさせてもらうね』


「た、楽しみにしています」


少し小柄な島津さんの後ろを、ノッソノッソと大きなヒト型のドラゴンがついて歩く。パニック映画のワンシーンにありそうな迫力のあるカットだな。


その場合だと島津さんがドラゴンに攫われ主人公が助けに行くといったヒロインポジになりそうだけど、彼女にはそんなか弱そうな役は似合わない。島津さんだったら自分を攫ったドラゴンと交渉して、自力で戻ってきそうなほどの逞しさがあるからな。


それにしても、ようやく『ダンジョン』にまで戻ってくることができたわけだ。モンスターとの戦闘は皆無ではあったけど、精神的にはちょっと疲労した。


あとは報告を済ませて、残りは自分の時間を楽しむことにしよう。それにしても、明日以降に予定されていた新装備の性能試験はどうなるのだろうか?そのことも含めて、藤原さんに聞いておかなければ。

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