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トゥクルス共和国の観光もそこそこに、そろそろお世話になったエルフにお礼の品々でも渡してこようと決心を固めた今日この頃。
先日のお礼もかねてアルベルトさんをはじめお世話になった方々に、お菓子の詰め合わせやちょっとお高目なお酒やそれに合う乾物の類。そしてあったら邪魔にならないし便利だよねって感じのアイディア商品の数々を渡して回る。
大体の人の住所はアルベルトさんに聞けば教えてもらうことができた。
プライバシー的に問題ないのかな?と思わなくもないけど、まあ、それだけ俺が信用されているのだろう。その信用を裏切らないためにも知りえた情報は絶対に外に漏らさないゾ!と固く決意……と、言いたいが、多分俺が漏らさなくても、多くの人が知っている情報なのだろう。
何せ俺が伺おうとしているお屋敷はどこもかしこも大金持ちなのだ。近所に住まわれている住民の方々も『えっ!?あそこの家主さん?確か〇〇マートの会長さんよね』とか『ああ、ついでに言えば、そこのご主人は○○ギルドで購買の主任をやられているわね』とか聞いていないことまでアッサリと教えてくれるのだ。
不審者がいないこともないのだろうけど、この世界には物理法則をムシした防犯システムもと、い防犯魔道具がかなり発展しているから、初対面の相手にも警戒心がそれほど高くないのかもしれない。
聞いた話では、邸宅全体に事前に登録した魔力の持ち主でなければ『スキル』を使用することのできない特殊な結界を張る装置だとか、『敵対する意思』などよこしまな感情といった心の内にまで反応し、所有者に警戒するようにと警鐘を鳴らしてくれるブザーなんて物もあるらしい。
ニホンに輸入したら爆売れするんじゃね?と心の中でソロバンを弾いたけど、残念ながらそういった魔道具はすべからくお高く、なおかつ購入するためにはこの国の許可が必要とのことだ。
つまり、俺のようにツテもなければ信用もないしがない一市民には購入することができないということだ。ま、どうせいつものことさ。もはや残念とも思わないほどの慣れっこなのだ。
それに俺が知っているということは、すでに『協会』の方々も、そしてこの国に営業に来ている大企業の方々も防犯魔道具について知っているに違いない。きっとトゥクルス共和国の上層部に働きかけて、購入に向けての手続きも進めているだろう。
そんな商売に関して魑魅魍魎が跋扈する、修羅の世界に俺が参入しようとしても最初から結果を残せるはずもなかったということだ。
といった感じで色々な方のお宅にお邪魔し、お土産を渡してきたけどとある問題が発生した。それがこの国の最高戦力のお一人である、エドワルドさんのご自宅を見つけることができなかったということだ。
まあ、彼は軍のお偉いさんだ。軍の機密事項に係る書類をご自宅に保管されているかもしれない。そんな方のご自宅を公然の秘密とするほどこの国は楽観的ではないということだろう。
しかし、そうなると問題がある。彼のために持ってきたお土産を渡すことができないという点だ。新天地では戦闘面はもちろんのこと、それ以外でも散々お世話になったし、そんな方に何も恩返しができぬまま帰国してはヤキモキした気持ちを残してしまう。
このままでは時間を無駄に過ごしてしまうことになる。持ってきた贈答品の賞味期限はそれなりに長く時間に余裕はあるけれど、だからと言ってのんびりしていい理由にはならないはずだ。何か良い方法がるとよいのだが……
「直接お城に行かれてはどうですか?あの方は普段は城の詰め所におられますから、確実に会うことができると思いますよ?」
昼食に『協会』職員の山田さんを誘い相談してみると有用そうな意見をもらえた。やはり一人で悩むよりも人に相談したほうが問題は早く解決するものなのだろう。
「それはそうでしょうけど俺みたいな一般人がノコノコ出向いて、簡単に入城させてもらえるんですかね?」
「檀上さんでしたら名乗れば問題なさそうですが、不安があるようでしたら『協会』でお城への通行許可証を発行しましょうか?」
「それはありがたいのですが……どうして『協会』でそんな重要そうなものが発行できるんですか?」
「申請書類やら許可書の発行などでこの国の文官の方と会う機会も多いですからね。初めのころは城外にある行政施設の支部で入城許可を取っていましたが、アチラさんが面倒に感じたのか協会で発行してもかまわないと発行機を送られてきましてね」
「随分と信用されてますね」
「すべては先人たちのおかげですね。この国で働かれているニホン人もわざわざ支部に出向く面倒が減ったと喜んでいます」
正式な手順を踏むのであれば入城に関しても問題はないだろう。遠目で城を見たけれどとても美しいお城だったから機会があれば行ってみたい……なんて淡い期待を抱ていたけど、こんな形で願いが叶うとは思ってもいなかったなぁ。




