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「ふむ……具体的な獲得方法は分からんが、凡そでよいなら分からんでもないぞ?」
またしても心を読まれてしまったか。よほど考えが顔に出るのか?いや、この人が特別なのだと思いたいな。何せ『ユニークスキル』持ちだ。そう思う方が心の安寧につながる。そうでなければ、俺の考えは周りの人たちに筒抜けというあまりにも恥ずかしいことになってしまうのだから。
「教えてもらってもだいじょうぶですか?」
「もちろん構わんよ。特別重要な情報というわけでもないからの。ユニークスキルを得るには、それまで見聞きしてきたものや考え方、何を学び何をしてきたかが重要じゃ。早い話、当人の『経験したこと』が関係しておる」
「……えっ?でもそれは、普通の『スキル』と同じなのでは?」
「全く同じ、というわけではないじゃろうが根っこの部分は似通っておる。エクストラじゃろうがユニークじゃろうが『スキル』であることに変わりはないということじゃ」
ふぅむ。手に入れているヒトがほとんどいない希少な力である『ユニークスキル』であっても『スキル』であることに変わりはない、か。
剣持さんたちから聞いた『ユニークスキル』持ちの特級探索者とやらはトンデもない強さであるらしいから、途轍もなく厳しい試練をいくつも乗り越えて、その先にようやく手に入れることができる超特別なものだと想像していた。
それを裏付けるように俺が『エクストラスキル』を手に入れたときも『ダンジョン』に潜り、『モンスター』を倒して『格』が上がった果てに手に入れたものだから、『格』を上げることが強力な『スキル』を手に入れることに繋がると考えていたが、どうやらそれは違うらしい。
………そもそも『格』を上げるとは何なんだ?生物として次のステージに踏み入るための儀式の様なものだと思っていたし、その考えが間違っているとは思えない。実際『格』を上げることで、色々と『出来ることの幅』が広がった気が―――
「あっ!広がったからスキルを手に入れたってことか?」
「ん?どうしたんじゃいきなり」
「す、すみません。ちょっと考え事をしてまして……」
「そうか、好きなだけ考えるがよい。若いうちは思い悩むことこそが仕事の様なものじゃからな」
所謂『四十にして惑わず』と似た言葉がこのエルフの世界にもあるのだろうか。まぁ、コッチの世界じゃ40歳でもペーペーの若造だろうけどな。マティアスさんはその20倍ぐらいは生きていそうだ。
さて、家主の許可を得たことだし考えに集中することにしよう。
『格』を上げることが身体の能力の成長の目安であるのは間違いないはずだ。学生時代、宙返りしながら敵の攻撃を回避するキャラクターに憧れてメチャクチャ練習したが宙返りどころかバク転すらできなかったが、ついこの間、ふと思い立って適当にやってみたが想像以上に簡単に回転することができたからな。
だが、俺の考えが正しければ身体能力が上がったこと、つまり強くなったこと自体は『スキル』の獲得とはまったくもって関係がない。
なぜならエルフは『格』を上げずとも『スキル』を獲得できているからだ。
その理由は何なのか。恐らくは『スキル』がある世界に生まれ出でたことで、彼らの身体には産まれながらに『スキル』に適した能力が最初から備わっていたからではないだろうか。
例えるなら外国人は海苔を消化することができないが、ニホン人である俺はこれといった訓練を積んだわけでもないが海苔を消化することができる消化器官、言い換えれば消化能力を有している。
俺の予想が正しければ『格』を上げ『出来ることの幅』が広がった外国人であれば、食した海苔を消化できただろう。まぁ、苦労してモンスターを倒し、その果てに獲得できた能力が海苔を消化できるってのは……どう考えてもショボすぎるな。
ふう、考えを『スキル』に戻そう。
俺たちニンゲンが『スキル』を得るためには『ダンジョン』に入って『モンスター』を倒し、『格』を上げる必要があった。それは俺たちニンゲンの世界には、つい数十年前まで『スキル』なんてものが存在していなかったから、そのチカラに適した身体機能が無かったからだ。
そこで『ダンジョン』に潜って『モンスター』を倒し、『格』を上げることで自分たちニンゲンの身体に『出来ることの幅』を広げさせたことが『スキル』の獲得につながったというわけだ。
恐らくは同じ『スキル』であってもヒトによって獲得条件は違うのだろう。
俺がトノサマンバッタを最初に討伐したとき3つの『スキル』を手に入れたが、俺と同じようにトノサマンバッタを倒したヒトであっても『スキル』を1つしか手に入れることができなかったヒトもいるのだから。その中には当然、当時の俺よりも身体能力が高いヒトだっていたはずだ。
それが所謂『適正率』、言い換えれば『才能』ってことになるんだろうな。




