253
残りの商品も到着したので〈収納〉からお皿を取り出してハヤトの前に置き、シンプルな方のパンとカットフルーツを乗せてあげる。
「ほら、ハヤト」
「………」
羨ましそうな視線を俺に向けてくる。いや、俺ではなく俺が手に持っているハムサンドの方か。確かにシンプルなパンよりも、中にたくさんの具材が挟まっている方が豪華で、そして何よりも美味しそうだもんな。
だけどハムっぽい燻製肉には塩分が含まれている。犬に与えすぎるのは良くないのだが……与えすぎなければ問題ないか。それにハヤトは『格』を上げて身体能力が向上している。内臓の強さもそれに付随して上がっているのなら、多少の塩分は問題ないか。
ハヤトのお皿の上にハムサンドとタマゴサンドを一つずつ乗せ与えてみる。すると待ってましたと言わんばかりにガツガツと食べ始め、あっという間にサンドイッチが無くなってしまった。
犬であるハヤトにもこのサンドイッチの美味しさが分かるのだろう。催促するように俺の膝の上に足を乗せ、もっとサンドイッチをよこせと目線で訴えかけてくる。
まぁ、ここ数日はハヤトには昼食の時店の外で待機してもらったりと少し寂しい思いをさせていたからな。詫びの気持ちも込めて残りのサンドイッチをハヤトの皿に乗せ、ハヤトの皿に乗せていたシンプルな方のパンを俺が食べることにした。
ハヤトは食べなかったがこのパンも普通に美味い。クルミのような小さく砕かれたナッツが入っていて、香ばしさがちょうどいいアクセントとなっている。お茶の苦みで口の中をリフレッシュさせながらモグモグとパンを食べ、食後のカットフルーツは……ハヤトにすべて食べられてしまったのが残念だ。
終わってみれば、かなり優雅な昼食であった。綺麗な街並みにキラリとセンスの光るお洒落な喫茶店。街ゆく人は皆が眉目秀麗であり、ボンヤリ眺めているだけでもかなり楽しい時間を過ごすことが出来たと思う。
もう少し余韻に浸りたい気もしたが、ハヤトが俺をせかすように足元にじゃれついてくる。腹がいっぱいになったから、腹ごなしの為に散歩の続きでもしたいのだろう。俺も同じ気持ちだ。ハヤトが俺と同じ心境になっていることを嬉しく感じてしまう。
そんな要望に応えるため店内に戻って会計を済ませた。その際に、次の目的地を決める為に店員さんからこの街についての情報取集をすることにする。
「この辺りであまり有名ってわけではないけど、面白そうな場所を知りませんか?」
「有名でないけど面白そうな場所、ですか?」
有名な場所であれば『協会』の人間に聞けばすぐに分かるだろう。だからこそ地元住民のエルフのみが知っていそうな場所があれば、そちら方に足を運んでみたい。
「ええ。何か良さそうな場所とか知りませんかね?」
「う~~ん………この先に魔道具職人の方々が店を構えられている区画があるのですが、そこが結構面白いですかね。普段使っている魔道具の製造工程を見る機会なんてほとんどありませんから……」
ナルホド、確かにそれは面白そうだ。俺も暇な時に、無料の動画配信サイトで工場見学の動画を見ていた時期がある。
その時は自動車工場の様子を視聴していた。普段乗り回す車が出来るまでの流れを見るというのはなかなか面白かったと記憶している。エルフの魔道具の製造工程を見ることが出来るのなら、それなりに面白いと感じるだろう。
「よさそうですね。詳しい場所をお聞きしてもよろしいですか?」
「もちろん構いませんよ。まずはこの店の前の道をまっすぐ行っていただいて……」
王都の地理には詳しくはないが、俺が想像しているような野丁場のような場所であるなら近くまで行けば後は雰囲気で到着することも出来るだろう。
「――――そして、その角を右に曲がっていただければ到着すると思いますよ」
「ご丁寧にありがとうございました。………っと、ここのサンドイッチすごく美味しかったです。ぶっちゃけ、ニホンで食べたものと比べても遜色ないどころか上回っているぐらいでしたよ」
「それはそれは……後で主人にも伝えておきますね♪」
どうやらこのウェイターさんと料理人さんは夫婦であったみたいだ。夫婦仲が良いためか、この喫茶店の雰囲気自体もすごく温かくてホッとすることが出来たのかもしれない。
機会があればまた来よう。そんな事を思いながらハヤトの待つ店外に出て、その先にある道を、聞いた通りに進むことにした。




