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俺がこの屋敷で迎える初めての朝。せわしなく動く人の気配で目が覚めた……という事も無く、日がすっかり上がり、外の景色が明るくなってカーテンの隙間から差し込まれた日の陽ざしによって目が覚めた。


流石にこれほど遅く起きてしまっては他の住民たちはすでに仕事に向かっている時間だろう。そう思っていたがリビングにはゆったりと朝食を摂っている人もおり、俺が思っていた以上に朝はのんびりと過ごしているのだと理解した。


「おはようございます、檀上さん」


「おはようございます」


昨夜の内に、朝は炊飯器でご飯を大量に炊いているので好きなだけ食べても良いと言われていたので、まずはキッチンに向かい自分用の茶碗とハヤト用のお皿にご飯を盛る。残ったご飯はラップに包んで冷凍して、誰か気の向いた人が焼きめしなどにして消費しているとのことだ。


再びリビングに戻ると俺と同じタイミングで起きたハヤトを撫で繰り回している住民と軽く挨拶を交わし、昨日のうちに購入しておいたちょっと大きめの卵の黄身を上手く着地させるための、小さな土手ご飯の上に作る。


卵の殻が俺の知っているものよりも数段硬かったため、少しばかし苦労しながら卵を割ってご飯の上に落とす。いつもとちょっと勝手が違って多少手古摺りはしたが、黄身を崩すことも無ければ殻がご飯の上に落ちてしまうというアクシデントも無く、無事に卵かけご飯の完成だ。


まぁ、卵かけご飯作りを失敗する人は滅多にい無いだろう。そんな人がいようものなら『これはひどいwww』と笑われそうなほどの大失態だ。


「ハヤト、朝ごはんだぞ~」


ハヤトの卵かけご飯には当然ながら醤油をかけない。代わりにいい香りがする削り節をかけておいた。人間が食えば味気ないだろうがこればかりは仕方ない。とは言えハヤト本人が気にしている様子は皆無であり、美味そうにバクバクと食べるハヤトを見て俺も早く食べたくなってきた。


「んじゃ、いただきます」


適量の醤油をかけて茶碗を手に持つ。河村さんの話だと、卵の味が濃厚だから醤油をあまりかけない食べ方が良いとのことだ。お菓子メーカーに勤務している彼のオススメを聞かない理由は見当たらない。いつもより気持ち醤油は少なめでいただくことにする。


「おっ!うまいな、これ」


黄身というのは名ばかりで、実際には濃いオレンジ色をした卵の中身は見た目の通り濃厚な味わいだ。『ハーブ鶏』なんて言葉がある様に、食べている物によって肉質やら卵の味に大きな変化がある。


この卵の産みの親は、トゥクルス共和国産の品質の良い食料をたらふく食って成長したはずだ。そんな親鳥から産まれてくる卵が濃厚で美味しいってのは、ある意味約束されたようなものであるような気がしてならないな。


「随分と美味しそうに食べられていますね」


微笑ましいものを見た様な顔で、さっきまでハヤトの頭を撫でていた住民に声をかけられる。恥ずかしさもこみあげてきたが見られてしまった物は仕方ない。話題を逸らすことで先程の醜態を忘れてもらうことにしよう。


「この卵、鶏卵とは随分と違うみたいですね」


「聞いた話だと鶏より一回りほど大きさがあるモンスターの卵だそうですよ。比較的温厚で、かなり飼育しやすいのだとか」


「飼いやすいモンスターっているんですね。でも、魔獣を飼うって聞くとちょっと怖いような気もしますよね」


『トノサマンバッタ』なら全く怖くはないんだけどな。そのモンスターの強さが『トノサマンバッタ』以下ならあるいは……いや、あれより弱いモンスターは想像することすら出来ないか。


「まぁ、コッチの世界にも動物はいますが、やはり動物よりもモンスターの方がケガや病気にも強く、何より体が丈夫ですからね。家畜化するならモンスターの方が色々と都合も良いのでしょう」


「でもそれでもこれだけ美味しいんだったら、多少飼育に手間がかかってもすぐに元がとれてそうですね」


家畜化されている鶏が飼育しやすいのは何千年もかけて品種の交配を繰り返し、そういった飼育に適した種が生き残るようにと人の手が入ったことが要因だ。


この卵のモンスターもエルフによって人為的に品種の交配が行われ、より多くの卵を産む、より飼いやすいよう温厚な性格、より病気にならないよう丈夫な体を持って生まれるように進化してきたのだと思う。


途方のない時間がかかったのだとは思うが、長命種であるエルフからすればそれほど大きな労力ではなかったかもしれないな。

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