247
「――――うん?この味噌汁……」
「気が付かれましたか。檀上さんのご明察通り、この味噌汁に使われているお味噌はこの国で作られたものです」
確かに味は味噌汁であったが、俺が知っている味噌と風味が若干違っていた。だからと言って不味いという訳でもなく、原料となったであろう豆?の風味をいつも以上に強く感じるといった印象だ。
「トゥクルス共和国には、ニホンの調味料やら香料についての知識を伝えに来ている学者の方もたくさんいらっしゃいますからね。そう言った方たちに働きもあって、この国でも味噌とか醤油に似た調味料なんかも作られるようになったんですよ」
「なるほど。この国でこれほどのニホンの味を再現できていればニホンの味が恋しくなったりすることはなさそうですね」
「ええ。ちなみに私の今朝の朝食は卵かけご飯でした。お米はニホンから仕入れましたが、醬油と卵はこの国で手に入れたものです」
卓上に備え付けられていたソースをかけたトンカツを食べながら山田さんが話に入って来る。見た感じソースも俺が知っているものと大差が無さそうな色合いだ。まぁ、ソースは色々な具材を煮込んで作った調味料だから、似たようなものは意外と簡単に作れるのかもしれない。
「……っと、私はそろそろ厨房に戻りますね。どうぞごゆっくり、食事を楽しんでいってください」
そう告げると足早に島田さんが戻って行った。店内の様子を見るに、それなりに忙しいのだろう。もう少し色々な話を聞いてみたかったが、まぁ、当面はこの国に滞在する予定だからそのうちゆっくりと話す時間も取れるだろう。
そういえばこの千切りキャベツっぽいものはまだ食べていなかったな。多分、この国の葉物野菜だから美味しさは保障されたといっても過言ではないはずだ。
―――うん、シャキシャキとした噛み応えと野菜の甘味が、トンカツを食べたことで口内に残ったわずかな油をきれいさっぱりリセットしてくれる。
さて、そろそろ肉の油が恋しくなってきたのでトンカツを食べることにしよう。さっきは味付けをせずに食べたから、今度はシンプルに塩コショウにしておこう。かけすぎないように注意して……っと。
適量をかけたトンカツをパクリ。塩味と香辛料の匂いが肉の美味しさをより引き立ててくれる。それにしても、コショウの匂いが俺の知っているものと違う気がする。このコショウも、もしかしたらコッチの国の産物なのかもしれないな。
「思っていたより、ニホンから仕入れている物が少なそうですね」
「まぁニホンから仕入れますと、その分輸送コストが多くかかりますからね。それにコチラの国の方々も極力、自国の産物だけで賄いたいって思いもあるでしょうし」
確かに輸入にばかり頼っていては、いざという時に割を食ってしまう。自国で賄うことが出来るのであればそうした方が良いに違いないはずだ。
お米と言った植物の生育に関しては生態系のバランスが崩れる可能性もあるので軽々に取り組むわけにもいかないだろうが、調味料の開発とかに関してそういった問題は無いだろう。
今度はソースをかけて食べることにしよう。―――うん、確かに俺が普段口にしているソースとは若干匂いと味が異なるが、これはこれでかなり美味しい。
どちらかといえば、こちらのソースの方が果実系の芳醇な香りがして奥深い味わいがする。素材の味が良いおかげなのだろうか?何にしても高級ソースとして売り出せば、トゥクルス共和国産という付加価値も加わりニホンで爆売れするに違いない。
トンカツ、白米、味噌汁、千切りキャベツ?をバランスよく食べ進め、最後の一口はトンカツに任せることにした。肉を最後に残す。卑しいということ無かれ、やっぱり最後には一番おいしいものを味わいたいと思うのが人間の性なのだと俺は思う。
―――最後の一口が喉を通り抜け、この肉の脂と旨味の余韻をいつまでも楽しみたいという気持ちもあったが、お水を飲んですべて洗い流すことにした。
「………ふぅ、ごちそうさま。いや~~、メチャクチャ美味かったですね」
「気に入っていただけたようで何よりです」
一息ついたので早々に店を出ることにした。食べ終わった後もいつまでも席に座ったまま、ダラダラと雑談をし続けるというのは店に迷惑がかかるからな。
満腹になり少しばかり張ったお腹をさすりながら、又このお店に来ようと場所の確認を忘れずにしておいた。




