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「もう出ていかれるのですか?あと2・3日ほど滞在されてはいかがですかな?」


「流石にこれ以上ご迷惑をおかけするのは心ぐるしいので……」


「迷惑何てとんでもない!檀上殿からは色々とためになるお話を伺うことが出来ます。私としても勉強になり、感謝しているぐらいですよ!」


「きっ、恐縮です……」


後日また、遊びに来ると約束することで何とか解放してもらうことが出来た。


エドワルド邸でのお泊りは不満など一切なく、はっきり言って極楽すぎた。例えるなら高級旅館の数倍に匹敵するぐらいの過ごしやすさだろう。……高級旅館に泊まったことのない俺が言うのは不遜なんだけどな。


あくまでも物の例えであり一番重要なのはこれ以上お世話になってしまうと、この邸宅での暮らしから抜け出すことが出来なくなってしまうという懸念があるという一点に尽きるだろう。


心の弱い俺だと一度その誘惑に飲み込まれてしまうとなかなか抜け出せなくなってしまう事は想像に難くない。だったら傷の浅い今のうちにお暇する方が、後々の自分のためになると思えてならなかったのだ。


「では、これにて失礼します。本当にありがとうございました」


わざわざ邸宅の外にまで出て来て別れの挨拶をしに来てくれたアルベルトさん再度頭を下げて、心からの感謝の言葉を口にした。


深く頭を下げて、自分の足元を見たから分かったことがある。どうやらハヤトもまたアルベルト邸との別れを悲しんでいるようだ。確かにハヤトに出されていた食事も、人間である俺から見てもかなり美味しそうな物ばかりだったからな。


骨付き肉のTボーンステーキに、色鮮やかなフルーツの盛り合わせ。どれこれもが見るからに一級品であり、俺が普段与えているちょっとお高めのドッグフードも、ここで食べた食事に比べたら天と地ほども差があるのだろう。


なかなか未練を断ち切れそうになく、動く様子が見られないハヤトを抱きかかえてこの場を去ることにした。


しばらく進むとハヤトもスッパリと諦めたらしく、すこし身をよじらせて自分で歩く姿勢を見せた。最近ではずっしりと重くなったハヤトを自分で歩かせることにし、入れ替えるようにアルベルトさんから貰った『協会』の支部までの道のりを書き記された地図を取り出す。


「この道をまっすぐ進んで、あの建物を右に曲がる、か。特徴的な家が多いから道に迷うことが無くていいな……」


「ワンっ!!」


ついついこぼしてしまった独り言であったが、こうして反応してもらえるのは何となく嬉しい。しゃがみこんでハヤトの頭をワシャワシャと撫で、目的地に向けて移動を再開。


それにしても、こうして余裕をもって歩けているおかげか周りに建つ立派な家々に注意を向けられるようになったな。ニホンにはないような独創的な建物は勿論のこと、海外の高級住宅街にもありそうなスタンダードな高級邸宅っぽい家も見ることができる。


まぁ、スタンダードといっても俺には縁もゆかりもなさそうな様相であるので、パンピーである俺からすればどれもこれもが珍しいもので一杯だという事だ。


思わずキョロキョロと周りを見回したくなったが、そんなことをしていれば不審者として警備兵に捕まりかねないので自重しよう。道に迷っていた昨日であればそれはそれで救いでもあったが、道に迷っていない今日捕まっても良い事なんて一つも無い。


そうやって、のんびりと考えごとをしながら移動するというのも良く考えれば久しぶりのような気もする。何せつい最近までは危険なモンスターが抜港する新天地での活動がメインであったし、それ以前もなにかとダンジョンに潜って戦いの日々を送っていた気がしなくもないからな。


天気も良いし、高級住宅街の庭には色とりどりの花が咲いているという事もあって、心地の良い爽やかな風が吹くたびに甘い花の香りがどこからともなく漂ってくる。


自分にとって心地の良い時間を過ごすことが出来ていたという証拠なのだろう、移動距離に反して、体感ではかなり短い時間で『協会』の支部にまで辿り着くことができた。


「ダンジョン協会、トゥクルス共和国支部―――ここで間違いないようだな」


分かり易いようにニホン語で書かれた大きな看板まで立てかけられており、少し離れた場所からでも簡単に見つけることができた。それにしてもこの大きな看板、周りを高級住宅に囲まれているせいで景観にそぐわず明らかに浮いている。


建物自体は周りにある住宅にも引けを取らないくらい立派な装いなのが唯一の救いか。恐らくは住人のいなくなった中古の建物を大きな改修もせず、そのまま『協会』の支部として利用させてもらっているのだろう。いくらお金に余裕のある協会といっても、一つの支部にこれほどの費用をかけることはないと思えるほどの大きなお屋敷だもんな。

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