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スパイス―――ニホンでは香辛料と呼ばれるそれは、漢方薬の原料としても活用され昔から人々の体調を改善したり、免疫力を上げ病気を予防することにも一役買っていたとも言われていたらしい。


今も俺の流れ出る汗と共に、体の中にあった老廃物を体外に吐き出してくれているのだろう。一口食べるごとに、カレーの辛さによるだけではない、体の芯からポカポカと温めてくれるような不思議なパワーを感じ取る。


かなりの大皿に盛られたカレーであったがすぐに食べきってしまい、少しはしたないと思いつつもお代わりを要求してしまう。このカレーならいくらでも食べられそうだ。カレーは飲み物だという格言もあるが、確かにこのカレーなら飲み物の様に消費することも可能だと思えるほどだ。


結局3杯ものカレーを食べてしまい、食後のコーヒーを満腹になったお腹をさすりながら頂いた。このコーヒーも非常に美味しく、豆が良いのか焙煎時間が良いのか轢きたてが良いのかさっぱり分からないが、とにかく満足が行く食事の時間であったという事だけは断言することが出来た。


「随分と気に入っていただけたようで」


「最っ高でした。間違いなく、今まで食べたカレーの中で一番の美味しさでしたね」


「そう言って頂けると私としても嬉しいですね。何せこのカレーのスパイスは私自身が調合したものですからね」


「!!それはまた……料理人としての才能もおありだったとは驚きです」


「いえいえ、単に嵌ってしまうとなかなか抜け出すことができない質でして。今回はたまたまカレー作りに嵌ってしまい……おかげで、家人からはこれ以上のカレー作りは控えてもらいたいと苦情がきている次第ですよ」


苦笑いを浮かべながら話すアルベルトさんであったが、俺がこのカレーをべた褒めしたこと自体は本心から喜んでいるように見えた。


「苦労しましたよ。まずはニホンから各種スポイスを取り寄せて、ありとあらゆる組み合わせを試してみました。これだ!と思えるような組み合わせを見つける頃には、コチラの世界にもあるスパイスとの組み合わせを考え始めていましてね…」


日本から取り寄せたスパイスだけでもかなりの種類があっただろう。それに加えて、コチラの世界のスパイスを組み合わせたとなれば、その組み合わせは万を超えるパターンがあったはずだ。


そこから導き出される答えは―――アルベルトさんも言っていたが、恐らくはこの家に仕える使用人さん達は、試食と称されてかなりの量のカレーを食べさせられたという事なのだろう。


今にして思うと、このカレーを持ってきた使用人さんの顔が若干引きつっていたように思える。匂いだけでもそれだけの嫌悪感を抱いてしまうのだ。この素晴らしく美味しいカレーを作るための犠牲は俺が思った以上に大きかったのかもしれない。


「このコーヒーも香り高くてとても美味しいですよね。どこの産地の物なんですか?」


カレーの調合がどれほど大変であったのか、とうとうと気持ちよさげに語っているアルベルトさんを正気?に戻すために話題を変えることにした。が、このコーヒーもまた、彼の自慢の一つであったのだろう。爛々と輝く瞳に一切の衰えは見られない。


「流石は檀上殿!お目が高い!実はこのコーヒーも私が豆の割合から焙煎具合に加えて粉の引き方にまで、細部にまでこだわった一杯でしてね!」


どうやらこちらの話題も地雷であったらしい。よく考えれば、このコーヒーを持ってきた使用人さんの顔も、カレーを持ってきた使用人さんと同じような表情をしていたような………


かくして俺は、アルベルトさん苦労話を長々と聞く羽目になってしまった。


まぁ、内容自体は豆知識と言った、タメになりそうな話題も含まれていたので退屈することなく意外にも楽しむことが出来たわけだが。流石は大商人といったところだろう。


しばらく話を聞いた後、タイミングを見計らって使用人さんが『お風呂の準備が整いました』と言って助け舟を出してくれたことも最後まで飽きずに聞くことが出来た要因の一つかもしれない。


カレーによってかいた大量の汗を洗い流すのは非常に気持ちよかったし、湯船に浮いていた謎の柑橘系の果実の匂いもたまらない。色々とあった一日であったが、最後は良い感じで終えることが出来て心底ほっとした。

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