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しばらくは他愛のない雑談に興じていると、気が付けば窓から見える外の景色が紅く染まっていった。自分が思う以上に時間が経っていたのだろう、そろそろお暇しようか……と思ったが、よく考えたらその先に向かうべき場所が分からないんだった。


「―――今日はもう遅いですね。よろしければお泊りになって行かれませんか?」


これほどの邸宅でお泊りできるなんてのは夢のようではあるのだが、当然ながら申し訳ない気もする。かと言って他に頼るべき人もいないので、差し伸べられた手をありがたくとることにした。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


嬉しそうにウンウンと頷かれたアルベルトさんが洋画に出てくる貴族のようにパンパンッと手を叩くと、脇に控えていた使用人さんが俺の元にまで来て客間へと案内してくれることになった。


客間へは、やはり長い廊下を歩いての移動となる。使用人さんがいなければ間違いなく迷子になっていたと確信できるほどの長い廊下は、『金持ちの生活も意外と大変なのかもしれない』そんなアホみたいなことを考えるには十分すぎるほどの時間が経過した後、ようやく目的地である客間へと到着した。


「何か用事がありましたら、そこにある通信用の魔道具でお呼びください」


訓練された綺麗な姿勢で一礼した後、使用人さんが俺の部屋から去って行く。


夕食までもう少し時間があるとのことなので、先程の言われた通信用の魔道具を観察することにした。見た目はまんま電話機だ。しかし、電話機のボタンに当たる場所に書かれている文字がエルフの言語であるため読むことが出来ない。


俺はこれで人を呼ぶことが出来るのか?と一瞬だけ不安に駆られたが、そんな俺の不安をあらかじめ察してくれたのだろう、日本語で書かれたメモ用紙も置かれており、そこにどのボタンを押せばよいのか丁寧に説明書きがされていた。


俺が今日この場所に泊るなんて主人であるアルベルトさんは勿論のこと、使用人さん達も知らなかったことだ。飛び入りで泊まりに来たようなものなのに、これほどまでの準備をすることが出来るとは……流石はアルベルトさんと言ったトコロだろう。


彼の商人としての抜け目のなさや用意周到なところなど、その一端を味わったような気がした。


しばらくは客室の大きな窓から見える、美しく管理されている庭園を眺めて時間を潰す。色とりどりの花々に、細部にまで手入れが行き届き綺麗にカットされている樹木がちょうど良いアクセントとなって見る者の心を癒してくれる。


近くにあった高級そうな……いや、確実に高級なソファーに座ってハヤトの頭を膝の上に乗せ、ハヤトの顎を撫でながら庭を眺めていれば、さながら映画のワンシーンのような光景に見えなくもないだろう。惜しむらくはハヤトの顎を撫でているのがイケメンエルフであれば完璧であったはずだ。しかし残念ながら見た目も育ちもパンピーの俺では、役不足感が否めない。


しばらくすると外の景色も暗くなり、庭の花々が美しくライトアップされ始める。そんな折、使用人さんが俺の部屋の扉をノックする音が聞こえて来た。夕食のお誘いである。もう少し花々を愛でていたい気持ちもあったが、ホストをお待たせするわけにもいかないのでそそくさと移動することにした。




「実は最近これに凝っていましてね。檀上さんも食べ慣れた故郷の味の方が良いかと思い用意させてもらいました」


俺の目の前にあったものは、高そうな白磁の大皿に盛られたカレーライスであった。アルベルトさんのような超お金持ちの普段の夕食にどのようなものであるのか気にならなかったと言えばウソになるが、テーブルマナーに不安しかない俺からすればこういった料理の方がありがたかった。


「お気遣い感謝します。―――それでは、いただきます」


少し大きめの銀製のスプーンでライスとルーを適量すくって口に運ぶ。この世界にもヒ素系の毒薬でもあるのか?―――って辛っ!!レトルトには決して出せないフレッシュなスパイスの辛味だ。途轍もない辛さが俺の喉を、そして口の中を蹂躙する。……が、不思議と嫌悪感などは抱かない。何故なら……


「旨い―――ッッッッ!!何だこの美味しさは―――ッッッ!!!」


カレーの辛さによって額からは汗が滝のように流れ出るが、そんなものが気にならないだけの美味しさがこのカレーにはあった。


「気に入っていただけたようで何よりです。お代わりもありますので遠慮せず、どんどん食べて下さい」


アルベルトさんのお言葉によってより一層興奮する。もちろん、その内容と言うのがカレーを食べる事であるので理由とすれば下の下であるが、そんなことが気にならないぐらい俺は食べることに集中してしまった。

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