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「……って事がありましてね。『格』が上がって、賢くなるのも考えものだなぁって思ったんですよ」


「ふふっ……それは災難でしたね」


俺はアルフォンスさんに聞きたいことがあったので、彼を誘って『ダンジョン』の中にある安くて旨いで有名な某カレーショップに来ていた。


「それで、その後はオータンの実を買うことができたのですか?」


「残念ながら品切れしてましてね。仕方ないんでポムの実を買ったんですが、こいつを持って行くと、まずは太郎から食べ始めちゃいまして」


「それでまたしても先程オータンの実を食べることのできなかった、他のヤギ達にまで回らなかったと?」


「そう言う事です。いや~ホント、生き物を飼うって大変なのだと実感させられましたよ」


トッピングの唐揚げを頬張りながら雑談に興じる。カレーのスパイスによってヒリヒリした舌を唐揚げの油で中和する。昼食には少し早い時間帯ではあったが、世間的には休日と言う事もあり周りにはかなりの数の客がいる。


そしてその来客は『協会』の関係者でもなければ普段から『ダンジョン』に出入りしている人ではない一般客だ。となれば、彼ら彼女らからすれば『エルフ』は希少な存在であり、物珍しさから、チラチラとこちらを盗み見てくる視線をなんとなく感じる。


見られている当の本人ではない、俺ですら気が付いていることだ。当事者であるアルフォンスさんは当然その視線の圧を俺以上に感じているだろう。気になって仕方ないのでは?と思っていたが、あまり気にしている様子は見られない。


多分ではあるが彼が生まれつきの金持ちであり、幼少期から常に使用人とかが周りに控えていた環境で育ったことが関係しているのかもしれない。俺の様な小市民とは全く違うということだ。


「それで、私に聞きたいこととは?」


カツカレーのカツを食べながら俺に問いかけてくるアルフォンスさん。彼がカツカレーを食べていることが原因か、周りのお客さん達もいつも以上にカツカレーを注文している人が多い気がした。


憧れのアイドルと同じものを食べたいと感じているファンと似たような心境なのかもしれない。……まあ、単純にとても美味しそうにカツカレーを食べているアルフォンスさんに感化されただけなのかもしれないが。


「実はトゥクルス共和国に行ってみようかと思っていましてね。何かアドバイスとかがあれば、聞いておきたいなと」


「なるほど、そうですね……とりあえず檀上さんは〈収納〉をお持ちですから、レトルト食品とか馴染みのある食べ物をたくさん持って行かれると良いのではないでしょうか。異国を旅すると、故郷の味が恋しくなると聞いたことがありますし」


「その点は問題ないです。旅先でお世話になったエルフの方々にお土産としてたくさん持って行く予定ですから。それよりも、旅をする上での注意点とかはないですか?」


「注意点……う~ん、これと言ってないですかね。モチロン、軍の施設とか国の重要機関を覗きたいと言った、常識とはかけ離れたことをお考えのようでしたら止めさせてもらいますが…」


アルフォンスさん曰く、確かに人間とエルフには文化の違いと言った側面が多々あり全く問題が無いとは言いきれないらしい。それでもこちらに明確な悪意が無いことを示せば、ちょっとぐらいの事は大目に見てもらえることはあるとのことだ。


「結構ユルいですね」


「多くの同胞が『ダンジョン協会』という組織と、『人間』という種族を信頼されていますからね」


エルフの世界に行くには『協会』の許可が必要となっている。つまり『協会』を信用しているからこそ、『協会』が許可を出した人間が悪意を持った人ではないと判断してくれているのだろうとアルフォンスさんが説明をしてくれた。


その後も2つ3つと確認作業を続け、とりあえず大きな問題が無さそうなことでようやく安心することが出来た。


「よく分かりました、ありがとうございます。人間という種族の顔に泥を塗らない程度には頑張ろうと思います」


「檀上さんのお人柄ですと問題ないでしょうがね。私も貴方のお力になれて良かったです」


目的は完了したので、食後のシャーベットを食べ終え店を出た。今回の支払いはもちろん俺持ちだ。アルフォンスさんは“この程度のことで…”と謙遜していたが、俺にとってはその情報は何よりも重要だったのだ。


その時ふと、ちょっと前に似たようなことを経験したことを思い出した。あの時は、俺とアルフォンスさんの立場は逆であったが。何となく、あの時の彼の気持ちが分かった気がした。

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