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肉の持つ素材の味を堪能するにはシンプルな味付けに留めた方が良い。東条さんの提案によりステーキというシンプルな調理法に絞った結果、調理時間が短くすみ次々と肉が焼きあがっていく。それを来客者たちが受け取り食すために広い場所に移動する。


その動きは非常に流麗であり、まるで訓練された兵士のようなキビキビとした動きだ。皆さんよっぽど早く、その肉を味わいたいと思っているのだろう。ただそのおかげか列が溶けるように消えていくので、周りの人間からすれば好ましい状況だろう。


そしてやはり皿を受け取った来客者たちは我慢できないといった様相ですぐに肉にかぶりついていた。そうして上がる感嘆の声と共に、『ネイティブ・ワイバーン』を討伐した東条さん達を褒め称える声があちらこちらから聞こえてきだした。


知り合いを褒められるというのも悪い気もしないが、一つだけの思うところがある。思うところというよりは、焦燥感?に近いのかもしれない。それはステーキを受け取るために並んだ列が長く、解体ショーに見入っていたのでスタートダッシュに遅れた俺が最後尾近くにおり、未だにそのステーキを食べることが出来ずにいるという事だ。


もちろん『ネイティブ・ワイバーン』がデカいので食べられないということは無いのだろうが、焦りを感じてしまうのも仕方のない事だろう。それは周りの肉の旨さの感動を表す声が大きくなるにつれて、より強くなっていく気がする。


こういう時の処置法は一つしかない。ステーキのことを頭から消し去って、別のことを考え頭の中を満たすという方法だ。何か、ちょうどよい議題が無いかと考えを巡らせる。


――――そう言えば東条さん達のパーティーも、俺達のパーティーが現在狩場としている『バイオレント・レックス』など恐竜型のモンスターが跋扈しているエリアに狩場を移動すると言っていたな。


エドワルドさんの実力を疑っているというわけでも無いのだが、やはり近くに他の強いパーティーがいるというのは心強い。顔見知りかつ、リーダーが東条さんのような人格者であるのでより一層その安心感にも拍車がかかる。


彼らのパーティーが狩場を移した理由には、俺達のパーティーがあの辺りのマップ作製をかなりの精度で完成させたことも理由にあると言っていたな。


強力なモンスターが多数跋扈するエリアで精度の高いマップを作製するのは本来であれば困難を極める作業であるのだが、エドワルドさんのおかげで周りを気にする必要なくこれに集中することが出来たのだ。エドワルドさんなくして、ここまでの功績は成し遂げることが出来なかったと断言できた。


最近では『新天地』に来る探索者やエルフ、ドワーフの数も増えつつあるのでこういった形で狩場がバラつき、より広範囲に活動の場が広がる状況は『協会』としても望むべき結果と言えるだろう。


とは言えエドワルドさんも国ではかなりの重鎮であるので、そう遠くない未来には彼は国に帰らなければならない。いつまでも彼におんぶにだっこのままではいられないのだ。つまりそれまでに、より広範囲かつ精度の高いマップを完成させることが俺達のパーティーの役目である気がした。


そんなエドワルドさんも現在はステーキを差したフォークとお酒が入った大ジョッキを手に持ち、周りにドワーフ達を侍らせて大いに盛り上がっている。


あそこに入るにはそれなりの覚悟と勇気、それに強靭な肝臓が必要だ。なにせあの輪の中に入ってしまえば最後、ドワーフから認められるだけの飲酒をするか、酔いつぶれるかするまでは解放してはくれないのだから。


まぁ、エドワルドさんとお近づきに成りたくて、無謀にもその輪の中に入ったエルフの若手商人が会場の外でグッタリと倒れ伏している姿を見ればそんな勇気は湧いてはこないだろう。エドワルドさんもいい感じの防波堤が出来てホッとしていると思う。友情パワーの勝利というやつだ。


…さて、そろそろ俺の順番か。前に並ぶ人の数は少なく、ここからでも『ネイティブ・ワイバーン』の肉の焼ける良い香りがプンプンと漂って来る。


「お待たせしました……っと、檀上さんですか。お久しぶりですね」


ステーキを調理していた人は、前線基地で俺達の食事を作ってくれていた人達だった。彼らほど『新天地』の食材の調理に慣れた人はいないだろうから適任と言えば適任だ。


「お久しぶりです。……ちなみにですが、味の自信のほどは?」


「アリアリですな。正直『ワイルド・ボア』よりも上だと思います……ま、ご自身の舌で確認されるのが手っ取り早いですよ」


この祝勝会が始まる前にちょっとだけとは言え『ネイティブ・ワイバーン』の肉の試食をしたという彼らの意見は大いに参考になる。いや、彼らの意見を参考にせずとも、すでにステーキを手に入れ食している人たちの満面の笑みを見れば肉の味を疑うようなことは無いか。

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― 新着の感想 ―
[一言] そんな重要極まる土地とエルフの土地、ドワーフの土地を結ぶ最重要ダンジョンの所有者だという自覚は・・・無いのだろうなぁ。
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