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「ほぅ…まさか、あの『カレイド・バタフライ』を完璧な状態で持ち帰るとは。やりますね」


「やったのはエドワルドさんなんですけどね。突然ヘンリーさんから弓を借りて、何もない木に向かって放ったときは何事かと思いましたよ」


『カレイド・バタフライ』とは、体長1メートルほどもある大きな蝶型のモンスターである。


昆虫とすればあまりにも巨大ではあるが、モンスターとすれば小型の部類に入るだろう。ここ『新天地』に生息するモンスターに限ればその大きさは最小の部類に入った。


だがそんな大きさのことよりも、目を引く箇所が一点ある。それは、こいつの見た目がとんでもなく美しいという事だ。まるでサファイアを薄くスライスし、それで羽を模ったように見えるほどの、キラキラと輝きに満ちた羽が生えているのだ。博物館に展示されていれば昆虫が苦手な人でも、思わず足を止めて息を呑むだけの妖しいまでの美しさがある。


こいつは碌に戦闘系の『スキル』を持ち合わせておらず、真正面から戦えばゴブリンにすら負ける程度の戦闘力しかない。そんな『カレイド・バタフライ』が強力なモンスターの跋扈する『新天地』で生き残ってきたのにはそれなりの理由があった。


それが〈認識阻害〉〈気配遮断〉〈幻惑〉といった『スキル』である。恐らくはこれらの『スキル』を駆使することによって、モンスターとの戦闘を避けてきたが故に今日まで生き残ってきたのだろう。エドワルドさんが放った矢が木に突き刺さり、しばらくしてから『カレイド・バタフライ』の姿を俺たちも視認できるようになったことから、本体の死によって『スキル』が解除されたのだと推察できた。


生存戦略とすれば間違ってはいないだろう。蝶型のモンスターがいくら強くなっても恐竜型のモンスターには勝てそうにな……いや、鱗粉を撒き、その中に光の柱を作り出して敵を圧殺するとか、腹部から極太のビームを出せれるようになれば勝てるだろうが……あくまでもあれらは映画の世界だからな。難しいだろう。


「俺達が『新天地』に行っていた期間にも、1体しか見つからなかったんでしたっけ?」


「そうですね。確かその時も戦闘の余波によって、偶然倒された状態の奴を発見し持ち帰ったと言っていましたよね」


『戦闘の余波によって偶然手に入れた』その言葉通り、持ち帰られた『カレイド・バタフライ』は見るも無残な姿で持ち帰られていた。


それを『協会』の職員さんがバラバラになった羽や触覚を必死に繕い、何とか元の形が分かる程度に修復することが出来ていた。無論その状態でも美しかったのだが、今回完璧な状態の『カレイド・バタフライ』を見たことで、あの時見たものは所詮修復された物であり、完璧な状態の奴とは比べ物にならないというのが今の本音であった。


「それにしても、そのエドワルドさんという方。『魔法』もすごいそうですが、弓の腕もかなりの物らしいですね」


エドワルドさんのことは、すでに『協会』の職員さんの中でも周知の事実であるぐらいの有名人であるのだろう。俺が説明をするまでも無く、作田さんもふんわりとではあるがエドワルドさんことを知っていた。


「ええ、矢がまるで標本にした時に刺す針みたいな感じで、胴体のど真ん中にストンっ!てな感じで綺麗に突き刺さっていました。あれだけ綺麗な状態であれば、買い手も簡単に見つかるでしょうね」


かつてバラバラの状態で持ち帰られ、『職員』の手によって修復された『カレイド・バタフライ』の標本?ですら、3ケタ万円のお値段がついて買い取られていた。購入者はどこぞのIT企業の社長さんだったと記憶している。


それが今回は完璧な状態の『カレイド・バタフライ』だ。先程行った買取出張所の職員さんも『最低でも4ケタ万円は固いでしょう』と言っていたことから、俺達もかなりの期待を寄せている。


「私も後学の為に、後で買取所にまで行って見てみようと思います」


急に真剣な表情をした作田さんが、真剣な口調でそう告げて来た。


「またまた、後学の為って…単に作田さんが見たいだけでしょ?」


「たはは…檀上さんには敵いませんねぇ」


ちょっとした漫才を挟みつつ、話は『新天地』のモンスターに移る。


「巨大なドラゴンの話は私も聞きました。私たちが『新天地』で調査をしていた時にはそのような気配は全くありませんでしたからね。単に上空を飛行するだけの無害な存在であればよいのですが…」


「ですよね。『新天地』の素材が広まりつつある今の状況に陰りが出てくるような案件は誰も望んでいないでしょうし…」


結局有益そうな情報を得ることは出来なかったが、そんな情報が簡単に手に入らないことも重々承知している。果報は寝て待てとも言うからな。明日以降に期待しながら、部屋を出た。

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