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モンスターの血抜きであったり解体といった細々とした作業をしている時も、エドワルドさんは積極的に協力を買って出てくれている。
一部のエリート戦闘員よりも遥かに高い戦闘力を有する彼のことだ。『凡人の為に、なぜ自分が時間を割かなければならない』そんなことを言われても反論することが出来ないほどの能力があるのは周知の事実。そんな彼が協力してくれることに感謝の気持ちを抱くも、ほんのわずかな違和感を覚えていたのも事実であった。
「後進の育成のためですよ。自分が雑務に協力すれば、後進もその分だけ自分の成長に時間を費やすことが出来る。あの人はそう言った、部下や後輩に対する思いやりもあるお方ですからね。だからこそ私たちも、安心して彼に従うことが出来るんです」
直接エドワルドさんに聞くのは流石にハードルが高いので、パーティーメンバーの中で一番仲の良いヘンリーさんに尋ねてみたところそのような答えが返って来た。
「もしかしたら、ゆくゆくは自分よりも優秀な軍人がじゃんじゃん生まれて、自分よりも立身出世を果たし、今の自分の将軍と言う役職を引き継いでくれることを願っているのかもしれませんが……その目的が果たされるのは難しいでしょうね」
「なるほど、優秀な人には優秀な人にしか分からないような苦悩があるという事なんですね」
肩をすくめながら、そう語るヘンリーさんに同意の意を示しつつ周囲の調査を続ける俺達一行。
今日の俺たちはモンスターを倒すことよりも、どのようにモンスターを倒すのか、つまり結果よりも過程に重点を置いた戦い方に重点を置いていた。ぞの為前日よりも戦闘時間が長くなってしまった上に戦果とすればそれほど良いものにならなかったことは残念であったが、もちろんそれも想定内である。
何せ今回の目的はお金を稼ぐことにはなく、戦ったモンスターとの戦闘記録であったりモンスターの生態をたくさん収集することにあったからだ。
こういった戦闘情報の使い道はいくつかある。情報を収集したパーティーメンバーのみで秘匿するとか、知り合いのパーティーにのみ限定的に公開しその上で割高な情報料を要求するとかが上げられるだろう。
しかし俺達は知り得た情報を包み隠さずすべて『協会』に無償で提供することにした。
これもまたエドワルドさんの提案であったわけだが、彼のおかげで懐がかなり温まっているので俺達の中から否定する意見は出なかった。まぁ、仮に彼が提案しなくても『協会』にすべて報告をしていただろう。何せ提供した情報を元にこの辺りで活動する人が増えれば、いざと言う時に協力を仰ぐことも出来るかもしれないという思惑もあったからだ。
順調にモンスターの情報も集まりそろそろ帰ろうか、そんな空気が流れ始める。何となくデジャブを感じ思わず上空を見上げるが、昨日とは違い何も飛んでいないことに安堵した。
「どうやら昨日のあのドラゴンも、この辺りに生息していた個体では無いのかもしれませんね」
心配そうに上空を見上げていた俺を安心させるように、ヘンリーさんが明るい調子で話しかけてきた。
「今日は1日〈索敵〉範囲をいつも以上に広げていたが、何の反応も無かったしな。ま、あんなんがこの辺りに最初から生息してりゃ、俺らが気付く前に『調査隊』の連中が察知してただろ。檀上君はそう言った情報を聞いたことがあるか?」
「いえ、全く」
「つまりそう言う事さ」
確かに少しばかり気にし過ぎていたのかもしれない。ただ、ドラゴンの出現によって1つだけ良かったと思えたことがある。それは、この辺りに生息する巨大な恐竜型のモンスターも『あのドラゴンに比べりゃ大したことないな』と思えるようになり心の余裕が出てきたことだ。
そのおかげか、恐竜型の強力なモンスター相手でも気負うことなく平常心で戦う事が出来るようになった。そう言えば、前にも似たような経験をしたような気もするが……なるほど、こうして様々な経験を積むことで人は成長していくもんなのだと理解した。
帰りの道中は、昨日とは違いそこそこの数のモンスターと接敵、戦う事になった。
ただ、まともに戦っては時間がかかりすぎてしまい、『ダンジョン』に帰るころには日がすっかり暮れてしまうかもしれないという懸念もあって、帰りの道中に接敵したモンスターはエドワルドさんの『魔法』ですべて片付けてもらうことになった。
俺達があれほど苦労して倒したモンスターがあまりにもアッサリと倒されていく様を見るのは心に来るものがあるが……ま、エドワルドさんが高異次元の存在だと思う事にしよう。そう考えると心が軽くなった気がした。そうしてまた、俺はちょっとだけ成長した気になった。




