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その後弓取さん達の先導に従いこの辺りのマッピングを進めつつ、遭遇したモンスターの討伐に尽力した。いや、されていた。
トリケラトプスや某恐竜映画に出てくるような小型で群れを成して狩りをするような見た目の恐竜型のモンスターを始め、体長2メートルを超える大きな昆虫型のモンスターにも遭遇。
流石に3メートル近い長さのある百足によく似たモンスターにはおぞましさを感じたが、2メートルほどの大きさもあるカブトムシとクワガタムシを足したような大きなモンスターには思わず『カッケェ…』という感想をこぼしてしまう。
そして何度かの戦闘で分かったこと。それは昆虫型のモンスターは、この辺りでのヒエラルキーはかなり下の方であるという事だ。常日頃から逃げることが常態化しているようであり、コチラの存在を、つまり敵対生物を察知するとわき目も振らずにそそくさと逃げ出していたことから来る推察であった。
まぁ、昆虫としてはあり得ないようなデカさではあるのだが、恐竜型のモンスターの多くが10メートル近い体長があるので、2・3メートルほどの大きさがあろうとも勝負にはならないという事なのだろう。
それほど大きさのかけ離れていない1.5メートルほどの大きさしかない小型の恐竜型のモンスターも単体で見れば強さはそれほど変わらないのだが、こいつらの長所は連携して狩りをすることにあり、それを踏まえて考えれば硬い外殻を持っている昆虫型のモンスターであれど勝算は皆無であったという訳だ。
この辺りの調査はエドワルドさんに『この辺りのモンスターの調査をするために力を大分セーブして下さい』とわざわざお願いすることで判明したことである。当然ながら彼に任せてしまうと、一瞬にして戦闘が終わるためであった。
その為、新発見のモンスターとの戦闘は彼を除く他のメンバーが主力となり行ったわけなのだが、いざと言う時の予備戦力が強大であった為、必要以上に緊張することなく持ちうる力を十全に発揮できたので俺達だけでも問題なく対処することが出来た。
それなりに情報を集めたし、狩ったモンスターの素材は借り受けたマジックバッグを圧迫するぐらいには量がある。1日の成果とすれば上々と言えるだけの働きはした。そろそろ『ダンジョン』に帰ろうか。そんな空気が流れ始めた頃、エドワルドさんには珍しくとても険しい表情をしながら緊張した面持ちで空を見上げていた。
「どうされましたか?」
「気を付けろ……いや、仮に気を付けたとしても、奴が敵対するつもりなら警戒しても無意味だな」
「そんな………あ、あれは一体……!?」
ヘンリーさんの問いかけに、かなり物騒な物言いで返答するエドワルドさん。
俺の知っている彼は、常にどこか余裕を滲ませている人であり、好々爺といった雰囲気を纏った人物であった。しかし今の彼にはそんな優しい雰囲気は一切なく、厳しい戦場で生き残ってきた熟練の老戦士のような物々しい雰囲気を漂わせている。
得も言われぬ空気に慣れることはなく、エドワルドさんが見ている方角を俺も見上げる。彼の見る上空のその遥か先に―――ボンヤリとではあるが丸っぽい胴体に巨大な羽が2枚ついている物体を発見。あれは……何だ、ただの飛行機じゃないか。
大震災以降、外国との繋がりは依然として希薄であり、国際線の運航はあまり多くはないが国内線は震災前と同じぐらいには運航している。
まぁ、彼はトゥクルス共和国出身のエルフだからな。飛行機が珍しいのかもしれない。日本国内において、空を見上げれば飛行機が飛んでいてもそれほど珍しいものでも……?って、よく考えたらここは『新天地』だった。じゃあ、あれは一体……
考えられるとすれば、この世界にも飛行機に類する物体を飛ばすだけの文明レベルが存在している……ことはないな。さっきまでは気が付かなかったが、よく見ればあの物体の後ろには細長い線状の雲、つまり飛行機雲が発生しているようには見えない。つまり、あれは飛行機のような機械的な乗り物ではないという事だ。
そして考えられる2つ目の可能性。それは最もそうであってほしくない答えであると同時に、もはやそれ以外には考えられないというものだ。
「ドラゴンだな。大きさは最低でも100メートルはあるだろう」
心のどこかで否定して欲しいという願望があったが、それを口に出す前にエドワルドさんにあっさりと否定されてしまった。悲しい……と言った感情が意外にも湧かないのは、目の前の現実を自分の頭がしっかりと認識しきっていないためであろうな、多分。




