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剣持さんとも途中で合流し、予定通り食堂で合流した我ら人間組。入手した情報の交換をするよりも先に、とある話題で盛り上がることになった。
「強いとは聞いていたが、まさかあそこまでとは思ってもいなかったよなぁ」
「同感だ。噂に聞く『特級探索者』とやらも、あれぐらいの強さがあるのかもしれん」
槍木さんの言葉に同意するように大きく頷いていた槍木さんであったが、俺の知らない単語が出てきたことに質問を投げかけておく。
「『特級探索者』って何なんですか?」
「公式でこそ探索者の位は大きく分けて下級、中級、上級の3つに分かれていますが、非公式ではありますが探索者として特別に強い力を持つ方のために『特級』という階級が存在しているんですよ」
「ほへ~、そんな制度もあったんですね」
何となくすごい人達の集団なんだろうなぁ、というのは剣持さんの語り口から伝わっては来るが、正直自分とは住む世界が違い過ぎて頭がついて行っていなかった。
だが、そんなすごい人達がこれまでテレビでも一切話題に上がらず、野に埋もれていたという事もあるのだろうか?そのことについても質問してみた。
「まぁ、一概に探索者っつっても、皆が皆メディアに出て来たり、人前で功績を自慢したいって人達ばっかじゃないからな」
なるほど、確かに才能のある人が目立ちたがりとも限らないわけだ。逆に中級探索者でも、『探索者が語る!ダンジョンのアレコレ!!』なんてタイトルの動画配信とかに力を入れてメディアに大きく取り上げられている人もいるぐらいだし。
しかし、強い力と言うのは秘密にしていてもどこからか漏れ出てしまうのではないだろうか。実際、エドワルドさんも立身出世にはあまり興味が無かったそうだが、いつの間にか自分の強さと功績が表に出てしまい、自分の望まぬ出世を果たしてしまったらしいし。
「もしかしたら、特級探索者の頂上とも言うべき力を世間一般には秘匿しやすいようにそう言った特別な階級を作ったのかもしれませんね」
俺の心を読んだのか、剣持さんが先んじて意見を述べてくれた。ネットやテレビの発達していないエルフの国ですら、そういった情報が広まったのだ。逆を言えば、そう言った媒体が発展しているわが国では一瞬にして情報は広まるだろう。
では、なぜそういった情報が秘匿される必要があるのか。
予想ではあるが、ただでさえ『探索者』と言うのは一般人よりも遥かに強力な強さを持つ人間だ。その中でも飛びぬけて強い力を持つ『特級探索者』と言う存在は、一般人からすれば想像もつかないほどの暴力の塊であり、恐れの対象であるわけだ。
そんな存在が自分たちと同じような見た目で、何食わぬ顔で自分たちと同じ場所で生活していると考えてしまえば、必要以上に恐怖を抱いてしまう人もいる可能性も十分に考えられる。
その恐怖が広がってしまえば世の中が混乱してしまう……それを危険と感じたが故の『特級探索者』制度と言う名の情報統制なのかもしれない。
「俺らの世界とは違って、異世界の連中は『スキル』は生まれ持ってくるもんだ。いわば、全員が俺らの世界で言うところの『探索者』ってわけだな。だからと言っちゃなんだが、強い力に畏怖することもあるんだろうが、それは俺らの世界の人間よりゃ軽いもんだと思うぜ」
探索者が『ダンジョン』から未知のアイテムや魔道具、『魔石』と言った様々な貴重な品を持ち帰ってはいるが、だからと言って探索者が一般人から無条件に信頼されているわけでも無い。
『大いなる力には、大いなる責任が伴う』と古くからの格言があるらしいが、特級探索者の人達も何十、何百と言う努力を重ねたうえで『大いなる力』を手に入れたのだ。
その結果である『大いなる力』だけを見て、何の努力もしていない一般人の心の安寧の為だけに自分の力をひた隠しにして生活しなければならないというのは、何とも窮屈な話だと思わなくもない。
「ま、雲の上の話は置いておきましょうか。それよりも、『新天地』のモンスターの情報はどの程度集まっていますか?」
話しが暗い方に進みつつあったので、剣持さんが気を利かせて明るい調子で話題を転換してくれた。俺の集めた情報と、剣持さん達が集めた情報。それらすべてをすり合わせ、明日以降の活動計画を練り直すことにした。




