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「えっと……どうしましょうか…ね?」
交渉相手?が姿を消し、ようやく我に返った剣持さんが口を開いた。
「まぁ、エドワルドさんご本人もああ言ってらしたことですし、報酬金の分配は均等に割った金額で良いのでは?」
剣持さんの苦悩を察してか、エルフの1人が声をかける。他のエルフも同じ意見のようであり同意を示すように大きく頷いていた。
「ですが、我々はほとんど何もしていないんですよ?それなのにエドワルドさんと同じ額だけもらうってのはどうにも落ちつかないと言いますか…」
「それをおっしゃるなら、私達エルフも何もしていませんよ。それに…あの人はかなりのお金持ちですからね。言い方は悪いですが、そんな細々とした金額にこだわる方ではありませんよ」
「そう、ですか……」
エルフからも諦めるように説得され、しぶしぶと言った感じで剣持さんもそれ以上の交渉を断念したらしい。
「どうしても気に病むとおっしゃるのでしたら、『新天地』に生息する強力なモンスターの情報収集に手を貸してもらえませんか?あの人が欲しいものはお金ではなく、強力なモンスターとの手に汗握るような戦いですから」
剣持さんに救いの手を指し伸ばしたのは昨日俺と同じテーブルで飯を食ったヘンリーさんだ。俺達のパーティーに所属するエルフの中ではエドワルドさんに次いで副官のような立ち位置にあり、実は国元では結構な役職に就かれている方らしい。
「なるほど…それはいい考えかもしれませんね。ちょうどこれからモンスターの出荷に行くので、その時にでも『協会』の職員の方から話を聞いて来ようと思います」
ヘンリーさんの提案によって、罪悪感?と言う奴が若干薄らいだように見える剣持さんが、モンスターを入れている『マジックバック』を手に、ホテルの横に併設されている『協会』の買取出張所に向かって行った。
その買取所の裏には巨大な冷蔵施設が完備されており、『新天地』で狩られたモンスターのほとんどが、一度そこに保管されることになっているらしい。『ほとんど』と言うのは、東条さん達が倒したワイバーンのような規格外のモンスターは即座に冷蔵車に入れられ地表に運ばれるか、研究所に持ち込まれるからである。
「それじゃ、私たちも同胞からモンスターの情報を仕入れなければならないのでこの辺で」
と、ヘンリーさん達が軽く会釈をしてこの場を去っていく。俺と弓取さんと槍木さんだけが取り残されてしまった。
「……まぁ、アイツの気持ちも分からんでもないな」
「同感です。俺も剣持さんと同じことを考えていましたので」
「ただ、当の本人に断られてしまったんだ。ヘンリーさんの言っていたように、エドワルドさんが喜ぶ情報を集めることで彼の役に立つべきだろうな」
俺と同じく、弓取さん達も剣持さんと同じ考えであったらしい。まぁ、一方的に施される立場に興じることが出来るほど、性格がねじ曲がっている人の方が少ないからな。
「これからどうします?風呂に行くにも、夕食を食べに行くのも少し早すぎる気もしますが?」
すでにお風呂に行ったエドワルドさん達のことが頭をよぎったが、一番功績を上げている彼の行動を批判する気は毛頭ない。同行したドワーフは…エドワルドさんの接待要員だと考えることも出来るか。実際、エドワルドさんと一緒にお酒を飲みかわすことが出来るのは彼らしかいないわけだし。
「俺はちょっとその辺ブラブラして、知り合いを見つけて情報を集めてくるわ」
「俺もそうさせてもらおうか。…どうせなら、後で情報のすり合わせをしないか?」
という槍木さんの提案に乗ることにし、ひとまずは分かれて情報収集をした後、合流して一緒に夕食を摂り、そこで集めた情報について話し合う事になった。
そして俺は、エドワルドさんには悪いが彼の望みが叶わないことを願っていた。あのエドワルドさんが手に汗を握るほどの強敵?そんなもんが表れでもしたら俺のようなパンピーは戦いの余波だけで一瞬で消炭になってしまう自信がある。
どうか、あまりにも強すぎるモンスターと出会いませんようにと、普段は信じてもない神様に願っておいた。




