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案の定『ダンジョン』の前は多くの人がいた。装備品は厚手のツナギに胸当てや関節部にプロテクターを巻き、刃渡り20センチほどの剣鉈や、手斧、刺股を所持している人を多く見かける。そう言った装備品は中級探索者でなくても購入できるため、初級探索者が所持する武装として一般的な装備品である。
俺の肩書は一応ではあるが中級探索者だ。その為より刃渡りの長い剣を購入することも所持することも許可されている。資金的な余裕があれば購入を検討していたが、残念ながら今はそれほど余裕があるというわけではない。服部さんがタダでくれた短刀を背負いカバンから取り出し、抜き出しやすいように腰のベルトに差しておく。
「おや、その短刀は?」
「服部さんから譲り受けたものです。古くなったので自分は新しい武器を買ったが、長年使ってきたので捨てるのが忍びないとのことで」
「なるほど、どうりで新米である檀上さんが所持していている武器であるのに、使い古されていたというわけですか。少し見せてもらってもいいですか?」
「ええ、構いませんよ」
邪魔にならないよう入口から少し逸れた場所に移動し、鞘ごと剣持さんに渡す。メイン武装が剣である彼のことだ。人の使う剣にも興味があるのかもしれない。
「ふむ…『魔鉄』をふんだんに使用されていますね。これは…かなりの逸品と言えるでしょうね。それを渡すという事は、服部さんも余程あなたの事を気にかけているのでしょう」
『魔鉄』とは『ダンジョン』から産出される資源の一つだ。性質こそ鉄に酷似しているが、何故か『魔鉄』を使用して作った武器の方が、『モンスター』に対して大きなダメージを与えることが出来るといった具合に『ダンジョン』との相性が非常に良い。
例えば〈錬金〉の『スキル』を使用して『魔道具』を作成したときもそうだ。同じ製法でもただの鉄と『魔鉄』を使って作成したときにもその性能に大きな差が生じてくる。そのため『魔石』に含まれているエネルギーから電気を作り出す『魔道具』には多くの『魔鉄』が使用されているのだとか。
近年では『ダンジョン』の奥地に挑戦できる実力者も増えてきたため、入手が困難であるがその反面性能の高い『ミスリル』や『アダマンタイト』にそのお株を奪われつつあるが、入手のしやすさから今でも多くの需要がある素材だ。まぁ、入手がしやすいと言っても一般人には手を出すことが憚れるほどのお値段はしているが。
「そう言えば、服部さんってどういった人なんですか?俺のダンジョンに来るようになってそれなりに会話をしていますが、どうも底知れないというか…」
「実は私たちもそれほど親しいというわけでもないんですよ。今回の檀上さんのダンジョンの件で初めて知り合ったぐらいですから」
「そうそう。ただ、俺達がいた支部のお偉いさんから直接彼女を紹介されたんだ。普段は偉そうにしている支部長も彼女の事は“さん”付けで呼んでいたからな。よっぽどの事が起きたんだろうと思ったぜ」
「…いや、余程の事ではあるだろう。ダンジョンの発見ともなればそれなりの案件だ。しかも今までにないダンジョンともなれば尚更のことだ」
「そう言ったわけで、私たちも彼女の事はほとんど知らないんですよ。話してみた感じ、悪い方ではないという事は分かりますが…どうも底知れないというか」
俺と同じような感想を抱いていることに驚き、上級探索者である彼らもまた彼女の底知れなさに少なからず畏怖しているような感じもする。とはいえここで考えていても答えが出てくるというわけでもないので、とりあえず彼女は偉い人なんだと思うことで納得することにしよう。
「…と、すみません。この短剣をお返しします。では、そろそろ行きましょうか」
剣持さんから短剣を返してもらい、それを腰のベルトに差して『ダンジョン』の中に入る。
『ダンジョン』の中は伝え聞いていた通り、薄暗い洞窟の中を奥へ奥へと進んでいくような感じだ。入口付近は他の初級探索者が多くいる為『モンスター』との会合する機会も少なくそれほど緊張するという事もないが、奥に進むにつれて探索者の数は少なくなっていき、『モンスター』との戦闘回数も多くなっていくことだろう。
「入り口付近で何体かゴブリンを倒してある程度の経験を積んで、その後、奥に進みましょう」
「入り口付近のゴブリンは単体で行動している奴が多いが、奥に行くにつれて団体で行動している奴らも多くなるからな。ま、あまりに数が多いようだったら、接敵する前に俺が数を減らしといてやるから、あんま緊張することなく頑張んな」
「…それでも危険だと感じるなら、無理せず俺達を頼るがいい。そのための来たのだからな」
「ありがとうございます。皆さまの事頼りにしています」
上級探索者の温かい言葉が嬉しい。無理をしすぎない程度に頑張ろうと思った。




